マクラーレンの鍵を握る1台
photo:McLaren Automotive
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アルトゥーラはマクラーレンの向こう10年を占う、彼らにとってすこぶる重要なクルマだ。開発には4年以上が費やされ、全てのコンポーネンツは完全に書き換えられた。
以前の世代であればスポーツ/スーパー/アルティメイトという3つのステージでモデル群をセグメンテーションしていた。が、アルトゥーラはパフォーマンス的にスポーツとスーパーの間、限りなく750S寄りのところにある。
更に現在はラグジュアリー的な位置づけのGTSもパフォーマンスが上振れしており、3つのモデル群の距離感が近接化しながらも、アルトゥーラはその中軸たるところとしても期待されているわけだ。
そんなアルトゥーラに新たに追加されたのがスパイダー、つまりオープンモデルだ。
サーキットでコンマ1秒を競うマクラーレンはルーフの開閉スピードにも拘っているのか、ボタンひとつで操作が完了するルーフパネル開閉の所要時間は11秒と750Sスパイダーと同じ、そしてメタルトップものとしては最速級となる。しかもそれは50km/h以内であれば走行中でも操作することが可能だ。
屋根が開く……というだけではない美点もアルトゥーラ・スパイダーには込められている。それはビジビリティ、つまり視界だ。
バットレス形状となるクオーターピラーをわざわざスケルトン構造としてまで、斜め後方のビジビリティを確保した。
これは開放感というよりも、視覚情報を可能な限り豊富にすることがドライビングへの自信につながるという、なんとあらばマクラーレンのプロダクトの最大のこだわりと言ってもいいかもしれない。
と、そういうディテールを外側から眺めていてしみじみ伝わってくるのは、車格のコンパクトさだ。
モデルチェンジを重ねるたびにサイズが大きくなるのは世の常だが、アルトゥーラ・スパイダーは見た目的な圧からして控えめだ。実寸をみれば前任的位置づけの540C/570Sとほぼ変わらない。
見る者を驚かせるアピアランスのためのデザインではないことが伝わってくると共に、内包するメカニズムがいかに小さく纏められているかがうかがい知れる。
そう、アルトゥーラはPHEVという別の顔も持っているクルマなわけだ。
新時代パワートレインに感じる執念
その要となるバッテリー容量は7.4kWh。シートバックに収められたそれによって、95ps/225Nmのモーターを駆動する。
駆動アシストだけでなく、最高130km/hまでのBEV走行も可能だ。その航続距離は33kmと、クーペの初出時に対して1割程度伸びている。
これはマネジメントソフトウェアの変更によるところで、内燃機側もエンジンパワーが585psから605psと20ps向上、システム最高出力も680psから700psへと向上した。最大トルクは720Nmと変わりはない。
このパワートレインのプログラムはクーペにも適用されるほか、既販車へのアップデートも検討されているという。この辺りも新しい世代のクルマだという感がある。
搭載するエンジンは120度のバンク角を持つ3L V6ツインターボ。
V6においてはクランクピンオフセットを要さず燃焼間隔が等間隔となる理想的な角度ながら、搭載性の悪さや発展性の低さから、市販車ではほとんど用いられない形式だ。リアミドシップ専用かつレーシングエンジンとしての転用のみを前提としたとても贅沢なエンジンともいえるだろう。
このためボアピッチなどはきちきちに詰められ駄肉は徹底的に抜かれるなど、小型軽量化にはかなり腐心した作りとなっている。ちなみに750Sなどが積む4L V8ツインターボのM840Tに対しては、前後長で200mm短く、重量は50kg軽い。
加えて駆動モーターには薄型でありながら高トルクを発生するアキシャル型を用いるなど、小型軽量化への執念はワイヤーハーネス一本の長さとにも及んでいる。
そのパッケージングは難解なジグソーパズルのようだったと開発エンジニアが振り返っていたのが印象的だった。
