2023年にスーパーGT、スーパーフォーミュラでダブルタイトルを獲得したTOYOTA GAZOO Racing(TGR)の宮田莉朋選手。2024年は海外に拠点を移してFIA F2、ELMS(ヨーロピアン・ル・マン・シリーズ)に参戦しつつ、WEC(FIA世界耐久選手権)にテスト・リザーブドライバーとして帯同します。
第8回目となる今回のコラムでは、一時帰国した際の師匠とのエピソード、そしてル・マンの際に若手ドライバーに伝えた海外で戦う上で必要なメンタルについてお届けします。
中嶋一貴副会長が総括する宮田莉朋のFIA F2前半戦、そして2025年に向けて「いろいろ動きがあると思います」
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みなさん、こんにちは。宮田莉朋です。短い夏休みを終え、2024シーズンの戦いもいよいよ後半戦に入りました。
今年の夏休みは日本に一時帰国し、富士で行われたTGDA夏祭りにも顔を出すことができました。なかなか会えなかったTGRのチーム関係者やモリゾウさんにご挨拶に行きまして、トムスの伊藤大輔さんやミハエル・クルムさんにも会えたり、あとは(高木)虎之介さんに相談事があったのでお話ししたりと、日本でお世話になっていた方に会えてとてもよい訪問になりました。どんな話をしたのかは、後ほどお話ししたいと思います。
さて、まずはその夏休み直後、久々の参戦となったELMSヨーロピアン・ル・マン・シリーズのスパ・フラコルシャン戦から振り返りたいと思います。
8月末、ル・マン以来久々にクール・レーシングに戻り、ELMS第4戦に参戦しました。今回は、開幕前の怪我でシーズン序盤戦を欠場していたフェルディナンド(・ハプスブルク。チーム内の47号車で出場)も帰ってきたので、彼とずっと一緒に食事をして、自分の悩んでいることも相談できました。ELMSはレースのことも、レース以外のことも、みんなと話ができる場だったので、楽しく過ごすことができたと思います。
もちろん、チームとしては開幕戦のバルセロナ以降、ポイントが取れていないので結果を残さなければいけない状況ですが、耐久レースでもありますし、ドライバー3人が団結しないと勝てない。ですから、全員が安定した強さと速さを発揮できるように過ごした、と言ったほうがいいかもしれません。
5月のWEC(LMGT3)、そして7月のFIA F2でも走ったスパということもあり、「いまのコースを一番知っている」という理由で、僕がアタックを担当することになりました。最近のスパは路面が新しい舗装になった部分があるなど、コースが少し変わっているんです。
15分間の予選では、赤旗中断もありました。僕はまだアタックラップに入る前だったので、影響は最小限だったと思います。再開後のアタックラップも悪くはなかったのですが、使っているエアロキットが周囲と全然違っていたので、それが結果に出てしまったかもしれません。4番手でしたが、周りと同じアプローチにしていれば、もうちょっと行けたのでは? と個人的には思っていますし、このあたりは分析が必要かなと思います。
決勝はロレンツォ選手がスタートを担当。僕はセーフティカー中、2番目に乗り込むことになりました。リスタートで前のクルマのインを狙ったのですが、当たることを避けて引きました。デグラデーションへの懸念もあったので、その後もあまりプッシュすることは意識していませんでした。
ペースを上げたくても、トラフィックが運悪いところで絡むことも多く、前とのギャップが開いてしまった印象です。そのなかでも燃費セーブは徹底的にやって、ピットでの給油時間をなるべく減らす努力はしていました。
その後、変わったマルテ選手は、タイヤが剥離した影響で終盤にポジションを落としてしまいました。表彰台圏内を走っていたので、残念です。この問題は(第2戦の)ポール・リカール以降、ずっと起きているので、今後の再発はしっかりと防ぎたいところです。残り2戦が本当に大事になってくるので、そこはしっかりと改善しないといけないですね。
■世界で戦う上で若手に伝えたいメンタル力
さて、今回は先日のオートスポーツwebでのFIA F4ドライバーのインタビュー(佐野雄城/卜部和久)でふたりが今年のル・マンを訪問した際の思い出として、僕のメンタルの話を挙げてくれていたので、レースを戦う上でのメンタルの部分について、僕のこれまでの経験と、僕の考えをお話ししようと思います。
ます、僕が大切にしているのは、周囲の声を引きずらないことです。
