2023年にスーパーGT、スーパーフォーミュラでダブルタイトルを獲得したTOYOTA GAZOO Racing(TGR)の宮田莉朋選手。2024年は海外に拠点を移してFIA F2、ELMS(ヨーロピアン・ル・マン・シリーズ)に参戦しつつ、WEC(FIA世界耐久選手権)にテスト・リザーブドライバーとして帯同します。
第3回目となる今回は、オーストラリア・メルボルンから、日本と海外のレース文化の違いや、開幕近づくELMSについてお届けいたします。
【ポイントランキング】2024年FIA F2第3戦メルボルン終了時点
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読者のみなさん、こんにちは! 宮田莉朋です。
今はFIA F2の第3戦オーストラリアのメルボルンに来ています。中東での開幕2戦を終えたFIA F2ですが、まずはその中東での過ごし方やプライベート寄りな部分についてお伝えしようと思います。
気になっている方も多いかもしれませんが、レースウイークの食事の仕方は日本とはちょっと違います。日本のレースではチームがお弁当や食事を用意してくれますが、FIA F2では全チーム向けにお昼、夜とケータリングが出るので、サーキット内では結構、過ごしやすいです。サーキットを出てからは、バーレーンではファストフードのお店がたくさんあったので、その中でタイ風チャーハンばっかり食べたりしていましたね。その影響か、FIA F2のドライバー紹介用に『好きな食べ物は?』と質問された際には、つい『フライドライス』って答えてしまいました(苦笑)。僕は日本にいた時はほぼヴィーガンのような食事をしていたのですけどね……。
基本的にはTGR-Eのスタッフの方とフィジオの方が僕のレースに帯同してくださっています。フィジオだけの時もあります。第2戦ジェッダにはTGR-E副会長の中嶋一貴さんも来てくださいました。
ヨーロッパのチームの特徴なのか、F1、FIA F2、そしてFIA F3も、ドライバーのスケジュール管理やケアに関しては各ドライバーのフィジオが担当することも多いようです。日本ではチームに所属するチームマネージャーさんが取材対応の窓口となったり、ドリンクボトルを補充して下さったりしますが、ロダンチームでは違っていて、初めてFIA F2のテストに参加した際にかなり驚きました。昨年末のアブダビテストの際には一貴さんがボトルを差し出してくれたりして、とても助かりました。(ちょっと申し訳ない気持ちにもなりました笑)やっぱり、コミュニケーションの面でも一貴さんが一緒にいてくれると、いろいろ心強いですね。
■残念な結果に終わったFIA F2ジェッダで見えた光明
その第2戦のジェッダ(サウジアラビア)ですが、結果としては残念な形になりました。予選からシフトトラブルがあり、決勝ではスタート制御のスイッチが切り替わっていなかったこともあって、グリッドの枠に正しく止まれずにペナルティ(10秒間のストップ&ゴーペナルティ)を受けてしまい、ピットストップの時にはエンジンストールもあって15位に終わってしまいました。残念な結果ですが、僕自身は今はポジティブな気持ちになっています。
事前にチーム、チームメイトから『ジェッダは(シーズン中)一番トリッキーで難しいコースだ』という話を聞いていましたし、フィーチャーレースでは終盤にファステストラップを争うペースもありましたので、結果は残念ではあったものの、ジェッダを経験したことで『他のコースに行ったら大丈夫』という感覚があります。
市街地コース、トリッキーで難しいという点ではモナコやバクー(アゼルバイジャン)と同じですが、ジェッダはハイスピードのストリートサーキットで、1周の距離が長くてコーナー数も多い。シミュレーターなどで事前にコーナーの数や特徴は覚えていましたが、実際に走ってみるとシミュレーターと実車でかけ離れたところもあり、難しく感じました。
予選前に45分しかないフリー走行で赤旗が出て、5周しか走れなかったことも状況を難しくしました。FIA F2は全車にオンボードカメラが搭載されているわけではなく、各チームに1台しか搭載されていません。それに、スーパーフォーミュラのアプリ『SFgo』のようにレース後すぐにオンボード映像で見返せるものがないので、自分がどこで速いのか、遅いのかを見極めるのが非常に難しい。チームメイトのデータはあるのですが、そのデータではライン取りまでは見られません。
これからも同じような状況が続きますが、それでもジェッダを走り終えてからは気持ちに余裕が持てています。今になってみると、他のストリートサーキットでも活きる経験をできたという手応えを掴むことができましたし、ファステスト争いができたのも実際に速さがあったからだと思うので、次戦以降は行けるんじゃないかと感じています。
■FIA F2の現場にいることで見えてくるF1の世界
FIA F2に出ていると、よく関係者からもF1のレースを間近で見た感想を聞かれるのですが、実は第2戦では移動の兼ね合いでF1の決勝が始まる前にサーキットを離れてしまったので、F1の決勝は配信で見ていました。前回のサウジアラビアGPではFIA F2に参戦中のオリバー・ベアマン(プレマ・レーシング)がカルロス・サインツの代役としてフェラーリに乗りましたが、その様子を見ていると、自分もF1の近くにはいるんだという感覚があります。
