久しぶりに行動制限のない夏休みで、一家そろって故郷の実家へドライブを楽しんでいる方も多いだろう。そんな皆さまへ、ぜひとも「最近だからこそ」気をつけてほしい交通事故ポイントをお知らせしたい。カメラとモニターの普及により、クルマ周辺の小児事故は減少傾向にある。それ自体はもちろん大変喜ばしいことではあるが、それゆえ増えてきた事故もある。たとえば発進時の子どもを巻き込む事故。考えただけでも恐ろしい…。
文/加藤久美子、写真/加藤博人、AdobeStock(アイキャッチ写真は@Halfpoint)、グラフ資料/公益財団法人交通事故総合分析センター「イタルダインフォメーション141号」
クルマ周辺の子どもに気づかず衝突!! 一番多い車種はミニバンで5割以上ってマジか…そうか……
■自宅や商業施設の駐車場でクルマの前にいる子どもに気づかずひいてしまう悲劇
クルマの周囲に小さな子どもがいることに気づかず発進して子どもをひいて死なせてしまう事故は、リアビューカメラの普及もあって「後退時」は激減し、近年は「前進時」で多く発生している。
2022年7月24日、奈良県で起こった悲劇もこのケース。49歳の祖母がクルマの右前に1歳の孫がいることに気づかず前進してしまったことで発生した。はねられた孫は死亡。事故の場所は自宅の敷地内だった。事故を起こした祖母は「孫はプールで遊んでいるだろうと思った」と話している。
同年8月8日にも京都市内で同様の事故が起きている。買い物から帰宅した母親が駐車場に入れる際、1歳女児をはねて死なせてしまった。女児は買い物には同行せず、自宅できょうだいと留守番していたが、母親が帰ってきたことに気づいて一緒に外に出たところだったという。
「バックモニターが付いているから安心」というわけではなく、運転時は常に周辺への注意が必要(写真/AdobeStock@Halfpoint)
実家に幼児を連れて帰省しているときや親戚が多く集まる場所など、家族や親せきが多いと「子どもは誰かが見ているだろう」という気持ちになってしまう。
親のほうもつい、久しぶりに会う親戚と話が盛り上がってしまう。実家ということもあり、我が子への注意が散漫になりがちだ。そんな時に事故は起きる。
今年は3年ぶりに行動制限のない夏休みとなる。郷里の友人や家族、親戚などがたくさん集まる機会もあるだろうが、自宅にしても商業施設にしても子どもの所在について保護者は常に把握しておく必要がある。
ところで、このような事故はどのような状況で、どのような車種で多く起きているのだろうか。
公益財団法人 交通事故総合分析センター(以下イタルダ/ITARDA)の「イタルダインフォメーション141号~低速で子どもが轢かれる事故~くり返される発進時の悲劇」の調査結果を紹介してみたい。
(1)速度10キロでの衝突死は3歳以下が突出して多い
クルマと歩行者が衝突する事故においてはクルマの速度が速いほど死亡率が高まるが、そうならない年齢層がある。それが0-3歳の子どもたちである。他の年代ではごくわずかな死者数となる「10km/h」という速度で突出して多い。これはどういうことか。クルマが発進直後の低速時に前にいる小さな子どもに気づかず轢いてしまう状況を意味している。
歩行者の死者割合(「イタルダインフォメーション141号~低速で子どもが轢かれる事故~くり返される発進時の悲劇」より)
イタルダの調査では「1992年~2000年」と「2011年~2021年」において年代別の「歩行者対四輪車死亡事故死者数」を公開している。0-3歳に限定すると時速10km/hでの死者割合が突出している。92年~00年に比べて、11年~20年の方が増えているのは、ミニバンなど車高の高いクルマがファミリーカーに使われるケースが圧倒的に増えたからだろう。それでも全体的には減っているのは、リアビューモニターをはじめ運転席から確認できるカメラ類の設置が進んだからだと考えられる。
(2)車種はミニバン+1BOXがなんと5割以上
このような事故を起こしている車種はどのようなタイプが多いのだろうか?
