補助金の支給も始まり、BEVが大人気と噂されるアメリカ。はたして本当にそうなのか? 現地に出かけたジャーナリストが人気の日本車を分析したら、意外にも検討している日本車の姿が見えてきた!
文/小林敦志、写真/小林敦志、TOYOTA、NISSAN、HONDA、SUBARU、MITSUBISHI
カムリ? RAV4? プリウス? アメリカ人が一番好きな日本車を調べてみたら意外なあのクルマだった!
■アメリカ西海岸で日本車が人気の理由は「地の利」?
アメリカ西海岸……特に南カリフォルニアあたりをみると、BEV以外ではトヨタ RAV4をはじめとした日本車が人気
2023年9月のアメリカ国内におけるメーカー別新車販売台数をみると、トップは22万7301台を販売したGM(ゼネラルモーターズ)。
以下、2位トヨタ、3位フォード、4位ステランティス、5位ホンダ、6位ヒョンデ、7位日産、8位起亜(韓国)、9位スバル、10位テスラと続く。
ちなみに2021暦年締め年間新車販売台数では、トヨタが史上初めてトップとなっている。
遠い昔に南カリフォルニア在住の事情通から、「ロサンゼルス周辺のクルマ事情だけでアメリカのクルマ事情を知ったと思うな」といわれた。
すでにご承知の通り、カリフォルニア州は2035年以降ICE(内燃機関)車の販売を禁止するとしている。実現可能性には疑問を呈する声も多いが、確かに現状でも、街中ではBEV(バッテリー電気自動車)がかなり多く走っている。
しかし、その風景が必ずしもカリフォルニア州以外のアメリカでも当たり前の光景というわけでもない。
カリフォルニア州内でも、もう少し視界を広げてみると、BEV以外で走っているクルマの中では日本車が圧倒的に多く、次いで韓国車、欧州車そしてアメリカンブランド車といった感覚を筆者は持っている。
そもそも、いまのように日本メーカーがアメリカで車両の現地生産を行わなかった頃は、カリフォルニア州が日本から輸出された車両の陸揚げ地であったという関係もあり、日本メーカーの現地子会社がカリフォルニア州に本社を置いた。
その後はアメリカ国内での現地生産も増えたことなどもあり、日産の現地子会社がテネシー州へ、トヨタの現地子会社はテキサス州へと本社を移転させた。
それでも、いまもホンダの現地子会社はロサンゼルス近郊のトーランス市に本社があり、韓国ヒョンデ自動車の現地子会社も南カリフォルニア地域に本社を置いている。
つまり南カリフォルニアは太平洋を挟んで東アジアと比較的近い位置関係もあり、日本車や韓国車など東アジア系ブランドが馴染みやすい環境となっていたのである。
アメリカの中でも、特に“クルマ社会が先鋭化している”といえる南カリフォルニアでは、一時大気汚染が深刻となり、クリーンなクルマがより求められるようになった。
さらに幾度かの中東戦争などを経てガソリン価格の高騰を招き、燃費性能の良いクルマもニーズが高まった。
そのようなニーズを当時唯一ともいっていいほど解決していたのが日本車だったから、多くのユーザーが飛びついたのである。
■内陸ではアメリカンブランドが優勢、東西沿岸部では日本車に軍配
アメリカの都市部ではトヨタ カムリをよく見かけるという。ほかには前出のRAV4やカローラクロス、ホンダ CR-VなどのSUVタイプが人気のようだ
アメリカの国土は大変広く、アメリカンブランドの本社や生産拠点が集中しているミシガン州デトロイト市周辺では、やはり圧倒的にアメリカンブランド車が目立っている。
日本車をはじめとした海外ブランド車は、南カリフォニアのある西海岸、及びニューヨークなどがある東海岸など“東西沿岸部”においては、程度の差はあるが、数多く見かけることができる。
内陸部では、ピックアップトラックニーズが多いことなどもあり、アメリカンブランド車の多いが、主要都市ではプリウスをはじめとする日系HEV(ハイブリッド車)など海外ブランド車に乗る“感度のいい人”も目立ってきている。
南カリフォルニアだけでなく、アメリカの多くの都市でよく見かけるのがトヨタ・カムリ及びRAV4である。
2023年9月単月のそれぞれのアメリカ国内での販売台数は、カムリが2万5485台、RAV4が3万8098台で、それぞれ乗用車カテゴリー、SUVカテゴリーでトヨタブランド内トップとなっている。
アメリカでは現状ピックアップトラックも含めると、アメリカ国内新車販売台数全体の約8割が、SUV及びピックアップトラックとなっている。
いまのように圧倒的にSUVがよく売れるようになる前は、カムリが日本でのかつてのカローラ・セダンのように爆発的に売れていた。ちなみに現行型は2.5L直4とハイブリッドが設定されている。
カローラセダンサイズでは、アメリカにおいてはボディサイズが小さいだけでなく、ガソリンタンク容量も小さいなど、やや使い勝手に難もあり、カムリやホンダ・アコード、日産アルティマといった、Dセグメントセダンが販売主力車種となっていた。
しかしいまはSUVが圧倒的に売れており、カムリの代わりにRAV4が、アコードの代わりにCR-V、アルティマに代わりローグ(日本でのエクストレイルに相当)が各メーカーで主力車種になっている。
ただし筆者の滞在中は、地元の製油所がメンテナンスで一部停止していたこともあり、また供給量が十分ではなかったこともあり、もとからの高値傾向に輪をかけるようにガソリン価格が日々高騰していた。
高値傾向がいっこうに収束に向かわないなか、一部ではダウンサイズへの動きが目立っていたのが今回は印象的であった。
ダウンサイズニーズが目立ってことで、トヨタ カローラ セダンが昨年より多く見えたのはなんとなくわかるが、昨年はあまり見かけなかったトヨタ カローラクロスが多数走っているのは新鮮な光景であった。
サイズがやや小さいので販売苦戦するかなとも思っていたのだが、ダウンサイズニーズをうまく取り込んでいるようであった。
新型プリウスは、アメリカでは今年4月より正式発売されたのだが、比較的発売されて間もないタイミングながら結構な頻度で見かけることができた。
■アメリカでは「ルックスのインパクト」も重要?
