まったく異なるエンジンを収める同一ボディ
未来を導くカギが、過去に存在していたという場合がある。ただし、自動車のパワートレインで当てはまる場合は殆どない。以前より強力で上質でありながら、優れたエネルギー効率を実現する必要があるためだ。
【画像】同じボディに3種のエンジン シルバーセラフとアルナージ 両ブランドの現行モデルも 全114枚
珍しい例外の1つが、1998年に発売されたベントレー・アルナージ。確かに素晴らしい内容へ仕上がっていたが、予想以上の販売へ結びつけた功労者は、約30年前に開発されたV型12気筒エンジンだった。過去の技術が、当時のベントレーを救ったといえる。
英国の名門ブランドが遂げた再興を振り返るため、今回は3台の大型サルーンを揃えてみた。ベントレーとともに歴史を歩んだ、同時期のロールス・ロイスとともに。
実際のところ、この3台のボディはほぼ同じ。しかし、まったく異なるエンジンが長いボンネット内に収まっている。
ダーク・ブルーのロールス・ロイス・シルバーセラフに載るのは、5.4Lの自然吸気V型12気筒。ダーク・グリーンのベントレー・アルナージ、後のグリーンレーベルには、4.4LのツインターボV型8気筒が載っている。
そして、パープル・シルバーのベントレー・アルナージ Tを動かすのは、6.75LのツインターボV型8気筒。プラットフォームを共有し、並行的に販売されていたにも関わらず、それぞれ異なる多気筒エンジンが載っていた。
BMWエンジンが前提の新プラットフォーム
3種類のエンジンが採用されるに至った理由は、1990年代にロールス・ロイスとベントレーを襲ったブランドの買収劇。ご存知の通り、現在の前者はBMW傘下にあり、後者はフォルクスワーゲン・グループの一員になっている。
これら3台の先代に当たるモデルは、ロールス・ロイス・シルバースピリットとベントレー・ミュルザンヌ。その起源は、1965年のシルバーシャドウとTシリーズまで遡った。新しいサルーンが待望されていた時期と重なった。
1990年代、生産拠点のチェシャー州クルーの工場とともに、ロールス・ロイスとベントレーを所有していたのは、英国の機械製造大手だったヴィッカーズ社。ところが同社は、コストを理由に新モデルの開発へブレーキをかけていた。
それでも、長年登用されてきた6.75Lの自然吸気V型8気筒エンジンは、厳しさを増す排出ガス規制に対応しきれなくなっていた。そこで、パワートレインを外部から調達することを前提に、新しいプラットフォームの設計が遅れながらも始まった。
長い歴史を持つブランドにとってはリスキーな戦略だったが、様々なエンジンが検討され、最終的に選ばれたのはBMW。ロールス・ロイスとベントレーで差別化を図るため、まったく異なるユニットが手配された。
自然吸気5.4L V12とツインターボ4.4L V8
シルバーセラフ用となったのは、5379ccの自然吸気V型12気筒。BMW 750iに搭載されていた、M73型のオーバーヘッドカム・ユニットで、最高出力326psを発揮。ZF社製の5速ATと組み合わされた。
シルバースピリットに載っていた6.75L V8エンジンより遥かに有能で、ユーロ3規制にも対応。滑らかなオートマティックとの相性もバッチリだった。
他方、ベントレーはスポーティな方向性を選んだ。BMW 540iや840Ciへ採用された、ダブル・オーバーヘッド・カムのM62型4.4L V型8気筒がアルナージへ搭載された。
当時はヴィッカーズ社の傘下にあった、コスワースの技術者によりツインターボを合体。最高出力は355psへ引き上げられた。トランスミッションは、同じZF社製の5速オートマティックが組まれた。
両ブランドに好適なエンジンを受け止めるプラットフォームは、まったくの新設計。ボディ剛性は、先代から65%も高められた。
サスペンションは、前後ともコイルスプリングとウィッシュボーンを採用した独立懸架式。リア側には、車高調整機能も実装された。
アルナージの方がスポーティな設定で、スプリングとダンパーはシルバーセラフよりタイト。ステアリングはラック&ピニオン式で正確性を高めつつ、これも2台でチューニングが異なった。
贅を尽くした素材で仕立てられたインテリア
先代より全長が約125mm、ホイールベースが約50mm長いスタイリングを描いたのは、デザイナーのスティーブ・ハーパー氏。滑らかなボディラインで、実際よりコンパクトに見えるよう工夫された。
ロールス・ロイスたらしめた、フロントのパルテノングリルは穏やかなデザインに。大胆なウェストラインは、1950年代のシルバークラウドに影響を受けたもの。テールエンドへ向けてなだらかにカーブを描き、全体の印象は非常にたおやかだ。
インテリアは、贅を尽くした素材で仕立てられた。木目の美しいウッドパネルに、ウィルトン・カーペット社のカーペット、コノリー社のレザーが惜しみなく用いられ、トラディショナルでラグジュアリー。
ダッシュボードの基本構造は共有していたものの、メーターやスイッチ類のレイアウトにも2台で違いが与えられた。メーターの枚数が多いのはアルナージ。シルバーセラフには、コラムシフトが採用された。
開発は1998年までに完了。ロールス・ロイスというブランドを引き立てるため、同年のスイス・ジュネーブ・モーターショーで、シルバーセラフがひと足先に公開された。
アルナージは、ブランドの伝統を振り返り、2か月後のル・マンでお披露目。サルト・サーキットの公道区間に、アルナージ・コーナーが存在することを考えれば、最適な場所といえた。
しかし、2台の将来には不安がつきまとった。発表前から、ヴィッカーズ社が両ブランド売却するのではないかという噂が流れ、パワートレインを提供するBMWが経営を継ぐだろうという憶測もあった。
この続きは後編にて。
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みんなのコメント
壊れたら…なんて考えなけりゃ買い!!だわ