ここ数年、大雨による水害のニュースを目にする機会が多い。ここで問題となるのが道路の冠水だ。台風やゲリラ豪雨によって短時間に大量の雨が降ると排水が追いつかず、道路上に水が溢れ出してしまう。こうした冠水路をクルマで走ることは避けるように言われているが、その理由をご存じだろうか?
今回は冠水路の走行がクルマに与える悪影響や、冠水してしまった場合の対処法について紹介していく。特にこれから秋にかけては台風や線状降水帯による豪雨が多発する時期であるため、道路の冠水も起きやすくなる。万が一の際にも落ち着いた対応ができるように参考にしていただきたい。
水害から身を守れ!! 豪雨時の運転は超危険!! クルマが冠水路を走っちゃいけないワケ
文/入江 凱、写真/トヨタ、写真AC、Favcars.com
クルマが冠水路を走行できる限界ってどれぐらい?
高架下やアンダーパスは大雨の際に冠水が起きやすく、SUVのように背が高いクルマであっても走行不能になってしまう恐れがある。水深を目視で把握するのは難しいため迂回しよう
クルマが問題なく走ることができる水深はどのくらいまでなのか? 実際に冠水路を走行した実験をJAFが行っているのでご紹介しよう。
JAFでは冠水したアンダーパスを想定した全長30mのコースを用意し、セダンとSUVの2車種による走行の可否を検証した。水深は30cmと60cm、進入速度は10km/hと30km/hと条件を変えながらテストが行われた。
実験によると、水深30cmであればセダン、SUVともに走りきることができた。しかし、水深60cmになるとセダンは10km/hでの進入した場合は多少の走行はできたものの、最終的にはエンジンが停止してしまった。
エンジンルームの位置が高いSUVにおいては、10km/hでの進入であれば走りきることができたが、30km/hではナンバープレートが歪むほどの衝撃を受けるとともに10mでエンジンが停止してしまった。
冠水路走行テスト(JAFユーザーテスト)
ちなみに、水深30cmとは成人男性の場合、おおよそ膝下くらいの水位、水深60cmは腿のあたりがつかるくらいと考えればいいだろう。
ただし、この実験結果は一例であり、車両の設計やさまざまな条件によって結果は異なってくるため30cmというのは一つの目安と考えておこう。
実際には冠水時に正確な水深を計ることはできないし、水の中に落下物などがある可能性もある。道路が冠水したら、安易に「これぐらいなら大丈夫」と自己判断をせず、進入しないことが原則だ。
冠水路を走った時に発生するトラブルは?
冠水路をクルマで走行するとさまざまなトラブルの発生リスクが高まる。水深が床面の高さを超えればマフラーから水が入り電気系統が故障してパワーウィンドウなどが作動しなくなることもある
JAFの実験でも示されているが、クルマのエンジンが停止してしまった原因はエアインテークと呼ばれる空気の取り入れ口からエンジン内部にまで水が入り込んでしまったことが大きな原因。
エンジンは圧縮した燃料と空気の混合気を燃焼させることで作動するが、エンジン内部に水が入ってしまうと適切に圧縮が行えず、最悪の場合はエンジン内部が破壊されてしまうウォーターハンマー現象と呼ばれる重大なトラブルを招く可能性もある。
他にも冠水路へ進入したり、冠水路の中で動けなくなってしまうことで不具合を起こしたり、乗員に危険を招く場合がある。いくつか具体例を紹介しよう。
■タイヤ
タイヤが完全に水没してしまうレベルの水深になると、浮力によって車体が浮いてしまい、しっかりとタイヤが接地できなくなり、クルマを動かすことができなくなる恐れがある。水の流れが急な場合、そのまま流されて高い所から落下したり、河川などの危険な場所に流されてしまう危険性がある。
■マフラー
クルマの床面と同程度の高さにあることが多いマフラーはエアインテーク同様に水が浸入しやすく、その水がエンジン内部に進入してしまい、エンジン停止やウォーターハンマー現象が起きる恐れがある。
■ドア
水の中でエンジンが停止しまった場合、はじめにドアを開けて脱出を試みるはずだ。しかし、水深がドアの下端を超えてしまうと外からの水圧がドアにかかり、高さが増すほどに開けるのは困難になっていく。
形状にもよるが、一般的にドアの半分ほどの高さにまでなってしまうと内側から開けることが難しくなると言われている。たとえスライドドアであっても、開ける時に一度外側にドアを押し出す必要があることと、ドア自体が重く大きいため、強い水圧がかかると開かなくなる。
