11月15~17日、スペインのカタロニア・サーキットで2024年の最終戦となるMotoGP第20戦ソリダリティGPが行われました。ホルヘ・マルティンが24ポイント差をリードして挑んだ最終戦は、フランセスコ・バニャイアがスプリントと決勝レース共に制しましたが10ポイント届かず、マルティンが初のチャンピオンに輝きました。
そんな2024年のMotoGPについて、1970年代からグランプリマシンや8耐マシンの開発に従事し、MotoGPの創世紀には技術規則の策定にも関わるなど多彩な経歴を持つ、“元MotoGP関係者”が語り尽くすコラム。今回が第45回目となります。
バルセロナ公式テストは小椋藍を含めた新役者が勢揃い。A.マルケス最速も日本メーカーがトップ10入り
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--昨年同様にチャンピオンが掛かった最終戦でしたが、3位表彰台を獲得したホルヘ・マルティン選手が10ポイント差で逃げ切って初のチャンピオンを獲得しました。前回コラムでは「全員が力を出しきって完走でシーズンを締めくくる、最終戦はそんな光景が見たいものだね」と言っていましたが、ほぼそういう感じで決着が付きましたね。
我ながらずいぶん綺麗ごとを並べたなと思ったけれど、リタイアしたのはジョアン・ミル選手だけだったから概ね希望通りでホントに良かったよ。レース自体はあちこちで小競り合いはあったものの基本的にはドラマチックかつリスキーな要素が少なかったから、見ている側は退屈だったかもしれないけどね(笑)。
--前半でマルティン選手とマルク・マルケス選手が絡むシーンが有りましたからヒヤヒヤしながら見守っていたんですけれど、何も起きなくて良かったです。
マルク・マルケス選手に関してはすっかりそういうイメージが定着してしまったね。まあスプリントでもスタート直後の強引なオーバーテイクでペドロ・アコスタ選手を撃墜しているから、そういう見方にならざるを得ないよな。今回は「まあ、どちらに原因があるかといえば僕の方でしょうね」と殊勝な筝をいっていたけれど、基本的にはレーシングインシデントだと思っているみたいだし(笑)。
--ところで、今シーズンのチャンピオン争いで明暗を分けた要因は何だと思いますか?
一言で言うと「Consistency」ということやね。スプリントの優勝回数は両者ともに7回、レースの優勝回数はバニャイア選手が11回と、マルティン選手の3回に対して圧倒的な数字をたたき出している。一方でノーポイントのイベント数はバニャイア選手がスプリント5回、レース3回、マルティン選手がスプリント2回、レース2回。確かにマルティン選手の方の失点が少ないと言えるけれど、バニャイア選手のレースでの圧倒的な勝利数を考えると「なんで?」という感じになるよね。
--「Consistency」つまりマルティン選手の方がシーズンを通して一貫性があったという事ですね。
そういう事だね。バニャイア選手が優勝したレースでもマルティン選手はしっかりと2位、3位というポジションをキープしていたから、それらの積み重ねと取りこぼしの少なさが結果的に10ポイント差のチャンピオンにつながったという事だね。
--たしかにレースのポイントだけ合計するとバニャイア選手が370ポイント、マルティン選手が356ポイントですから、優勝回数の差から考えるとさほど大きな差がついていませんね。でもレースの結果だけでチャンピオンを決定すべきという声も一部にはあるようですね。
最終戦を完璧に走り切ってなおチャンピオンに届かなかったバニャイア選手の無念を考えるとか抜きにしても、僕も個人的にはその意見に賛成だな。
スプリントで勝つためには金曜日中にタイヤの選択やマシンセッティングを詰めておく必要があるから、かなり投機的なイベントになってしまってライダーにとっては非常に大きなストレスだよね。スプリントの結果がチャンピオンシップに反映されないのであれば、レースに向けていろいろトライできるので結果的にレベルの高いレースが期待できる、という事も考えてみていいんじゃないかな。
