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グランド・ツーリングだけが得意、というわけではない──マクラーレンGT試乗記

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グランド・ツーリングだけが得意、というわけではない──マクラーレンGT試乗記

高性能ながら高い実用性も有するマクラーレンGTを、島下泰久が名古屋から富山までのロング・ツーリングでテスト。マクラーレンにとって「GT」とはどんなクルマなのか?

思いのほか運転しやすい

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デビューは2019年だから、すでにおなじみの存在であるマクラーレンGTであらためて名古屋から富山までのロングドライブを敢行した。なぜ今、改めて? と、思われるかもしれないが、頭の中にあったのは変化するマクラーレンのラインナップの中での、その位置づけを再確認したいという思いだった。

GTが登場したときには最新のプラグ・イン・ハイブリッドスポーツカーである「アルトゥーラ」の姿はまだ無く、エントリーにはスポーツシリーズの「540C」、「570S」といった選択肢があった。

それが現在のラインナップは、最高峰にスーパーシリーズの720シリーズ、続いてアルトゥーラ、そしてこのGTという大きく3つのモデルという布陣となっている。

登場当初は、ピュアスポーツカーブランドであるマクラーレンにとっては異色と言っていい存在だったGT。しかし今やブランドのエントリー・モデルとして、そのスポーツ性をアピールする役割も引き受けたことになる。ならば、ロングドライブでのいわゆるGTカーとしての性能だけでなく、ピュアスポーツカーとしてのマクラーレンGTを再度検証してみなければ……と思ったのだ。

マクラーレン名古屋で車両をピックアップして、市街を進んで行く。ここで、まず感じたのは、クルマが身体にタイトにフィットする感覚だ。クルマとの強い一体感を覚える。しかも視界が開けているのがいい。低いスカットルのおかげで前方がよく見えるし、斜め後方なども思ったより死角が全然少ないのだ。

しかもステアリング・レスポンスは非常に良いから、狭い路地でも取りまわしに面倒な感じがしないのも嬉しい。この時、すでに気分が弾んでいる自分に気づいていた。

クルマとの一体感、上々

鳥見町入口から名古屋高速に乗る。まず目指すは郡上八幡。しばらく走ってそのまま東海北陸道に入り、更に北を目指して走る。

個人的には初めて走る道だったのだが、ここではマクラーレンGTの快適な走りっぷりに、改めて感心した。ボディの剛性感は凄まじく高く、決してソフトなわけではないサスペンションがよく動いて、姿勢をぴたりと落ち着ける。長いホイールベースと重心の低さも印象的で、背の高いクルマに乗る機会が多くなっている中、やはりこういうクルマはいいなと改めて思った。

4.0リッターV型8気筒ガソリンツインターボエンジンとデュアルクラッチタイプの7速SSG(シームレス・シフト・ギアボックス)の組み合わせも、とても走らせやすい。100km/h巡航は7速で1700~1800rpm前後。そこから軽く右足に力を込めるとCOMFORTモードでも即座にギアが1段落ち、もう少しだけ踏むと更に1段低いギアが選択される。レスポンスは鋭く、まるで右足で変速までコントロールしているかのよう。しかも回転上昇に応じて着実にトルクが上乗せされていくから、まさに意のままの加速を得ることができる。この万能感とでも言うべき感覚、堪らない。

東海北陸道を郡上八幡ICで降り、市街で撮影をこなしたあと、今度は国道472号線で更に北を目指して行く。そのまま国道257号に、そして県道73号に繋がっていくこの道は「せせらぎ街道」と呼ばれる川沿いをいく道で、深緑の中タイト過ぎないコーナーがひたすら続くドライビングには絶好の舞台なのだ。

一般道ということで舗装は全体に荒れているが、思い立ってシャシーをCOMFORTにセットすると、サスペンションがより一層しなやかになり、快適に走れるようになった。

いや快適なだけじゃない。ロードホールディングはしっかりしているし、姿勢変化だって大きくはないから、安心して攻めていける。しかも、そこはさすがマクラーレンでステアリング・フィールがとても良い。クルマとの一体感、上々と言うほかない。

実は東海北陸道を走っている時には、路面の継ぎ目などを通過する際のキックバックがやや大きめだな、と、思っていたが、考えてみればそれはマクラーレンGTが油圧パワーステアリングを使っているが故のことだったのかもしれない。そう考えれば、それも全然不満なんかじゃなくなる。

疲れ知らずの446km

気分が昂揚してきたのでパワートレインをSPORTモードに切り替えると、レスポンスは更に鋭さを増してくる。こちらの思いを見透かしていたかのような電光石火のシフトダウンには思わず頬が緩む。ブーストの立ち上がりまで速くなったかのようで、走りが更にリズミカルになる。

一般道では全開にできることはほとんど無いが、そのアクセル操作に対するツキの良さ、そしてラグ無く瞬時にもたらされるトルクのおかげで、走りの一体感は抜群。ブレーキング時のシフトダウンのタイミングも完璧で、まさに人馬一体の境地を味わえるのだ。

あまりに楽しいドライブだったので、あっという間に高山市まで着いてしまった。決して無闇に飛ばしたわけじゃない。時間を忘れて、操縦に没頭していたのである。

この日はそのまま、更に北上して富山に入り、リバーリトリート雅樂倶に一泊。ひとりには贅沢な宿だけれど、心地よいもてなしと美味しい料理、そして温泉でドライブの疲れを癒やしたのだった。

もう少し走りたい………。翌朝、まだそんな気持ちだったので、今度は北陸自動車道から東海北陸自動車道を経由して、能登半島まで。灘浦ICで降りて富山湾に出て、海沿いをドライブする。景色を楽しみながらゆったり流しても心地よいのは、GTならではと言えるだろう。いやはや、思い切り楽しめた。

ミドシップレイアウトを採用しつつもフロントに150リッター、そしてリアには420リッターという広大なラゲッジスペースを設け、インテリアはリラックスできる空間に仕立てられている上に、パワートレインやシャシーも快適性重視の設定とした、と、うたうマクラーレンGT。これまでは、ついそういう視点でGTカーとしての資質ばかりを追ってしまっていたが、改めて走らせてみると、CFRP製のモノセルII-Tを使った車体も、最高出力620psを誇るパワートレインも、やはり素性はリアルスポーツカー。思う存分走りを楽しめる。紛うかたなきマクラーレンなのだなと再認識することになった。

最後、富山駅前のゴール地点でトリップメーターには“446km”という数字が刻まれていた。疲れをまったく感じないどころか、もっと走っていたかったとすら思えたのは単にマクラーレンGTが快適だからではなく、それがまた、走ることそれ自体に心底没頭させてくれるスポーツカーだったからである。

文・島下泰久 写真・マクラーレンオートモーティブアジア

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