■電気系統
床面を超える浸水があった場合、電気系統がショートして電動スライドドアやパワーウインドウが操作不能になる恐れがある。
また、ハイブリッド車や電気自動車では駆動用バッテリーなどがシート下やトランク下、センターコンソールの下といった車体の下部に置かれていることも多い。防水対策は施されているものの、大量の水が浸入してしまえば故障は避けられない。当然、故障すればガソリン車同様、エンジンがストップしてしまう。
クルマが冠水路にハマってしまった時の対処法
水圧によってドアが開かず、パワーウィンドウも動かなければ脱出用ハンマーなどを使い窓ガラスを割って脱出する。ただし、合わせガラスは割ることが難しいので要注意
危険を伴うと認識しつつも、実際には冠水路をなんとか走り抜けようという人がほとんどだろう。そんな現実を鑑みると、クルマが冠水路にハマってしまった場合の対処法は絶対に知っておくべきだ。
まず心してほしいのは、時間が経てばさらに水かさが増すかもしれない状況でそのまま車内に残っているのは危険ということだ。冠水路にハマって動けなくなったら、まずはエンジンを停止して安全に脱出することを考えよう。ドアが開かなかったとしても、水深が窓の高さより低く、パワーウインドウが生きていれば窓を開けて脱出を。
電気系統がショートしてパワーウインドウが作動しない場合は、市販の脱出用のハンマーなどを使って窓を割って脱出しよう。脱出ハンマーは事故に遭った際などに外れなくなったシートベルトを切断する機能が付いていることが多いため、常備することをお薦めする。
ただし、フロントガラスに飛散防止などを目的とした特殊なガラスである「合わせガラス」が使用されている場合は、ハンマーを使ったとしても粉砕することはできず、脱出できるほどの穴を開けるのも困難だ。
フロントガラスが割れなかった場合、サイドやリアのガラスを割って脱出するようにしよう。ただし、一部の車種ではフロント以外のドアガラスにも合わせガラスが採用されていることがあるので、事前にディーラーに確認しておくといいだろう。
水圧でドアも開かず、窓ガラスを割ることもできない場合、車内に水が満ちるのを待つしかない。車内に水が入ってくるのは不安だろうが、車外と車内の水の高さが同じになると圧力差がなくなり、ドアは開くようになるので、落ち着いてシートベルトを外すなど、脱出の準備をしながら圧力差がなくなりそうなタイミングを見計らい、強くドアを押し開け脱出しよう。
また、水が引いた後の対処にも注意が必要だ。一度浸水したクルマのエンジンをかけたりするのは重大な故障や車両火災、感電を招くため絶対にNG。エンジンをかけずに、ディーラーやロードサービスに連絡をとり、さらに発火のリスクを回避するためにバッテリーのマイナス端子を外しておこう。
注意してほしいのはハイブリッド車や電気自動車。これらに使われている高電圧のバッテリーは大変危険なので絶対に触らないようにしよう。
浸水してしまったクルマはその後、今まで通りに乗れる?
道に溢れた水には下水や河川の泥なども含まれており、車内は乾いても独特の臭いが残る。海水が混ざっていた場合はさらに金属部分の腐食も急速に進行するため深刻なダメージとなってしまう
程度にもよるが、残念ながら一度水没や浸水してしまったクルマを元のように乗るのは難しい……。エンジンや電気系に不調が発生しやすくなることはもちろんのこと、車内に独特の臭いが残ってしまったりもする。道路に溢れ出た水は雨水だけでなく、排水溝やマンホールから溢れた汚水や河川の泥、場所によっては海水などが含まれていることもあるからだ。また、目に見えない金属部分の腐食が進んでしまったりすることもある。
修理費用は高額となるうえに、水没や浸水の影響を完全に取り除くことは難しく、ある程度修理をしても「どこにいつ不具合が出るかわからないクルマ」ということで、水没したことがあるクルマは、その他の修復歴のあるクルマ以上に中古車の買い取り業者には避けられる傾向がある。
水害の場合は車両保険に加入していれば、補償の対象となるが、保険会社やプランによって補償内容が異なるため、加入前に確認をする必要がある。線状降水帯が頻繁に発生するなど、今まで水害とは無縁と思われてきたような地域でも水害が発生している昨今だけに、今まで車両保険には加入していなかったという人も今後は加入を検討することをお薦めする。
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