--チャンピオンシップに反映されないとなると「Sprint Awards」みたいな形で報奨金を出す感じですかね。私もそれは有りかなと思いますが、ルールの「Consistency」というのも大事ですから残念ながらしばらくは現行ルール続行でしょうね。ところで最終戦も無事に終わったところで、今シーズンの総括をお願いしたいのですが。
じゃあ、コンストラクターのランキングの順番でドゥカティからだね。
3年連続のチャンピオンマシンはもはや敵無しという感じで、唯一シーズン序盤でチャタリングの問題が出たものの、大事に至らずに終わってしまったのは誠に残念(笑)。
2006年のヤマハみたいになるとチャンピオンシップも混沌として面白くなると密かに期待したんだけれど、まったくの期待外れ。昨年のマシンGP23も圧倒的な強さを発揮していたのでGP24がどういう進化をするのか興味深かった、というか伸び代まだあるのかと懐疑的だったけれど、結果的には全方位的な速さを獲得してあらゆるコースでも無敵になってしまった。
思うに、技術マネジメントがしっかりしている事と、テストライダーのミケーレ・ピロの評価が的確なんだろうね。ワイルドカード参戦では目立った成績は挙げてないけれど、かれこれ10年以上テストライダーを続けていることからも、開発陣の信頼が厚いんだろうね。日本メーカーもこういうライダーを育成出来たら大きな財産になるんじゃないかな。
マシンの優秀性は今季ドゥカティにスイッチしたマルク・マルケス選手がレースで3勝を挙げ年間ランキング3位になった事からも疑いの余地は無いんだけれど、マルティン/バニャイアというふたりの傑出したライダーがドゥカティの進歩にとって非常に大きな存在だったと言わざるを得ない。そういう意味ではチャンピオンのマルティン選手がアプリリア移籍してしまい、プライベートチームも2チームに減る来シーズンも高い戦闘力を維持できるのかどうか非常に興味深いね。
--来季のバニャイア選手が新しいチームメイトとうまくやっていけるのか、考えただけでもドゥカティのチームマネジメントは大変そうですね。それでは次、KTM行きましょうか。
KTMはドゥカティに次ぐ2位という立ち位置は昨シーズンと同じだけれど、昨年に比べるとファクトリーチームのふたりが共に精彩を欠く内容だったと言わざるを得ない。
空力開発やシャシー開発に継続的に力を入れているように見えるけれど、相変わらずマシンのキャラクターとしては「直線番長」的でストップ&ゴー型のサーキットでは強さを発揮するもののそれ以外のサーキットでは苦戦していたようだ。
もしもアコスタ選手が参戦していなかったらもっと結果は悲惨なことになったかもしれないし、そのアコスタ選手も新人らしからぬ勝負度胸で大いに期待したけれど、転倒が多くて結局は先輩を追い越すところまではいかなかった。彼は来年ファクトリーに昇格して、テック3にはマーベリック・ビニャーレス選手とエネア・バスティアニーニ選手という「一貫性」には欠けるけれど、時々とんでもない速さを発揮するふたりが来るので、どんな走りをするのか今から楽しみだよ。
--アプリリアとドゥカティからの乗り換えがうまくいくのか、またKTMがそれによってもたらされた情報をうまく開発に生かせるのかが鍵ですね。それではアプリリアはどうでしょう。
アプリリアもKTM同様に昨年に比べて全体的には低調だったけれど、マシンのキャラクターとしては相変わらず高速コーナーでの速さは健在だったね。昨年はアレイシ・エスパルガロ選手がカタールーニャで完全優勝し、今年はビニャーレス選手がアメリカGPで完全優勝したから、「ツボ」にはまると速いという印象が強くて、これがマシンが要因なのかライダーなのかという疑問が根強くあるんだ。
まあ80%くらいライダーだと思うけど、マルティン選手を獲得したことでその辺りが明らかになるんじゃないかな。アプリリアもその点は大いに期待していると思うよ。後は昨年から度々「熱問題」がライダーから指摘されているのに未だに解決されていないようだから、その辺りの改善を進めないとね。
--アプリリアはアレイシ・エスパルガロ選手が2017年からエースライダーとして君臨してきた訳ですが、今年限りで引退してホンダのテストライダーになることが発表されています。ぶっちゃけ、開発ライダーとしてのポテンシャルはどうなのでしょうか?