今は日本では見ることができなかったF1の世界観を実感しています。最初は『自分みたいなのが来ちゃいけない世界なのかな』とか思ったりもしたこともありました。それくらい、F1はものすごく華やかな世界でしたし、ハードルの高さを実感したと言いますか、この世界にたどり着くことは難しいと改めて感じました。
でも、その直下のFIA F2はそのF1に通じているレースシリーズで、周囲のドライバーが普通にF1テストの話をしているのを実際に耳にします。ベアマンのことを見ても、すごく大袈裟に言えば『今日の成績次第では、明日にはF1の実車テストに参加できるかもしれない』といった可能性がある世界です。
もちろん、FIA F2ドライバーがF1に乗るには、その時点での成績だけでなく、自分たちの財政力やタイミングなどにも左右されるかもしれません。ただ、確実に言えることは自分が日本にいる時では起こり得ない事象が目の前で起きているということです。ここで頑張れば、“あの世界”に行けるかもしれないということが具体的に見えてきています。
だからこそ、自分がやれることは昨年同様、今年参戦しているカテゴリーでチャンピオンになることだけだと感じています。成績を残すことが第一ですが、タイミングや流れ、応援やサポートをしてくれる方々の協力など、プラスアルファの要素がないと生き残れない世界だとも改めて感じました。
■WECの開幕戦を振り返って
リザーブドライバーを務めるWECは、開幕戦が終わりました。僕はFIA F2に出場していたので詳しくは追えていないのですが、厳しいレースになった印象です。BoP(バランス・オブ・パフォーマンス/性能調整)を含めてなのか、単純にクルマの差なのか、ポルシェが速すぎる感じはありますが、WECはそのあたり理解しづらい部分もあるのですが、少なからず厳しい雰囲気は感じています。そんな状況のなかで、ニック(デ・フリース)が予選2番手に入ったのはポジティブでしたね。
僕はFIA F2のメルボルンが終わった後、すぐ移動してWECのテストに参加する予定になっています。GR010ハイブリッドをドライブするのは1月に続いて2回目になりますが、貴重な機会ですのでいいテストにしたいですね。まだ正式には決まってはいませんが、その後の第2戦イモラ、第3戦スパでは、WECの現場に帯同するかもしれません。
■開幕迫るELMS。クール・レーシングとチームメイトたち
続いてELMSです。クール・レーシングからLMP2のマシンで参戦する開幕戦(4月14日決勝)が近づいてきました。前回報告した2月のテストに続き、4月の開幕直前の公式テスト、そして第1戦の舞台もスペイン・バルセロナです。
昨年まではWECでハイパーカーと混走していたことでいろいろ制約があったLMP2ですが、今年は少しパワーが上がっているようです。それもあって、去年よりもトップスピードの伸びが良かったり、クルマも軽くてクイックなのでGT500のマシンに近い感覚があります。すごく繊細な感じがして、それでいてワンメイクのタイヤなので、予選ではピークパフォーマンスをどう出すか。反対に決勝ではどうやってタイヤを長持ちさせるかがキーになるのかなと感じています。
クール・レーシングはチームの雰囲気もいいですし、チームオーナーは元トヨタのLMP1ドライバー、ニコラ・ラピエールさんなので、すごく家庭的なチームを作ってくれています。それも彼がトヨタのいいところというか、TGRらしさを継承しているからなんだろうなと思います。ドライバーの国籍はデンマーク、スペイン、オーストリアとバラバラでインターナショナルスクールみたいな感じで(笑)、みんなで楽しく、過ごしやすい環境でやらせてもらっていますね。
僕と組むふたりのドライバーを紹介しておくと、マルテ・ヤコブセン選手はプジョーの育成&リザーブドライバー。彼はLMP3、LMP2とプロトタイプカーや耐久レースのキャリアも豊富で、今年のデイトナ24時間のレースペースもかなり速い方だったそうです。彼の経験からいろいろと教えてもらえる部分もあるでしょうし、僕と同じハイパーカーのリザーブドライバーという立場なので、うまく意見を交換し合えば、レースもそれなりにうまくいくんじゃないかと思っています。
ロレンツォ・フルクサ選手は、昨年フォーミュラ・リージョナルに乗っていて、耐久レースが初めてのドライバーです。スペイン人気質……だからなのかは分かりませんが、彼はとにかくよくしゃべりますね(苦笑)。分からないことがあればガンガン聞いてきますし、自分の意見も伝えてくる。それはすごくいいところだと思います。
僕とマルテはあまり喋らないというか、とりあえず自分の中で結論が出れば「(心のなかで)そうだよね」で終わるタイプなので(笑)、その部分ではいい組み合わせというか、各々の性格を出し合って、まずは開幕戦、うまくクルマとチームを引っ張っていければと思っているので、また次回のコラムでその様子をお伝えしたいと思います。
⚫︎今月の“リトモメーター“
三刀流+moreとして世界のさまざまなサーキットを訪れる2024年の宮田選手の移動距離を、フライトマイルで計測。ご本人のアプリのスクショを公開させていただきます。
今回、2月26日~3月16日の期間で……
⚫︎2月26日~3月16日
9回の搭乗
68,404マイル
搭乗時間:6日15時間51分
⚫︎2024年累計
37回の搭乗
93,865マイル
搭乗時間:223時間37分
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