アメリカで人気の日産 ローグは、日本でいうとエクストレイルに相当する。さらにローグの格上となるパスファインダーも人気
日産車ではローグ、そしてローグの格上となるパスファインダーも見かけることができた。日本車のなかでは生産余力があるほうなのか、レンタカーでも多く用意されていた。
日本車にしてはかなりインパクトのあるスタイルなので、より目立っていたのも印象的であった。ホンダでは発売されたばかりのアコードや、日本名ZR-VとなるHR-Vも見かけることができた。
興味深いのは、三菱アウトランダーが意外なほど多く走っていたこと。そこでアメリカ国内での新車販売台数を調べると、2023年1月から9月の累計販売台数が約3.8万台となっていた。
ちなみに日本での2023事業年度締め上半期(2023年4月~9月)新車販売台数では、6214台となっていた。
月販平均台数でみると、アメリカが約4200台なのに対し、日本は約1035台。アメリカではガソリンエンジン車がラインナップされているなど、販売環境が日本とは同じとは言えないものの、月販平均台数で4倍近く売れている。
加えて南カリフォルニア地域が自動車の大消費地でもあり、ニーズも集中しているようで、結果的によく街中で見かけることができたようだ。
■最近はスバル車の人気が急上昇中!
近年人気が高まっているスバル アウトバック。もともと走破性の高さから降雪地域などでは人気だったが、都市部でも多く見かけるようになってきたという
スバル車は多く見かけるのだが、見かけるスバル車はクロストレックやフォレスターが多く、あとはWRX系であった。
しかし、今年訪れるとアウトバックが頻繁にフリーウェイなどを走っていた。アウトバックは以前よりアメリカでは人気の高いモデルであったが、五大湖周辺などの降雪地域や、カリフォルニアでも北部で人気が高いものと認識していた。
かつてハリウッド映画のなかでは、学校の先生や大学教授はやや年式が古く、インテリジェンスが高かったりする職業に就いている人は新車のボルボのステーションワゴンによく乗っていた。
しかし、それがいつからかスバル・アウトバックに代わっていった。つまり、実世界においてもボルボのステーションワゴンに乗っていた層が、(すべてとは言わないが)アウトバックへスライドしてきたようなのである。
日本でもマルシェなどと銘打ってオーガニック系野菜などを販売するようなオシャレなマーケットが設けられることがあるが、南カリフォルニアでのスバルは、そのような場所を使って販売促進活動をするような光景が目立っていたとのこと。
スバルについては、南カリフォルニアでも感度の良い人たちがここへきて乗るのが目立ってきた、と地元で聞いている。
日本車全体に有利ともいえる話も聞いた。南カリフォルニアではBEV(バッテリー電気自動車)の普及というインパクトの影に隠れがちとなるのだが、HEV(ハイブリッド車)がここへきて注目されてきている。
もともとエコ意識の高い地域なのだが、それでもいままでは“HEV=プリウス”という印象があまりにも強く、プリウス以外のトヨタのHEVすらあまり注目されてこなかった。
しかしいま、BEVまでは一気に進めないものの、現状のガソリンの高値傾向を受け、燃料代をセーブするためにも、プリウス以外のHEVが注目されているようなのだ。
HEVとなると選択肢の中心は自ずと日本車となるので、日本車にとっては追い風が吹いているといってもいい状況となっている。
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みんなのコメント
もっとも、ボルボという中国メーカーの車をアメリカで乗るのは危険ともいえる。彼らは突然撤退、アフターフォローなどしないでも平気な面できる国民性。北欧の仮面を被った中国メーカー。この前も日本のテレビ番組で、ボルボの社員が自社を北欧メーカーのように説明していたことに違和感を覚えた。