ラグジュアリークーペの8シリーズに追加された“4ドアクーペ”は、7シリーズに比肩するモデルとして進化した。BMWのもてる技術を満載したスペシャリティサルーンの実力を探った。
最上級モデルに2つの“メニュー”を用意
BMWの最上級クーペモデル 8シリーズに追加された“4ドアクーペ”が8シリーズグランクーペだ。以前の6シリーズを上位シフトし、この新世代より8シリーズを名乗る。価格的にも性能的にも、最上級セダンの7シリーズと比肩するものへとグレードアップし、スペシャリティがお望みの人には8シリーズを、定番のグランドメニューがお好みなら7シリーズをと、BMWは2種の選択肢を用意したというわけだ。
群雄割拠する“4ドアクーペ”界において、ライバルといえば、メルセデス・ベンツCLSやAMG GT 4ドアクーペ、ポルシェパナメーラなどが思い浮かぶ。また追ってアウディRS7スポーツバックなども国内導入が予定されている。
8シリーズグランクーペの3サイズは、全長5085mm、全幅1930mm、全高1405mm、ホイールベース3025mm。これはクーペ比で230mm長く、30mmワイドで、60mm背が高く、ホイールベースは205mm延伸している。7シリーズと比べても全幅は30mm広い。全長は40mm、ホイールベースは45mm短いが、どちらかといえば7シリーズに近いサイズであることがわかる。
実際に後席に座っても十分に広い。身長約178cmの大人でも膝周りや頭上にもゆったりとした空間がある。スペック表には定員5人とあるが、左右座席の真ん中にセンタートンネルが張り出しているため、実質的には4人用と考えたほうがいいだろう。シートも基本的に後席2人乗りを想定したデザインとなっている。
試乗車はシリーズトップのM8グランクーペに次ぐ高性能版M850i xDriveクーペだった。4.4リッターV8ツインターボエンジンは、最高出力530ps、最大トルク750Nmを発揮。8速ATを介して4輪を駆動する。このボディサイズにも関わらず0-100km/hはわずか3.9秒という。
クーペにまさる乗り心地のよさ
BMWのV8エンジンはいわゆるドロドロした排気音はたてることなく、軽快にまわる。低速からぶ厚いトルクを発揮し、あっという間に速度が高まる。8シリーズには、フロントホイールの切れ角を車速に応じて可変制御するアクティブステアリングに、リアホイールのステアリング(4WS)機能を組み合わせたインテグレイテッド・アクティブ・ステアリングを搭載するが、それはもう大きなボディサイズを忘れるほどに機敏に反応する。乗り出してすぐはその操舵入力に対する反応の鋭さに違和感を覚えたが、しばらく乗っていると体がすっかり馴染んでしまった。
また驚いたのは乗り心地のよさ。2枚ドアのクーペよりもいいと感じた。センタートンネルにカーボン素材を用いたカーボンコア構造や、それによって実現したロングホイールベース化。またM850i xDriveグランクーペに標準装備されるアダプティブ M サスペンションプロフェッショナルなど、それらすべての相乗効果なのだろうが、首都高の目地段差を乗り越える際のダダンという大きな入力も、波打つような路面もすべていなす素晴らしいフラットライド感だった。
3眼カメラおよびレーダーを用いた最新の運転支援システムには、高速道路や首都高速で60km/h以下での走行時に手放し運転が可能なハンズオフ機能付き渋滞運転支援機能を搭載。これが首都高での渋滞時にはとても役立った。車両が直前に前進した最大50mまでのルートを記憶し、それをバックで正確に戻ることが可能となるリバースアシスト機能は、前方から来た車両とすれ違えない細い路地などで有用だ。さらにデフォルトは「OK, BMW」となっているが、任意のペットネームに設定変更が可能なAI技術を活用した音声入力システムなども備えており、いまBMWがもてる最新装備を満載している。
以前、BMW AGに在籍する日本人デザイナーの永島譲二氏が、「現行BMWのキドニーグリルは四角ではなく、五角形のようなカタチをしていて、基本はその頂点とヘッドライト上端の高さを揃えたデザインになっている。これに対して新型のZ4と8シリーズでは、左右に尖った頂点とヘッドライトの下端を揃えることでより低く見せる工夫をしている」と話してくれた。
なるほど最近の7シリーズといいX7といい、やたらとグリルを前面に押し出したデザインを採用しているけれども、その一方で最新のクーペにはそんな隠し技が用いられていたというわけだ。最新のBMW流調理法で7シリーズとも違う4ドアモデルとして、いい塩梅に仕上がっている。
文・藤野太一 写真・郡大二郎 編集・iconic
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みんなのコメント
ストレス無く扱えるのは、2シリーズクーペくらいのサイズだろう。
BMWに限らず、海外メーカーは日本で拡販したいなら日本の交通事情をもっと考慮してクルマを作るべき。
サイズが小さくても、いいクルマを作ろうと思えばきっとできるはずだ。