スーパーチャージャーは本来「過給器全般」を指す言葉
今の時代の「国産最強マシン」は何かと考えてみたとき様々なモデルが思い浮かぶだろうが、有力候補のひとつがカワサキNinja H2 CARBON(ニンジャH2カーボン)だろう。
スーパーチャージャーを組み合わせることで最高出力170kW(231PS)を発揮する総排気量998ccの4気筒エンジンは、ストリートを走れる国産ユニットとしては最高峰といえる存在だ。
【画像16点】80年代「夢のターボ車」からリッター200馬力の最新スーパーチャージャー車まで、カワサキ過給気バイクの歴史
では、そのスーパーチャージャーとはどんなものなのだろうか。四輪での普及度合いも含めて量産レベルで使われているテクノロジーについて整理してみよう。
そもそも「スーパーチャージャー」を日本語にすると「過給機」となる。
通常の自然吸気のエンジンでは大気圧とシリンダー内の圧力差によって空気(混合気)を吸い込むが、過給機というのは吸気圧を高めることで、自然吸気以上の空気をシリンダーに押し込むことができるデバイスのことだ。
そして過給機は、主に機械式スーパーチャージャーと排気エネルギーを利用するターボチャージャーに分類される。
そのため本来は「過給機全般」を指すスーパーチャージャーという言葉だが、「機械式スーパーチャージャー」を意味する用語として使われていることが多い。
カワサキが前述のNinja H2 CARBONを始め、ツアラーモデルのNinja H2 SXシリーズ、ネイキッドモデルのZ H2に使っているスーパーチャージャーも、より正確に記せば「機械式スーパーチャージャー」の略称である。
排気を再利用するターボチャージャーとは異なる構造となっているのだ。
カワサキの「スーパーチャージャー」搭載モデル
ツアラーモデルの「Ninja H2 SX」シリーズ。
Ninja H2のエンジンをベースに、燃費とパワーを両立するため再設計され「バランス型スーパーチャージドエンジン」を搭載(排気量は998ccで変わらず)。
写真は電子制御サスペンションを装備した上級仕様Ninja H2 SX SE+で、最高出力は200馬力、ラムエア加圧時は210馬力。価格は282万7000円。
カワサキはネイキッドにもスーパーチャージャー付きモデル「Z H2」シリーズをラインアップ。
エンジンはNinja H2 SXシリーズと同系の「バランス型スーパーチャージドエンジン」で、最高出力は200馬力。写真は電子制御サスペンション付きの上級仕様Z H2 SEで、価格は217万8000円
ターボチャージャーの仕組みとは
まずは、ターボチャージャーの構造はどうなっているのかを説明しよう。
市販の二輪・四輪で使われるターボチャージャーは、ひとつの軸の両端に風車上の羽根をつけ、その周りをハウジングで取り囲んだ構造になっている。排気によって回るほうの羽根をタービンブレード、吸気を圧縮して押し込むほうの羽根をコンプレッサーブレードと呼ぶ。
その構造上、タービンブレードとコンプレッサーブレードの回転数は1:1となる。つまり排気エネルギーが大きいほどコンプレッサーブレードの回転数は高まり、多くの空気を圧縮してエンジンに送り込むことができるというわけだ。
その許容回転数は1分間に12~25万回転となり、軸をどれだけスムースに回せるかはターボチャージャーの性能に大きく左右する。そのためオイルによってフローティングさせてみたり、高精度なボールベアリングで支持してみたりすることが一般的だ。
さらに軸部分が高熱で焼き付かないようにベアリング部分を水冷式とすることもスタンダードになっている。
そしてタービンブレードの回転が上がらないければ過給が盛り上がってこないというターボチャージャーの構造から問題になるのが「ターボラグ」と呼ばれるものだ。
アクセルを開けてから過給が始まるまでに時間差が生まれてしまう。それを防ぐために小さめのタービンブレードを使って過給の立ち上がりを早めようとすると、今度は回転数が上がったときに排気エネルギーを有効に活用できなくなり、ピークパワーの面では不利になってしまう。