これはレースでも日常生活でもそうですが、自分がやっていることに対して、直接的または間接的に、周りの人からなにか言われたり、評価されることが常日頃あると思います。
でも、そこで一番大事なのは『一番自分のことを理解しているのは誰なのか』ということ。もちろん、良かれと思っていろいろなことを言ってくれる人もいますが、最終的には自分のことを一番理解しているのはその人ではなく、そして家族でもなく、やっぱり自分自身だと思うんですよね。
ですので、『自分の強みはなにか』、『今の自分には何が足りていないのか』、といったことは、やっぱり自分が一番理解していると思うんです。……というようなことを、今年のル・マンに来ていた佐野雄城選手と卜部和久選手にも話したような気がします。
彼らのような、これからステップアップしていく選手には、いろいろな部分で周囲からのアドバイスがあると思います。もちろん、そこでドライビングアドバイザーやエンジニア、メカニックの方とコミュニケーションを取ることは大事なのですが、その人たちが教えてくれることが『本当に自分にとって必要なのか』という部分を、自分なりに考えてほしいと思います。
僕自身はこれまで、自分にとって必要だと思ったらアドバイスどおりにやってきましたし、必要ではないと思ったら……極論を言えば、一切無視するぐらいのことをしてきました。
年齢の若い育成時代は相手からのひとことで傷つくこともあるし、ドライバー同士でも自分が相手に対して後輩という間柄だと、先輩ドライバーに対して気を遣うこともあると思うのですが、『その関係性がレースに影響するくらいだったら、一切言うことは聞かなくていい』、くらいのことを彼らには伝えました。
とくにヨーロッパに来ると、物事をはっきりと伝えなくてはいけない文化ですので、そこは僕も意識してやっていますが、自分が言われる側になると「そこまで言わないでよ」と思うこともなくはないです(苦笑)。ただ、そのダメージをどれだけコントロールするかは、やっぱり自分自身なんですよね。
■尊敬する師匠から得た、これからのステップに必要なもの
日本でFIA F4に参戦している彼らにこの話が響いて、いい方向に行っているのならうれしいですし、僕はその部分でずっと悩んできたこともありました。そこをどう考えるか、どうやって成功すべきかを教えてくれたのは、(高木)虎之介さんでした。僕がカートからFIA F4に上がるときですね。それ以来、僕は虎之介さんを師匠とさせてもらっています。
周囲の声が気になることもありましたが、虎之介さんがその部分をちゃんと教えてくれたので、自分で決断することができ、ここまでの成績を残せていると感じているので、そういったメンタリティは大事だなと思っています。
僕も虎之介さんのようにF1に参戦して、日本に戻ってきた時にもフォーミュラ・ニッポンで圧倒的な成績で(10戦中8勝)チャンピオンを獲得して、同じようなキャリアを歩みたいというのもあります。僕が小さい頃から『F1ドライバーになりたい』と訴えていたことが虎之介さんにも響いていたみたいで、今でもかわいがっていただいています。
今の僕はF1を目指す最後の段階にいるわけですが、そのなかでF1の世界に入るためにはどのようなドライバーになって、どのような人間になるべきなのか、周りの環境をどう作っていくか。そして F1の世界に入ってから日本人はどう戦わなくてはいけないのか。夏休みで日本に帰ったときには、そういった部分もお話しさせてもらいました。
他にも今回の帰国ではいろいろな会いたい人に会って、話をしたので、短かったですけどいろいろと勉強になった夏休みでした。
すでにFIA F2は後半戦が始まっています。もちろん、結果を出したいという気持ちはずっとありますが、今の僕はもう「まったく焦る必要はない」という心境でいます。
もちろん、結果を残せるときには残す。でも、それ以上のことは自分の力が及ばない部分もあるし、周りとは時間と経験の差もあるので、そのなかで自分がいかにやり切れるかどうか、来年につなげられるような経験を積めるかどうかだと思っています。
⚫︎今月の“リトモメーター”
三刀流+moreとして世界のさまざまなサーキットを訪れる2024年の宮田選手の移動距離を、フライトマイルで計測。ご本人のアプリのスクショを公開させていただきます。
⚫︎2024年累計
71回の搭乗
121,154マイル
搭乗時間:300時間37分
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