「3歳以下」と「13-64歳」では、死亡の原因となる車種が大きく異なっている。3歳以下ではミニバン+1BOXで合計52%、13-64歳では貨物車が最多で46%、ミニバン+1BOXは合計9%で1割にも満たない。
死亡事故の相手方の車種(年齢別)(「イタルダインフォメーション141号~低速で子どもが轢かれる事故~くり返される発進時の悲劇」より)
また、近年ファミリーカーとして人気のSUVも「車高が高いクルマ」に該当するが、圧倒的に少ないのは最近のSUVはボンネットの位置が低くなっていること、そして「サイドアンダーミラー」(現在の直前直左鏡)が自主規制含めて早い時期(90年代半ば)からあったことも関係していると思われる。
ちなみに新規生産車は2005年から、継続生産車は2007年から6歳児の体格を想定した「直径30cm高さ1mの円柱」が運転席からカメラなど含めて確認できることが保安基準として義務付けられている。(後述するが、1歳児の平均身長は75cm)
(3)3歳以下の子どもは「自宅から半径50m以内」で「前進時」に事故死する例が最多
では、3歳以下の子どもたちはどんな場所でどんな状態の時に事故にあっているのだろうか。
事故発生地点の自宅からの距離についても3歳以下では大人世代と比べて顕著な違いがみられる。
死亡事故の発生場所(年齢別)(「イタルダインフォメーション141号~低速で子どもが轢かれる事故~くり返される発進時の悲劇」より)
3歳以下では自宅から50m以内が最も多くて46%、13-64歳では自宅から50mは12%しかなく、それ以外が88%となっている。つまり、0-3歳では半数近くが自宅の駐車スペースや庭など家から近い場所で衝突事故にあい亡くなっていることがわかる。
歩行者と衝突した際、クルマがどのような状態にあったのか、という調査結果もある。こちらも0-3歳児は発進時(=前進時)が74%、13-64歳が同じく23%であることを考えると、「0-3歳児の多くはミニバンやワンボックスなど車高の高いクルマの前にいてドライバーがそれに気づかず、発進して子どもにぶつかって亡くなっている」ことがわかる。
死亡事故時の相手方の車両状態(「イタルダインフォメーション141号~低速で子どもが轢かれる事故~くり返される発進時の悲劇」より)
なお、後退時が0-3歳児では6%と少ないのは、最近のミニバンや1BOXにはほとんどがリアビューカメラを備えていることが理由だと考えられる。ドライバーの目に後部の様子が目に入ってきやすい状況なので、クルマの後ろに子どもがいてもすぐにわかる。リアビューカメラの普及によって後部の安全確認がやりやすくなった結果、今度は前進時に幼い子が犠牲になる事故が目立つようになってしまったというわけだ。
(4)事故の曜日や時間、そしてドライバーの年代は?
事故がおこった曜日は平日が90%、休日が10%で時間帯は昼間が65%となっている。3歳以下の子どもが10km/h前後の低速でクルマにひかれて亡くなる事故は平日の昼間が最も多い。夜間で暗くて見えなかったということではなく、ドライバーの安全確認ができていなかった、もしくは安全確認をしていなかったことが主な理由だ。
事故の当事者であるドライバーの年代は、1位30-39歳(38%)、2位20-29歳(21%)、3位40-49歳(16%)となっており、亡くなった子供の親世代に相当する。男女比は男49%、女51%でほぼ同じである。
■悲しい事故を減らすためにはどうしたらいいのか
イタルダの調査結果をまとめてみると、3歳以下の子どもがクルマに衝突して亡くなる事故の場合、「家から近い場所で平日の昼間にミニバンやワンボックスを運転する親世代のドライバーの不注意(クルマの前に子どもがいたことに気づかない)によって起きている」パターンが多いことがわかる。
もっとも安全な場所であるはずの自宅のすぐ近くで命を落とすことは、大変悲しく悔やまれる事故である。
自宅近くでの事故となれば、運転者は父や母、祖父母など家族であるケースがほとんど。自分の不注意でかわいい我が子や孫を死なせてしまうことは後悔してもしきれない。一生、重い十字架を背負って残りの人生を過ごさなくてはならない。
それでは、我が子を死なせてしまうという悲惨な事故が起きないようにするにはどうしたらいいのか。イタルダの調査結果を踏まえて以下のことを、今いちど肝に銘じておきたい。
(1)親戚や家族がたくさんいても、幼い子どもがいま、どこにいるのか?を常に意識して行動する
(2)クルマで出かける際には、きょうだいなどほかの家族に確認させたとしても、必ずクルマを発進する前にはドライバーが子どもの存在を確認する(全員乗っているか? クルマの周囲に子どもはいないか?)
