日本で生まれ、多くのファンの心をつかんでいた名門車たち。しかし、時代の変化によって海外市場(特に北米)を主戦場とするべく改良を行った結果、ホンダ「アコード」「シビック」、日産「スカイライン」など、日本での販売が低迷してしまったというモデルがある。
北米や新興国の市場が、国内よりも新車販売が活況なことを考えれば、経営戦略として海外に力をいれることは決して間違ってはいない。しかしその反面、国内でのファン離れが加速していることもデータから見て取れる。
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なぜ海外での販売を意識したモデルは、日本で売れなくなるのか? 日本でセダン市場が縮小しているなど以外にもあったその要因を、渡辺陽一郎氏が考察する。
文/渡辺陽一郎
写真/HONDA、NISSAN、SUBARU
【画像ギャラリー】復活を期待したい! 海外向けに舵を切ったことで日本での存在感を失ってしまった名門車たち
■海外向けに変わったことが分岐点となった名門の凋落
クルマの売れ行きを見ると、かつて高い人気を得ながら、今は衰退している車種が少なくない。例えばホンダ「シビック」は、4代目から5代目を売っていた1991年には、1カ月平均で1万4000台を登録した。それが2019年はタイプRを含めて900台程度だ。約30年前の6%しか売れていない。
ホンダ「CR-V」は1995年に発売された初代モデルが1996年に1カ月平均で8600台を登録したが、2019年は1100台だった。これも1996年の13%だ。
シビックの販売台数を2019年累計で見てみると、4ドア:1806台、5ドア:6447台、タイプR:2684台という内訳になっている。5代目のシビックフェリオが全幅1695mmだったのに対して、現行型の4ドアは1800mmと大型化したことでファンからは「もはや別のクルマ」との声も
日産「スカイライン」は「ケンメリ」の愛称で親しまれた4代目が、発売の翌年となる1973年に1カ月平均で1万4500台を登録している。この台数は2019年に小型/普通車の販売1位になったプリウスの1万500台を大幅に上まわる。当時のスカイラインは物凄い売れ行きを誇ったが、2019年の1カ月平均は300台少々だ。1973年のスカイラインは、今の35倍売れており、2019年の比率は3%にとどまる。
スカイラインのピークは月1万台超も売れた4代目「ケンメリ(ケンとメリーのスカイライン)」。V35で従来モデルと異なる方向性に大きく舵を切ったが、これが原因となりファンからは敬遠されることとなってしまった
スバル「レガシィ」もかつては人気車だった。初代/2代目/3代目は、5ナンバーサイズのボディも人気を呼んで、1カ月当たり6000~7000台が登録された。2003年発売の4代目は、ミニバンが人気のカテゴリーに成長した影響もあって売れ行きを少し下げたが、それでも1カ月平均で4000~5000台を登録した。それが2009年に発売された5代目は2000台少々に下がり、6代目の現行型は、2019年の登録台数が1カ月平均で約400台まで落ち込んだ。
このようにかつての人気車が没落した主な理由は、海外向けの車種になったからだ。日本の自動車メーカーは1960年代から輸出を開始して、1973年のオイルショックをきっかけに北米で人気を高めた。燃料代が安く、故障も少なく、なおかつ価格も安いためだ。
これが貿易摩擦に発展した経緯もあり、1980年代には海外に生産工場を造り始める。現地の雇用にも貢献した。その結果、1990年頃には、日本車の海外販売比率は50%前後に達している。
■マイナス要因が重なった3ナンバー車の急減速
そしてこのあと、日本車のクルマ造りに変化が生じた。1989年の消費税導入に伴って自動車税制が改定され、3ナンバーサイズの不利も払拭されて、海外仕様と同様の3ナンバー車が国内でも売られるようになったからだ。大きくて見栄えのいい3ナンバー車が増えればユーザーは喜び、海外仕様との共通化も図れて合理的だと判断された。
ところが、このやり方が裏目に出て、3ナンバーサイズのセダンは売れ行きを下げ始める。3ナンバー車が日本の交通環境で使いにくいだけでなく、海外向けの商品を日本に導入したことの違和感が売れ行きを下げた。当時の北米向けに開発された日本車は、国内のユーザーから見ると、外観デザインなどが大味な印象だった。
また1990年代に入ると、「エスティマ」「オデッセイ」「バネットセレナ」「タウン&ライトエースノア」「ステップワゴン」など、空間効率の優れたミニバンが続々と発売されて売れ行きを伸ばした。セダンが日本を離れて海外向けになるいっぽう、これらのミニバンは日本のユーザーに向けて開発され、目新しさも手伝って好調に売れた。
