ADO16シリーズの誕生から60年
1962年8月15日。たくさんの期待を背負った新モデルが、ブリティッシュ・モーター・コーポレーション(BMC)から発売された。「新鮮で先進的で、胸躍るような名案」といった内容のキャッチコピーとともに。
【画像】誕生から60年 ADO16シリーズの8台 その先輩といえるモーリス・ミニ・マイナーも 全76枚
市場のニーズを理解し、ベストといえるタイミングでディーラーに並んだ、ADO16シリーズの第1弾となるモーリス1100だ。当時の自動車メディアは、驚くような数が売れなければ世の中がおかしい、とさえ評価した。
ADO16シリーズは複数ブランドからモデル展開が進められ、大方の予想通り、長期間英国のベストセラーに君臨した。ビートルズの登場で若者文化に火が付き、世界へと波及していた1960年代。社会的な雰囲気を、見事に捉えていたといえる。
2022年は、ADO16シリーズの登場から60年に当たる。英国の自動車史を振り返っても、特に重要なモデルとして位置づけられる記念すべき生誕を、AUTOCARとして祝わずにはいられない。
そこで今回は、モーリス1100や1300が生産されたグレートブリテン島中南部のカウリーに、8台を集めてみた。BMC内での闘争や混迷したマーケティングなど、ADO16シリーズが巻き起こした様々な事象も思い返されるラインナップといっていいだろう。
オースティンにMG、モーリス、ライレー、ヴァンデンプラ、ウーズレー。1つの親会社に属する6つのブランドから、独自性を持たせたと主張される近似モデルが並行して販売され、ロンドンの街には溢れていた。
重要性に唸らされるモーリス1100
改めてモーリス1100に対面すると、自動車としての重要性に唸らされてしまう。スタイリングを手掛けたのはイタリアのカロッツェリア、ピニンファリーナ社。フロントに横置きされるのは、特徴的なノイズを響かせる4気筒エンジンのAシリーズだ。
まだ珍しかった前輪駆動レイアウトを採用し、広い車内を実現していた。一緒に点滅するウインカーレバーの先端といった、細部にも見入ってしまう。
専用フルードとゴム製シリンダーを用いたハイドロラスティック・サスペンションを考案したのは、技術者のアレックス・モールトン氏。フロントとリアが相互接続され、乗り心地と姿勢制御を両立させるという先進的な技術といえた。
当時のモータースポーツ誌は、次のように褒め称えている。「英国だけでなく欧州全土のライバルを打ち負かす、小さななクルマです」
ブラックの1963年式モーリス1100を大切に乗っているのは、ウィリアム・デイビス氏。両親が所有していた1972年式オースチン・カントリーマンMkIIIとの思い出が転じて、自身もADO16シリーズの虜になってしまったらしい。
「ADO16の走りで最も共感している部分が、ハイドロラスティック・サスペンションの乗り心地。トランスミッションの甲高いノイズも好きです。わたしのモーリス1100は4ドアですが、シートはフロント側に倒れるんですよ」。と話すデイビス。
MG初の前輪駆動モデルとなった1100
9194 DFのナンバーを付けた個体は、当時のBMCの設計やデザインに忠実だという点も見逃せない。モールトンの画期的なアイデアを、イタリアの名門、ピニンファリーナによるボディが包んでいる。
こんな魅力的な組み合わせのコンパクトカーが、60年前の英国では695.7ポンドから購入できた。多くの市民が惹き寄せられても、不思議ではなかった。
2モデル目として、MG 1100がデビューしたのは1962年10月2日。英国価格はモーリス1100より僅かに高い713.9ポンドで、ヒーターと2基のSUキャブレター、ウッドパネルがあしらわれたダッシュボードが追加されていた。電灯付きの灰皿も小粋だった。
MG初の前輪駆動モデルでもあり、アダム・マーシャル氏がオーナーの1966年式は、オリジナルの端正な姿を今に残している。驚くほど状態が良く、ブラックに塗られたボディは凛々しい見た目を一層強めている。
「不動産の営業マンが乗るようなクルマでしょうね」。と、笑みを浮かべながらMG 1100からマーシャルが降りてくる。古い町並みを鉄筋コンクリートの高層ビルへ建て替える現場に、ADO16シリーズで乗り付ける様子が思い浮かぶ。
翌1963年には、ロンドン・モーターショーでオースチン1100が発表された。当時のAUTOCARは、狭いロンドンで充分な駐車スペースがないビジネスマンにとって、理想的なチョイスだと評価した。
この続きは中編にて。
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