石油危機で2.0Lエンジンの小型モデル開発へ
パンサー・デヴィルのキャビンは全長に反して広くなく、特に後席側は狭い。ステアリングホイールは小さめの4スポーク。運転席からの視界は広く、お抱え運転手になったような気分になれる。
【画像】現代に調和しない「美学」 パンサーJ72からカリスタ 部品が流用されたXJとエスコート ソロ2も 全117枚
ホイールベースは3610mmもあり、カーブで扱いやすいわけではないが、100km/h近い速度でも不安感はない。乗り心地は素晴らしい。セパレートシャシーであることを考えれば、安定性にも驚かされる。
動力性能は、公道では不満なし。ジャガーの洗練されたV型12気筒エンジンが、必要なパワーを生み出す。
今回はレイ・ブリッジ氏が所有する、デヴィル・コンバーチブルも運転させていただいた。目抜き通りや浜辺沿いの道を優雅に流すクルマとして、見事に機能するだろう。
ところがデヴィルの発売直後、世界はオイルショックで混乱に陥る。自らのブランドを守るため、ロバート・ボブ・ジャンケル氏は2.0Lモデルの開発へ着手。ロールス・ロイスは目立ちすぎると感じるような、富裕層がターゲットに据えられた。
彼が目をつけたのは、当時高い評価を集めていたトライアンフ・ドロマイト。パンサー・ウェストウィンズ社の工場へ運ばれると、9週間の作業期間を経て、パンサー・リオが誕生した。
ボディパネルは独自のアルミ製へ交換。ルーフ後端の形状は、なだらかに整えられた。縦にリブが並ぶフロントグリルは、間違いなくロールス・ロイスをイメージさせる。
フェラーリに並ぶ値段だったリオ
今回の車両はエスペシアル仕様で、オプションだった直列4気筒16バルブのドロマイト・スプリント用エンジンが載る。インテリアはコノリーレザー仕立て。ドアパネルは上質に作り変えられ、天井の内張りにはグレーのモケットが用いられている。
足もとにはフカフカのカーペット。パワーウインドウにティントガラス、ラジオカセットは標準装備で、3速ATと電動サンルーフ、エアコンはオプションだった。装備がだいぶ追加されつつ、アルミ製ボディで通常のドロマイトと車重はほぼ変わらない。
英国価格は、ドロマイト・スプリントの約3倍となる8996ポンド。メルセデス・ベンツ450 SLやフェラーリ308 GT4へ並ぶ金額だった。これが影響し18台しか作られておらず、現存は6台と考えられている。
今回の例は1977年式で、オーナーはピーター・メイヨー氏。運転席へ座ると、トライアンフの残り香が強い。車内の高級感は高いが、ステアリングホイールや低い位置のダッシュボード、メーターのレイアウトなどは、ドロマイトでも見慣れたものだ。
走りの印象も似ている。ステアリングは適度にクイックで、身のこなしは落ち着いている。走行距離が約6万kmと浅くエンジンは活発だが、3速ATがその印象を薄めている。
素直で扱いやすく、身のこなしは機敏。約半世紀が過ぎても、しっかり作られた感じが残っている。特に内装の仕上げは印象的。フェラーリ以上の訴求力を与えることは、難しいかもしれないが。
動的能力は、モーガンとケータハムの中間
パンサー・ウェストウィンズ社の存続には、売れるクルマが必要だった。ロバートが次に着目したのは、モーガンが抱える大量の納車待ち。クラシカルなロードスターには、一定の需要が存在していた。
そこで生まれたのが、パンサー・リマ。ベースとなったのはヴォグゾール(英国オペル)・マグナムで、109psの2.3L直列4気筒エンジンとMTが流用された。モーガンに似たボディはFRP製。驚くのは開発期間の短さで、5か月で販売にこぎつけたらしい。
幸運といえたのは、ヴォグゾール側の対応だった。ディーラーでの販売が認められ、保証も付帯された結果、600台も売れている。
今回ご登場いただいたのは、モデルチェンジ後となる1980年式のMk2。見た目はMk1と大きく違わないが、独自開発のシャシーへ交代している。車内空間はより広く、シートポジションは低い。ボディ剛性も改善している。
オーナーはジェームス・デンプスター氏で、珍しいDTV仕様。商用バン由来の2.3Lエンジンを積み、社外のシリンダーヘッドやマニフォールド、オイルクーラー、デロルト・ツインキャブレターなどが組まれ、162psを得ている。
動的能力は、モーガンとケータハムの中間といったところ。身長170cmの筆者に、運転席はぴったり。4速MTのシフトレバーは感触が曖昧ながら、ギア比は良好。3速と4速では、オーバードライブも選べる。
低域トルクが太く、グリップ力は162psへ充分。ステアリングは正確で、落ち着いている。今回のパンサーでは、最も運転が楽しい。
2020年代へ調和しないロバートの審美眼
もう1台、リオと似たスパイダーはパンサー・カリスタを名乗る。ロバートの努力虚しく、1980年にパンサー・ウェストウィンズは倒産へ追い込まれ、韓国のジンド・コーポレーションが買収。フォードの部品を流用し、1982年から再生産されたモデルだ。
エンジンはフォード・エスコート XR3用の1.6L直列4気筒や、フォード・カプリ用の2.8L・2.9L V型6気筒が用意された。1990年までに、一連のパンサーとしては最多となる1740台がラインオフしている。
今回のブラウンとアイボリーのカリスタは、1989年式。2.9Lエンジンで、スティーブン・ダネット氏が新車で購入している。走行距離は16万km近い。