確かにアプリリアでのキャリアは長いし、2022年にはランキング4位を獲得して存在感を示していたけれど、この辺りがピークだったんじゃないかな。開発ライダーとしての適性は正直言って分からんよ。
ホンダとしてもアプリリアに関する有益な情報が得られたら良いという目論見で、開発ライダーとしての適性に確信を持っていた訳ではないと思うけどね。もっとも、現状でもドゥカティ陣営からヨハン・ザルコ選手とルカ・マリーニ選手が移籍しているわけで、そこからのインプットが開発に貢献しているかどうかの判断は微妙だな。
ホンダは後半戦でじわりと成果が出て来た印象があるけれど、ザルコ選手のポテンシャルに負うところが大きい感じは拭えないし……。個人的に不思議でならないのは、現在のMotoGPマシンの基本的なフォーマットはホンダが築いたもので、ヤマハを除いた競合各社のお手本でもあったはず。言い換えれば基本的な構成が同じで、高い技術力を持っているはずのホンダがなぜここまで低迷するのかという事なんだな。
--むしろ独自のエンジン形態によるハンデが指摘されているヤマハより低迷している感は有りますね。
ヤマハもホンダ同様に後半戦で改善の兆しが出て来た感じはするけれど、基本的には結果を出しているのがファビオ・クアルタラロ選手のみだから、マシンの改善効果なのか本人の頑張りなのか判断しにくいところが有るね。
いずれにせよ、コンストラクターズのポイントの推移はヤマハが昨年から72ポイント減の124ポイント、ホンダが185ポイントから110ポイント減の75ポイントという惨憺たる結果を見ると、改善の兆しありとか楽観的なコメントが出来るようなシーズンでは無かったという事だよ。
--ざっくりとメーカーごとに今シーズンを総括していただいたわけですが、来年はチャンピオンライダーの他メーカーへの移籍を始めとして、有力ライダーが相次いでドゥカティ陣営から離脱して戦力のバランスがかなり変わりますよね。
チャンピオンライダーの移籍っていうのはかなり異例なことで、1989年にエディ・ローソン選手がヤマハからホンダに移ったのが当時としてはかなり衝撃的だったね。
2004年のバレンティーノ・ロッシ選手の移籍は更に衝撃的だったな、なにしろホンダで3年連続チャンピオンが万年2位のヤマハに移籍とか普通はあり得ないだろ(笑)。
過去の事例では移籍したチャンピオンはそこでもチャンピオンを獲得しているので、マルティン選手にも頑張って欲しいところだね。現状ではマシンの劣勢は否めないところだけれど、チャンピオンを受け入れたアプリリア側にもプレッシャーは掛かるし、本人のモチベ―ションも高いので可能性はあると思うよ。そういう大きな変化がレースの面白さを倍加してくれるはずだから来シーズンは楽しみで仕方ないね。
--ところで「MotoGP」ののロゴがいつの間にか変わっていますけど気が付きましたか?
ん……? そういわれると確かに変わってるな。あまり違和感が無くて気が付かなかったよ(笑)。いままでの小文字の斜体よりはデザインされた感じがあっていいんじゃないかな。
--なんでもアメリカの有名なデザイン事務所のデザインらしいですよ。新しいオーナーの「リバティメディア」の意向も入っているんでしょうね。
まあそんなところだろうね、でも第一印象は悪くないよ。「GP」のところがトラックレイアウトをイメージしているって説明があるけれど、一目でその意図は分かったよ。今までと違って、それぞれの文字のデザインに明確な意図が込められているのがいいね。ただね、僕的には「t」の扱いがちょっと物足りないかな。これを少し斜めにすると、よりバイク感が出ると思うけど、どう?
--そういわれると、なんとなくそんな気も……って駄目ですよ、そんな勝手なことしちゃ! 悪乗りが過ぎますって(笑)。ところで公式テストの様子が気になりますよね。ヤマハがV4マシンを持ち込むなんてサプライズもありそうでワクワクしますね。
シーズンが終わると同時に次が始まるから、開発陣は一息つく間もなくて大変だよ。つくづく昔は良かったと思うね、けっこうシーズンオフが長かったからね(笑)。
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