レスポンスとハイパワーを両立するのが難しい点はターボチャージャーの課題だ。
そこをクリアするためのアイデアが、小さめのターボチャージャーを2つ使った構造の「ツインターボ」だ。
ターボチャージャーのレイアウトによってパラレルタイプ、シーケンシャルタイプとあるが、複数のターボチャージャーによってレスポンスとパワーを両立させるという狙いは同様だ。
似たような構造に「ツインスクロールターボチャージャー」というのもあるが、こちらは排気の通り道を2つにわけることで排気干渉を減らし、レスポンスを向上させようというアイデアによるもの。通常の180度クランクを持つ4気筒エンジンでは1番と4番、2番と3番を組にすることが一般的だ。
なお、ターボチャージャーを回す力のことを排気の流速と理解しがちだが、利用しているのは排気の熱エネルギーである。そのため本質的にはエンジンからターボチャージャーまでは最短でつなぎ、熱のロスを最小限に抑えることがレスポンスにつながってくる。
というわけで、F1に使っているような発電機を兼ねた特殊なケースを除き、量産車に使われているターボチャージャーの構造は基本的に共通となっている。
スーパーチャージャーにも「コンプレッサー」と「ブロワー」の種類がある
その一方で、機械式スーパーチャージャー(以下、スーパーチャージャー)には複数の異なるタイプが存在している。
ざっと挙げると「ルーツ式」、「リショルム式」、「遠心式」、「電動ファン式」といったところになるだろうか。
このうち電動ファン式を除いて、いずれもエンジンのクランク出力によって駆動されている。
ターボチャージャーが排気という捨ててしまうエネルギーを回収する技術なのに対して、スーパーチャージャーはクランク出力という、これから駆動力になる「エンジンのエネルギーの一部」を過給のために利用するというものだ。
つまり足し算引き算で表現すれば、ターボチャージャーは基本的にプラスになる一方の足し算だが、スーパーチャージャーの場合は引き算をした結果としてプラスにするということになり、エネルギー効率ではターボチャージャーには敵わない。
ただし、クランク出力によって過給機を動かすということはレスポンスの面で非常に有利だ。また排ガスの熱を奪わないので、触媒を早期に活性化させやすいなど環境対応の面でもアドバンテージがある。
またレイアウトについても比較的自由度が高いのはスーパーチャージャーの特徴だ。
そんなスーパーチャージャーだが、前述した4タイプは「ブロワー」(送風機)と「コンプレッサー」(過給機)にわけることができる。
前者は、文字通りにただ空気を送るだけの機能で、後者は空気を圧縮することが違いだ。なお、「ルーツ式」と「電動ファン式」がブロワー、「リショルム式」と「遠心式」がコンプレッサーに分類される。
ちなみに、カワサキのNinja H2シリーズが使っているのは遠心式スーパーチャージャーで、構造としては「ターボチャージャーにおけるタービンブレード」に当たる部分をチェーンドライブとして、クランクシャフトから遊星歯車を介して駆動出力を取り出している。
総減速比は9.18を確保、エンジン回転数が1万4000rpmのとき、コンプレッサーブレードは約13万rpmで回すことが可能になっている。
そんなカワサキNinja H2系エンジンではスーパーチャージャーとスロットルボディ上部の吸気チャンバー(サージタンク)は最短距離でつながれている。
そもそもカワサキが遠心式スーパーチャージャーを採用した理由は、モーターサイクルに求められるレスポンスと、スーパースポーツに求められるハイパワーを両立するために、ターボチャージャーのターボラグはどうしても問題であると考えたというから、こうした最短距離でのレイアウトは納得できる。
ただし、これが四輪車用となると過給機とサージタンクの中間にインタークーラーと呼ばれる冷却装置を置くことが多い。
インタークーラーの役割は?