サスペンションは、フロントがフォード・コルチナ譲りで、リアがカプリ譲り。運転体験は、リマより旧式然としている。最近交換されたダンパーが、未調整なことも影響しているだろう。
リアアクスルは過度に垂直方向へ動き、ステアリングはクイック気味。カーブへ突っ込むと、刺激的な挙動を示す。しかし、フォードの5速MTは心地よく変速でき、V6エンジンが爽快にパワーを展開する。一定の支持を得た理由もわかる。
ロバートの審美眼が展開された、パンサーたち。40~50年前には受け入れられたとしても、2020年代の美学へ調和しないことは否めない。
それでも、コーチビルダー的なクルマ作りの手法や、積極的な起業家・開発精神は評価されるべきもの。パンサー・ウェストウィンズ社が、比類ないブランドだったことは間違いない。
協力:パンサー・カークラブ
J72からカリスタまで パンサー5台のスペック
パンサーJ72(3.8/1972~1984年/北米仕様)
英国価格:9874ポンド(1975年時)/6万ポンド(約1152万円/現在)以下
生産数:378台
全長:4064mm
全幅:1663mm
全高:1346mm
最高速度:183km/h
0-97km/h加速:6.4秒
燃費:5.1km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1140kg
パワートレイン:直列6気筒3781・4235cc 自然吸気DOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:207ps/5000rpm
最大トルク:32.5kg-m/3750rpm
ギアボックス:4速マニュアル(後輪駆動)
パンサー・デヴィル・サルーン(1974~1982年/英国仕様)
英国価格:1万7650ポンド(新車時)/8万ポンド(約1552万円/現在)以下
生産数:57台(コンバーチブル含む)
全長:5190mm
全幅:1800mm
全高:1550mm
最高速度:206km/h
0-97km/h加速:9.6秒
燃費:4.2km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1973kg
パワートレイン:V型12気筒5343cc 自然吸気SOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:289ps/5750rpm
最大トルク:40.5kg-m/3500rpm
ギアボックス:3速オートマティック(後輪駆動)
パンサー・リオ・エスペシアル(1975~1977年/英国仕様)
英国価格:8996ポンド(新車時)/2万5000ポンド(約485万円/現在)以下
生産数:18台
全長:4122mm
全幅:1588mm
全高:1395mm
最高速度:186km/h
0-97km/h加速:8.4秒
燃費:8.5km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:11041kg
パワートレイン:直列4気筒1998cc 自然吸気SOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:128ps/5700rpm
最大トルク:16.8kg-m/4500rpm
ギアボックス:4速マニュアル/3速オートマティック(後輪駆動)
パンサー・リマ S1(DTV/1976~1982年/英国仕様)
英国価格:4997ポンド(新車時)/2万ポンド(約388万円/現在)以下
生産数:約900台
全長:4334mm
全幅:1790mm
全高:1180mm
最高速度:185km/h
0-97km/h加速:6.7秒
燃費:7.7km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:885kg
パワートレイン:直列4気筒2279cc 自然吸気SOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:109ps/5000rpm
最大トルク:19.0kg-m/3000rpm
ギアボックス:4速マニュアル(後輪駆動)
パンサー・カリスタ(2.8i/1976~1982年/英国仕様)
英国価格:9625ポンド(1984年時)
生産数:1740台(合計)
全長:4334mm
全幅:1695mm
全高:1270mm
最高速度:175km/h
0-97km/h加速:7.7秒
燃費:8.6km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:935kg
パワートレイン:V型6気筒2792cc 自然吸気SOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:152ps/5700rpm
最大トルク:21.9kg-m/4000rpm
ギアボックス:5速マニュアル(後輪駆動)
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というわけで、ジョドー一味のハンバーのような車を再び世に出そうとした人達が出てきたのは自然なことだった。