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【国内試乗】”小ベンツ”と揶揄されたのも今は昔。コンパクト・メルセデスの始祖「W201」は後世に遺したい最善のメルセデス

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【国内試乗】”小ベンツ”と揶揄されたのも今は昔。コンパクト・メルセデスの始祖「W201」は後世に遺したい最善のメルセデス

引き締まったボディが"小ベンツ"などと揶揄されることもあった190E。現代のCクラスの祖先にして、Aクラスをはじめとするコンパクト・メルセデスの始祖でもあったこの4ドアセダンは、メルセデスの哲学を凝縮しつつ、しかし同世代のW124とは違う個性を備えている。

異なる個性の兄弟車

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バキュームで圧縮を掛けたようなボディの寸法は、現代のAクラスと比較してもなお小さい。だがスリーポインテッドスターを掲げたフロントグリルは少しも臆することなく引き締まった表情を形作っている。W124とともに、メルセデスのヒストリーにひとつの忘れ得ぬ時代を刻んだ"イチキューマルイー"ことW201である。

【写真9枚】後世に遺したい最善のコンパクトメルセデス「W201」の詳細を写真で見る

経年変化によって少しザラついた手触りになっている樹脂製のドアハンドルに期待が高まる。開閉時の重みとメカニカルな感触は、業務用の巨大な冷蔵庫のそれに似ている。大きな金属パーツ同士が精緻に噛合い、ウェザーストリップの密閉により室内の気圧が少しだけ高まる。

ドライバーの目の前には径の大きな樹脂製のステアリングが迫る。スタッガード式のパターンを持ったシフトレバーの握りもやはり樹脂製のシンプルなもの。室内に色味を与えているゼブラウッドのパネルはシフト周りの1ヵ所だけ。高級車たらんとして積極的に飾りつけるのではなく、必要最低限の装備の積として究極の実用車をかたち作る。それこそがメイド・イン・ジャーマニー、旧き佳きメルセデス・ベンツの矜持なのだと再確認する。

防音が効いたバルクヘッドのおかげで、2リッターの4気筒エンジンはどこか遠くで回っているような音と振動に終始する。シフトレバーをDレンジに入れ、右足に軽く力を込める。ところが最初は、モヤーっとしたクリープ程度の加速しか起こらない。そこでシートスライドを1段前に出して座面深くに腰掛け、オルガン式のスロットルペダルの根元に踵を突き立ててから再度つま先に力を込めてみる。するとどうだろう、先ほどまでとはうって変わり、右足の動きをなぞるようにリニアで滑らかなパワーが溢れ出す。

径の大きなステアリングはレシオもスローなので、運転しはじめてしばらくは切り遅れることが多い。だがそのゆったりとしたリズムに慣れればそれだけで早めに少しずつステアリングを切りはじめるクセがつき、丁寧なドライビングが完成する。この時代のメルセデスは、機構的な逐一が乗り手の動作を嗜め、教育してくれるような一面があるのだ。

クルマの安全には他車から衝突されたような場合に乗員を守るパッシブ・セーフティと、いざという時に危険を回避するアクティブ・セーフティのふたつがあると言われる。ドライバーの行いを正すようなメルセデスのそれはアクティブ・セーフティの前段階に含まれる。剣道で言うところの"勝而後戦う(勝ってしかる後戦う)"のような感覚で、いざという時のための安全に対する準備が、そのはるか前の段階において確立されているのである。

190Eの2年後にデビューしたW124。その存在を先に"包容力"と記した。懐の深い乗り心地を持ち、スピードに乗れば思いのほかスポーティで、長距離ドライブをストレスフリーでこなし、ロングライフという点でもバランスよくゆっくりとヤレてくる。そんなW124の基本的な特性は190Eにも通じているが、しかし両者を所有した経験から言えば、190Eは兄貴分ほどには万能といえない。

190Eははっきりとしたボディの硬さを感じさせ、ボディの小ささや車重の分だけスポーティでタイトなドライブフィールを見せる。かつてのグループAやDTMレースカーのベースになったというヒストリーも頷ける。そんな運動性能の高さとトレードオフするかたちで長距離ドライブでは少し疲れやすく、リアシートのスペースもミニマムといえる。

また2名乗車と4人乗車時のドライブフィールの差があまりないW124に比べると、4名乗車の190Eはリアの追従性が鈍くなる。誕生したばかりのリアマルチリンクサスペンションの能力がそうさせているのかもしれない。

W124にはクーペやステーションワゴン、LWBモデルまで存在したが、190Eは一貫して4ドアセダンのみ。メルセデスは設計初期から多様性を削ってでもスポーティでミニマムなセダンに焦点を絞っていたのだと思う。

その結果としてW124と190Eの両者を比べると、ドライブしていて楽しいのは190Eの方である。大きくて重く、ストローク感が希薄な現代のクルマに慣れきってしまったドライバーが体感する190Eは驚くほどソリッドだ。スピードを上げるほどリニアリティが高まり、まるで精密な金属パーツの切削面にドライバーが素手で触れているような、そんな感覚すらもたらしてくれる。

当時の日本人が190Eに付けた"小ベンツ"という呼び名にはちょっとした侮蔑が含まれていたと思う。高級車の証であった3ナンバーに対し、5ナンバー枠に収まってしまうメルセデスを貶めたかったのだろう。

だが今日では必要最低限の機能がしっかりと凝縮されたスタンスこそ190Eの最大の価値といえる。これはW124と共に後世に遺したい最善のメルセデスだ。

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みんなのコメント

8件
  • W201はいいな~

    W210は…………クソ。
  • 今年7月に亡くなった三本和彦氏は、所有した車の中でもかなり気に入っていたようだ。
    2010年の著書「言わずに死ねるか!日本車への遺言」の中の「しっかり使えてほどよいサイズのクルマが消えてしまった」という一節の中で、コストをかけて作られたことが伝わってくる「まさにベンチマークと呼ぶにふさわしいクルマだったし、私も所有したことがある。」と書いている。
    また、ベンツのエンジニアと、次のようなやりとりをしたとことがあったことも書かれている。
     以前、ベンツの開発の人たちから「なあ、ミスター三本、この次は俺たちなにをつくったらいい?」という質問を受けたことがあった。そのとき私は「190Eを作ってくれ!」と即答した。すると彼らは「あれはダメだ。あれは高くついていけない」と笑いながら答えた。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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