インタークーラーが冷やすのは吸入気である。
ご存知のように、気体は圧力を高めると温度が上がる。つまり同一体積における密度が下がるのだ。エンジンが吸い込む空気というのは体積ベースであるから、吸気温度が高いと密度が下がってしまい結果的に取り込める酸素分子の量は減ってしまう。
そこでインタークーラーによって吸気を少しでも冷やすことによって吸気の密度を高めようというわけだ。
もちろん、インタークーラーによる圧力損失や配管が長くなることでのレスポンスの悪化というネガもあるので、そうしたマイナスポイントとピークパワーにおけるメリットを考慮した上で、インタークーラーの有無やインタークーラー自体のサイズやレイアウト(冷却性能や配管の長さに影響する)は決められる。
二輪車でインタークーラーが採用されるケースが少ないのはレスポンスにおけるネガが大きすぎるからであろう。逆にいうと、レスポンスが求められないような使い方であればインタークーラーの装着というのは考慮されてしかるべきだ。
「ただ付ければいい」ではない過給器
最後に、過給する場合にエンジン本体に求められる要件をまとめておこう。
ピークパワーはもちろん、最大トルクが自然吸気エンジンよりも大きくなるため、クランクシャフトやコンロッドといった部分の強度が求められる。
当然、クラッチやトランスミッション、チェーンなどの駆動系に至るまで大トルクがかかることを想定した強度・容量を持たせることが必要だ。
また、過給するということは自然吸気よりも多くの空気をシリンダー内に送り込めるということだ。そのためピストンによって圧縮される空気量も増え、上死点での燃焼室内圧力は高くなる。そうなるとノッキング(異常燃焼)が起きやすくなるため、ベースとなる圧縮比を下げるなどノッキング対策をしておく必要もある。
たとえばハイパワーな自然吸気エンジンに、単純にスーパーチャージャーをセットしても、過給の旨味を引き出せないのだ。
逆に、自然吸気エンジンにスーパーチャージャーを後付けする場合は過給圧設定を控えめにするなどノッキングを起こさないセッティングが重要だ。
もちろん、ハイパワーを出すということは燃料噴射量も増やさないといけないため、燃料ポンプやインジェクターの大容量化は欠かせないし、過給特性に合わせた噴射プログラムや点火時期などのセッティングも専用に仕上げる必要がある。
付録:新旧カワサキ「過給器バイク」
1980年代、国産メーカーが「ターボ付きバイク」をこぞって発表したが、カワサキが1984年に送り出したのが輸出専用車の「750ターボ」。
ベースとなったのはGPz750で、排気量738ccの空冷4気筒エンジンに日立製HT-10型ターボユニットを装着。国産4メーカーの「ターボ付きバイク」の中では最後発だったが、112馬力と最もパワーがあるモデルとなっていた。
当然「ターボラグ」は認識されていて、その対策のため、排気のエネルギーをなるべく有効活用するべくターボチャージャーを排気ポート出口になるべく近付け配置。また、キャブレター全盛だった当時だが、燃料供給にはインジェクション(カワサキはDFI=デジタル・フューエル・インジェクションと呼称)を採用し、スムーズなスロットルレスポンスを追求しようとしていた。
もちろん、パワー・トルクとも大幅にアップしたエンジンにあわせ、クラッチ、トランスミッションなど動力伝達系は、サイズアップや材質変更によって強化されたものとなっていた。
■カワサキ 750ターボ主要諸元(1984年モデル)
[エンジン・性能]
種類:ターボチャージャー付き空冷4サイクル並列4気筒DOHC2バルブ ボア・ストローク:66mm×54mm 総排気量:738cc 最高出力:112ps/9000rpm 最大トルク:10.1kgm/6500rpm 変速機:5段リターン
[寸法・重量]
全長:2190 全幅:740 全高:1260 ホイールベース:1490 シート高:──(各mm) タイヤサイズ:F110/90V18 R130/80V18 乾燥重量:233kg 燃料タンク容量:18L
■カワサキ Ninja H2 CARBON主要諸元(2020年モデル)
[エンジン・性能]
種類:スーパーチャージャー付き水冷4サイクル並列4気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:76.0mm×55.0mm 総排気量:998cc 最高出力:170kW<231ps>/1万1500rpm ラムエア加圧時最高出力:178kW<242ps>/1万1500rpm 最大トルク:141Nm<14.4kgm>/1万1000rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2085 全幅:770 全高:1125 ホイールベース:1455 シート高:825(各mm) タイヤサイズ:F120/70ZR17 R200/55ZR17 車両重量:238kg 燃料タンク容量:17L
レポート●山本晋也/上野茂岐(付録部分) 写真●カワサキ/ホンダ/日産/八重洲出版 編集●上野茂岐
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