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【GT500技術レビュー/ホンダ編】シビックだから採用できた“非対称”なチャレンジ精神

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【GT500技術レビュー/ホンダ編】シビックだから採用できた“非対称”なチャレンジ精神

 今季2024年、ホンダが新たに『シビック・タイプR-GT』を投入。ニッサンはZであることは変わらずも、ベースがロングノーズの“バージョン・ニスモ”に変わった。2023年王者のトヨタGRスープラにベースモデルの変更はないが、空力開発が解禁となり「実質的に新車」だという。そして、各車の内燃機関は最先端へのビッグステップを果たし、未曾有の領域へと達した。

 5月2日発売のauto sport臨時増刊『2024 スーパーGT公式ガイドブック』では、GT500車両開発の裏側を解説。ここでは、シビック・タイプR-GTの一部を抜粋してお届けする。

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 NSX CONCEPT-GT(2014~2016年=MR)、NSX-GT(2017~2019年=MR、2020~2021年=FR)、NSX-GT Type S(2022~2023年=FR)と、ホンダ(現在の開発活動の主体はHRC)は10シーズンにわたって走り続けたNSXに別れを告げ、2024年シーズンからはシビック・タイプR-GT(FR)を走らせる。

 ベース車の変更にともない、ボディ形式は2ドアクーペからハッチバックを持つ4枚ドア車に変わる。サイドから見るとシルエットの違いは歴然としており、リヤ側のボリュームが大きい。

 モノコックをはじめ多くのコンポーネントが共通部品に指定されているため、全面刷新というわけにはもちろんいかない。では中身は変化なしかというとそんなことはなく、外観以上に大きく変わっている。

 2014年にNRE(ニッポン・レース・エンジン)の規定が導入されて以来、GT500各車は2リットル直列4気筒ターボエンジンを縦置きに搭載する。冷却システムは中央にインタークーラーを置き、ラジエーターを左右に振り分けて搭載するのが一般的だ。ところがシビック・タイプR-GTはラジエーターを半減させて左側1基に集約し、空いた空間にインタークーラーを配置する非対称レイアウトとした。

「一番大きくチャレンジした部分です」と、GTプロジェクトリーダーを務めエンジン開発を率いる佐伯昌浩氏は説明する。「搭載位置は前になるものの、真ん中の上のほうにあったインタークーラーを下に持っていき、水が入ったラジエターをひとつ減らしました。低重心化と軽量化を図り、重心位置を車両中心側にもっていくのが狙いです。エンジンの冷却効率は下がるのですが、熱効率を上げていくNRE開発の方向とは合います」

 シリンダーでの爆発的な燃焼によるエネルギーは冷却水との温度差が大きいほど、出力に変換されずに逃げてしまう。冷却損失低減の観点からは、できるだけ高い水温で運転したい。ホンダはそこを攻めたというわけだ。

 高水温にすると大気圧では100℃で沸騰してしまうので、水圧を上げてキャビテーション(泡の発生)を抑えることになる。ラジエターコアは共通スペックであり、耐圧性能を上げたラジエターを適用するわけにはいかない。共通コアが耐えられる範囲で水圧を上げ、高水温化したのが実状。インタークーラーの位置が左ではなく右なのは、このレイアウトのほうが「圧力損失が少ない」からだそう。

 NSXでは非対称レイアウトは採用できなかった。なぜなら上面視した際、フロントバンパー角が切り落とされた形状になっていたからで、物理的に不可能だった。シビックはスクエアな形状のためスペースに余裕ができた。熱交換器の非対称レイアウトを採用したシャシー側の背景について、車両開発を担う徃西友宏氏は次のように説明する。

「ラジエターは冷却要件次第で小さくできるのですが、インタークーラーは最大容積で決められているし、厚みも決まっているので縦横比を変えるくらいしかできません」

「シビックが手元に来てラジエターを片側に寄せることになり、空き地をどうするかとなったときに、インタークーラーがジャストサイズで入ったということです。担当者が早い段階で見いだしてくれたので、このレイアウトを成立させる前提で開発日程を組みました」

■NSXでは到達できないレベル

 シビック・タイプR-GTは2023年7月に岡山でシェイクダウン。暑い日本の夏で高外気温での確認を済ませ、冷却性能に関する不安要素を取り除いている。2024年1月末のセパンテストで初めて高外気温を経験し、そこで課題が見つかったのでは開幕までに慌てふためくことになるのは必至。「セパン後での手戻りは致命的なので、早めにシェイクダウンできたのは良かった」と徃西氏は振り返った。

 熱交換器レイアウト変更の第一の目的は、オーバーハング部分の軽量化による運動特性の改善だ。軽量化分はバラスト的なウエイトとして、車両の中心方向など自由な場所に持っていくことができる。その結果、回頭性向上などの効果が期待できる。

 NSXと同じレイアウトを引き継いだほうがリスクは抑えられる。にもかかわらず大がかりな設計変更に取り組んだのは「これくらい大胆なことを入れていかないと、他社さんの性能向上に追い付いていけない」(徃西氏)との危機感からだ。熟成が進んだ競合他車に対し、これから熟成を図る1年目のクルマを正攻法で持ち込んだのでは、太刀打ちできないのは目に見えている。だから、リスクを承知で高いポテンシャルがあるレイアウト変更を採用したのである。

 インタークーラーの搭載位置がエンジンルームの奥の上から手前の低い位置になったことで、効率良く使えるようになったのもレイアウト変更のメリットだ。これまでインタークーラー用に割り当てていたグリルの開口部は、広くエンジン吸気に使うことができるようになったのもメリットである。熱交換器レイアウトの変更にともない、ボンネットフード上のアウトレット形状も変化。NSX-GT時代に比べ面積は大きく減少している。空力と冷却のバランスに関しては「以前より非常に楽にいろいろ試せている」という。

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 発売中の『2024 スーパーGT公式ガイドブック』ではこのほか、TOYOTA GR Supra GT500編『「実質的に新車」の決意』、Nissan Z NISMO GT500編『ハイレベルな“顔”を磨く』も収録されている。


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