(3)死亡例が多い0-3歳児はもちろん、子どもをクルマから降ろす際には、クルマを完全に駐車して降りる準備をしてからドライバーと一緒にチャイルドシートから子どもを下ろす。もしくは家の中に誰かいる場合は、子どもを先に下ろして家族に確実に引き渡しておく(この場合、子どもがクルマに戻った親を後追いしないようしっかり家の中にとどめておくこと。子どもは親の姿が見えないと探そうとして追いかけてクルマに戻る危険もあるからだ)
これらの注意事項は親子関係や家族構成、家と駐車場の位置関係など考えてベストな選択をしてほしい。
なお、車内で短い時間(1-2分)子どもを待たせる場合にはクルマの鍵を子どもに渡さないこと。子どもが鍵を持って車内で操作しインロックしてしまう事故が多発している。やむを得ず、子どもを車内に待たせる場合は1-2分程度にとどめることも重要だ。
ご近所さんとの立ち話に夢中になって車内に子どもを置いてきたことをすっかり忘れてしまうトラブルも珍しくない。
どんな時でも、自分で自分の命を守れない子どもがいる家庭では、常に子供の居場所を片時も忘れることなく把握しておくことが大切だ
■運転席から小さな子どもはどのように見えるのか確認しておこう
クルマによって、またドライバーの着座位置や視点によっても当然子どもの見え方は大きく変わる。他の家族の協力が得られる場合に限り、実際に子どもをクルマの前に立たせてみて見え方を確認しておくことを勧めたい。
危険な場合は子どもと同じ身長の棒などを立ててみてもいいだろう。身長によって運転席からの見え方がどう変わるのか? なお1歳0か月の子どもの身長は約75cm、多くの子どもが自分でしっかりと歩き始める1歳6か月では約80cmである。保安基準で定められている身長1m(6歳児平均)には程遠いことも知っておきたい。
身長1m以下の子どもの姿が運転席から確認できなくても保安基準には適合していることになる。
自分の子どもや孫がどれくらいの身長なのか?を知っておくこと、そして子どもがクルマの前に立った時に運転席からどのように見えるのか。
身長150cm以下の小柄なママと180cm以上の大柄なパパでは見え方も当然異なる。ドライバー自身が座って確認することが大切だ。またシートハイトアジャスターなどシートの高さ調整ができる車種なら最大限、座面を上げて安全確認しやすい位置にセットしてほしい。
夏休みや年末年始などの帰省シーズンは家族や親せきが大勢集まるという家庭も多いだろう。みんなで子どもに注意をしておくのは重要だが、「誰かが見ているだろう」「さっき、親戚の子どもと遊んでいたから大丈夫だろう」という「だろう」ではなく、クルマを運転するドライバーや親自身が子どもの居場所をしっかりと確認しておくことを心掛けて欲しい。ほんの一瞬の不注意や思い込み、カン違いによって取返しのつかない悲しい事故が起きませんように祈るばかりだ。
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みんなのコメント
よく見てないんだろうな。
存在感から周囲が避けてくれると思ってる節もある。
遠くがよく見えるからそこばかり意識がいっていて
周囲を見てないから迷惑運転が目立ってしまう。
注意力がないんだよ。
自分さえ良ければという自分勝手なカスが多いから
事故を誘発する。