1998年には軽自動車の規格も一新されて、今と同じボディサイズになった。新車販売台数に占める軽自動車の比率は、1990年頃は20%少々だったが、2000年頃には新規格対応で約30%に達した(2019年は37%)。このほか1999年にヴィッツ、2001年にはフィットと魅力的なコンパクトカーも発売され、国内の売れ筋カテゴリーは、実用重視のミニバン/コンパクトカー/軽自動車になった。
同時に海外の販売比率も高まり、日本メーカーの多くは、ダイハツを除くと世界生産台数の80%以上を海外で売るようになる。日本は20%以下の小さな市場になった。
■日本投入の遅れが悪循環を加速させる
こうなるとホンダの「シビック」「アコード」「CR-V」。日産「スカイライン」、スバル「レガシィ」などは、ますます北米中心の海外指向を強めていく。
アコードセダンは、1993年登場の5代目で3ナンバー車に拡大したら日本での売れ行きが下がり、1997年の6代目で再び5ナンバー車に戻した。しかし、この時点でホンダの売れ筋はオデッセイやステップワゴンに移り、販売の回復は望めず2002年発売の7代目では、海外仕様と共通のボディを使う3ナンバー車に戻った。
そして今では、各メーカーのセダンは、日本国内で売る気を失っている。例えばアコードは2020年2月20日にフルモデルチェンジを行ったが、北米では2017年に新型が発売されていた。日本では2年半も遅れて登場したのだから、もはや新型車とはいえない。
レガシィも2019年7月に新型の生産を北米で開始したが、日本では今でも旧型を売り続けている。
2020年2月に発売された10代目となる新型アコード。北米では2017年に発表、2018年には中国でも発表されており、新型といわれてもピンとこない……というファンの声も聞こえてくる。モデルチェンジ前(9代目)の2019年累計販売台数は1056台だった
2019年2月のシカゴショーで公開された新型(7代目)。 スバル・グローバル・プラットフォーム を採用したボディは、全長4840× 全幅1840 × 全高1500mmとなった。6代目の2019年の累計販売台数は、アウトバックが3875台、B4はラインナップ中最下位の1149台
今日のクルマは、フルモデルチェンジを行うと、衝突被害軽減ブレーキの性能やボディの衝突安全性を必ず進化させる。レガシィも、新型では新しいプラットフォームを使う。そうなると、日本におけるフルモデルチェンジが遅れると、その間は海外仕様に比べて危険なクルマを売ることになってしまう。
多少の時間差は仕方ないとしても、アコードの2年半は開きすぎだ。レガシィも北米で新型の生産を開始したあとの2019年9月に、日本仕様は一部改良を実施した。そうなると今後しばらくは現行型を売る。スバルの販売店では「次期型レガシィは、日本では2020年の秋にデビューすると思うが、今のところメーカーから日程は聞いていない」という。つまり新型レガシィの発売も、海外に比べて少なくとも2年間は遅れる。
以上のように、シビック、アコード、CR-V、スカイライン、レガシィなどの売れ行きが低迷する背景には、複数の理由があった。ミニバン/コンパクトカー/軽自動車の好調もあって、新車販売に占めるセダン比率が下がり(今は軽自動車が37%でセダンは9%)、日本のユーザーとは親和性が低い海外向けを国内導入するようになってしまった。発売時期もアコードやレガシィのように海外に比べて遅れる場合があり、国内で発売した時は古くなっている。
■名門車復活のために求められるメーカーの意識改革
さらに宣伝や販売促進も消極的だ。例えば、ホンダは2017年7月にシビックを国内で復活させたが、この時には先代フィットがマイナーチェンジを行い(2017年6月)、N-BOXの現行型へのフルモデルチェンジもあり(同年8月)、さらにステップワゴンとシャトルのマイナーチェンジも重なった(同年9月)。販売店が多忙に陥ったから、この時期にシビックを復活させても、十分な販売力を投入できないのは当然だった。
時期が悪かった割に堅調に売れたからよかったが、タイミングを選ぶべきだ。新型車が少ない時期を見計らって発売して、例えばシビックとユーザーが一緒に映っている懐かしい写真を募集するとか、中高年齢層のユーザーが「もう一度シビックに乗ってみようか」と思わせる仕掛けが必要だった。
先に挙げた車種は、いずれも今の時代に販促力が弱いから売れていない。それを日本でも売ろうするなら、最小限度の配慮をすべきだ。シビック、アコード、スカイライン、レガシィなどは、すべて日本のユーザーに愛用され、育てられて世界に羽ばたくことができた。その経緯を忘れ、日本のユーザーに海外よりも危険なクルマを売るような真似をしてはならない。
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