オープントップ化で際立つ美点
アルトゥーラ・スパイダーのシャシーの核となるMCLAアーキテクチャーは、従来のモノセルの発展型で、カーボンタブとアルミメインビームを一体で整形するなど、生産性にも配慮されたものだ。
また、乗降性の面でも敷居の形状工夫もあってか、モノセルの時代よりも足捌きが楽になったように感じられる。
インターフェイスの高精細さは、視界の良さと共にマクラーレンのプロダクトの揺るがない美点だ。
敢えてスイッチ類を配さないステアリングはイナーシャも軽く、握り径の細さと断面形状が指先や掌による微小な入力、保持などを促してくれる。
気持ち重たく感じられるペダル類の操作力や加減速度の立ち上がりも車両の動力性能を鑑みれば適切だ。シフトパドルは半引きによって次の変速に備えるプレコグ機能が備わるが、その操作感は適切で状態保持も苦にならない。
加えてアルトゥーラはシートも剛性とフィット感に拘って設えられていることもあって、まさにクルマを着る感覚で運転に臨むことが出来る。
クーペとの重量差は約60kgとなるアルトゥーラ・スパイダーだが、その重量差はサーキット走行の領域で僅かな差となって現れる程度ではないか。ともあれワインディングを気持ちよく走る程度では屋根開きのネガはまったく感じられない。
むしろ開くことによって得られる開放感や、エンジンの存在感がより近くに感じられるという美点の方が際立つ。
アーキテクチャーとしては天頂部は剛性要素としていないこともあって、屋根が抜けたことでボディの緩さが伝わることは一切ない。
ルーフパネルの有無による曲げや捻れの変化は、それこそサーキット領域でもなければ気づけないだろう。
700psとなったパワートレインの新たなプログラムは、エンジン自体の吹け上がりにも影響したのかと思うほど、そのフィーリングは全域で滑らかになった。
また、モーターとの連携も緻密さを高めており、力を融通し合う際の段付き感もよりきめ細かく均されている。
より一層洗練されたフットワーク
そんな変化以上に驚かされたのがそのフットワークだ。
試乗路はWRCのモンテカルロラリーの開催地に近く、道幅の狭いバンピー路が延々と続く過酷な環境だったが、アルトゥーラ・スパイダーのサスの追従性は見事なもの。有り余るパワーを躊躇なく使ってタイトなワインディングを駆け抜けるサマには惚れ惚れさせられた。
こちらもプログラムの改善により、プロアクティブダンピングコントロールの応答速度が90%も高められたというが、その効果を確実に感じ取ることができた。
それでいて、日常域での乗り味も洗練されている。件(くだん)のバンピーなワインディングでは敢えて使っていたコンフォートモードでのダンピングは、120km/h級の高速域になるとむしろしなやかに過ぎるほどで、敢えて一段硬めのスポーツモードで上屋の動きを落ち着けたくなる。
そういう走行モードの設定が、目線をずらさずにステアリングから指先を伸ばしてサクサクと行えるようになった、それもまたマクラーレンのインターフェイスへのこだわりを感じるところだ。
油圧を用いる750Sのプロアクティブシャシーコントロールにも匹敵するだろう、フットワークの艶かしさを備えたことで、アルトゥーラ・スパイダーはスポーツカーとしての所作もひときわ「らしい」ものとなった。
屋根開きの爽快感と共にいただけるのは、紛れもなくマクラーレンだからこそもたらされる走りの味わいである。
試乗車のスペック
全長:4539mm
全幅:1913mm
全高:1193mm
最高速度:330km/h
0-100km/h加速:3.0秒
車両重量:1560kg
パワートレイン:V型6気筒2993cc ツイン・ターボチャージャー+電気モーター
最高出力:700ps(システム総合)
最大トルク:73.2kg-m(システム総合)
ギアボックス:8速デュアルクラッチ・オートマティック(後輪駆動)
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