2019年、スーパーGT GT300クラスには多くの注目のエントリーがあるが、その中でも話題を集めているチームのひとつが、マクラーレン720S GT3で参戦するMcLaren Customer Racing Japanだ。1996年のJGTC全日本GT選手権を席巻したチーム・ラーク・マクラーレンの流れを汲むチームの復活に向け、本格的に動き出した。
JGTCの黎明期である1996年、国産GTカーたちを前に圧倒的なパフォーマンスをみせたマクラーレンF1 GTR。その後チームの母体となったチームゴウは、2004年にル・マン24時間で優勝するなど、世界的に活躍するレーシングチームとなった。
チームゴウ、マクラーレン720S GT3でスーパーGT&スーパー耐久に参戦! 鈴鹿10時間も
その魂を継ぐチームゴウモータースポーツが、McLaren Customer Racing JapanとしてスーパーGTに帰ってくる──。そのニュースは日本のモータースポーツファンはもちろん、チームゴウの知名度もあり海外でも非常に大きく取り上げられた。
この復活劇についてMcLaren Customer Racing Japanを率いる岡澤優監督に話を聞くと、2009年のル・マン24時間挑戦を終えてからも、チームゴウを率いていた郷和道氏は国内外で行われているモータースポーツのすべての動向を把握していたという。
そんななかでマクラーレン720S GT3のデビュー、そしてその車両を使ってのレース参戦の計画が持ち上がった。ただスーパーGTとピレリスーパー耐久シリーズがターゲットとなったのは、「ついこの間の話です」と岡澤監督。
「参戦する条件もそうですし、エントリーも条件が整わないとできないですからね。けっこうギリギリのタイミングの決断だったのではないかと思います」
そこから慌ただしくチームのパッケージが形づくられ、ドライバーは郷氏が選定。スーパーGTについては、荒聖治とアレックス・パロウというコンビが決まった。
「スーパーGTは勢いや速さだけでは勝てないので、そこで荒さんの経験が重要になる。パッケージとしては、ベテランでスーパーGTを知り尽くしているドライバーと、これから伸びてくる若手のコンビが良いのではないかと判断されたんだと思います」と岡澤監督は言う。
■テスト2日目にはトップタイムも。ドライバーも好感触
こうして2019年の参戦に向けて動き出したMcLaren Customer Racing Japanが、初めて他のGT300チームとともに走る機会となったのが、2月25~26日にツインリンクもてぎで行われたメーカーテストだ。ただこの時走行したシルバーメタリックの720S GT3は、マクラーレン・オートモーティブのテストカー。これにスーパーGT用のヨコハマタイヤを装着した。
今回のテストでのピットを観ると、岡澤監督や土沼広芳エンジニアをはじめ日本人も多いが、目についたのはグレーにオレンジのラインが入ったウェアを着込んだマクラーレン・オートモーティブのスタッフだ。
岡澤監督によれば「今回はテストカーなので、それをケアする意味でマクラーレンのスタッフ、ボッシュのエンジニア、それからマクラーレンのテストチームのメカニックがそのまま来ています」とのことで、今後実戦に向けて「どういう体制にしようか検討します。おそらく日本人と外国人の混成チームにはなると思います」という。
走行初日の午前こそ、燃料のカットオフバルブが作動してしまうトラブルが起きてしまったが、「我々もまだクルマの知識が少ないですし、ちょっとしたシステムの設定だったり、操作方法であんなことになってしまう。チームとしては時間を失ったのは痛かったですが、経験になったのは良かったです(岡澤監督)」とそれ以降は順調に周回を重ねた。エキゾーストノートは低くレーシーで、何よりそのボディはGT3カーのなかでも屈指の美しさ。“速くない訳がない”とすら思えてしまった。実際、走行2日目にはパロウのドライブでGT300車両9台のなかでのトップタイムをマークした。
「僕にとって、スーパーGTは初めてのGTカーレースなんだ。2年前にコーチングでフェラーリチャレンジに乗ったことはあるけど、GT3は初めてだ。でも素晴らしいクルマだし、ドライビングもとても楽しいよ。相対的なパフォーマンスについては最初のレースまでは分からないけど、バランスもすごくいい」と好感触を得たのはパロウ。
「このテストの前にコントロールタイヤで走ったんだけど、ヨコハマのスーパーGTタイヤは本当にすごいね。違うマシンに乗っているみたいだったよ(笑)。今からシーズンが始まるのが楽しみだし、いいパフォーマンスをみせたいね」
そしてチームにとって欠かせないエースと言えるのが、スーパーGTに復帰する荒聖治だ。マクラーレン720S GT3について聞くと「まず何よりカッコいいですよね!」と笑顔をみせた。
「マクラーレン720Sは、もともと市販車の完成度が非常に高いので、レーシングカーになっても好印象です。カーボンモノコックですしミッドシップレイアウトなので、スーパースポーツの動きをします。気持ちいいですね」と荒。
「テストは初日に少しトラブルが出ましたが、初日午後以降は順調に来ています。今回もてぎで初めてスーパーGT用のタイヤを履いてテストしましたが、あとはもう公式テストしか走れない。僕たちにはあまり余裕がないので、できることをすべてやっているところです」
■「トップ争いをしたい」荒聖治も意欲
郷氏が選んだ荒とパロウという組み合わせも、かなり理想的なものと言えそうだ。フォーミュラではこれまでも切れた走りをみせてきたパロウに、経験豊富な荒がこれまで培った“技”を教える。
「アレックスは速いです。すごく速い。そういう勢いがあるドライバーと一緒に戦えることは刺激的ですね」と荒が言えば、パロウも「荒さんは素晴らしい先生だ。今はまだチームとともにいろいろなことを学んでいるところだけど、荒さんはとても的確なコメントをして、チームの成長を助けてくれるんだ」と語る。
「スーパーGTは1周を速く走るだけではなく、レースを通じて高いレベルで走らなければならない。荒さんからはそのあたりも学んでいきたいね」
荒は新規参戦ながら、「やはり今年はトップ争いをしたいですし、シリーズチャンピオンの権利を最後までもって戦いたいと思っています」と高い目標を語る。
「昨年を観ているとブリヂストンタイヤ勢が強かったりしましたが、僕たちのパッケージのなかでベストを尽くしたいと思います」
荒のコメントにもあったとおり、720S GT3は、GT3カーのなかでは異色とも言えるカーボンモノコックをもつスーパースポーツがベース。GT3カーはベースとなる市販車の素性がレーシングカーにも色濃く反映される。そのため、ひょっとするとGT300で採用されるSROモータースポーツ・グループの性能調整は厳しくなる恐れもあるが、それでもこのマシンに期待せずにはいられない。
ちなみに、すでに発表されているとおりMcLaren Customer Racing Japanの720S GT3は、往年のラーク・マクラーレンを想起させるグレーと蛍光レッドのカラーリングが施される。チームが使用する720S GT3は、3月初頭には日本に届き、その後カラーリングが施され、3月16~17日に岡山国際サーキットで行われるテストには、本番のカラーで登場する予定だという。
「カラーリングについては皆さんの期待がかなり大きいようなので、そのプレッシャーは私たちも感じています(笑)」と岡澤監督は笑顔で語ってくれた。
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