遠隔でクルマを運転 実現へ法整備
イングランドとウェールズの法律委員会が「遠隔運転(リモートドライブ)」に関する一連の勧告を発表したことで、英国では最近、遠隔操作による自動車の運転が話題になっている。
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この技術は、何百、何千kmも離れた場所にいるオペレーター(操作者)が、道路を走る無人運転車をコントロールするというものだ。業界関係者は、法律委員会の介入を大きな前進として歓迎している。
ミルトン・ケインズで遠隔操作車両を運用するインペリウム・ドライブ社の共同設立者であるクーシャ・カヴェ氏は、法律委員会の一連の勧告について、次のように説明する。
「法律委員会は、遠隔運転が禁止されるのかと思っていた人たちに、禁止されないことを示したのです。投資家たちは、規制のリスクが下がったと確信しています」
AUTOCARは2021年、インペリウム・ドライブ社傘下のフェッチ(Fetch)の事務所を訪問し、遠隔運転技術がどのようなものか、興味深い洞察を得ることができた。この事務所から、複数のスクリーンに囲まれたオペレーターがステアリングホイールを握り、乗用車を公道で走らせる。接続は携帯電話ネットワーク経由で行われ、車両には視界を確保するためのカメラが取り付けられている。
フェッチの手掛ける事業は、オンラインで依頼を受けた顧客の玄関先まで迎えに行き、ミルトン・ケインズ中心部の好きな場所に連れて行くというものだ。要するに、クルマを所有する必要がないタクシーのような配車サービスであり、人間のドライバーを車両から排除することで、従来のタクシーよりも手頃な価格を目指している。
遠隔運転の事業化を目指しているのはフェッチだけではない。ドイツでは、ベルリンに本社を置くVay社が、「テレドライビング」と銘打った独自の技術を掲げる。Vay社は最近、ハンブルクで人間のセーフティオペレーターなしで自動車を運転する許可を得たが、これは欧州で初めてのことである。また、2月に開催された携帯通信業界最大の見本市「MWC」では、ベルリンにある車両をスペイン・バルセロナのオペレーターが操作する様子を披露した。
「遅延」への対応 オペレーターの資格は?
英国でにわかに注目を集める遠隔運転。問題点や課題は何か、またどのように解決していくのか。関係機関の姿勢や各社の対応をまとめた。
――遠隔運転の安全性はどのように確保されるのか?
スマートフォンの電波が途切れたことがある人なら、遠隔操作のクルマでも同じことが起きるかもしれないと考えるだろう。しかし、フェッチもVay社も同じアプローチでこの問題に対処している。冗長なモバイルネットワークを使用することで、あるネットワークで信号が受信できなくても、別のネットワーク経由で通信することができるのだ。
――ネットワーク上の遅延は?
この点については、懐疑的な意見もあるようだ。例えば、自動運転の開発会社である米国のファクション社は、次のように主張している。「ステアリング操作の問題点は、携帯電話ネットワーク接続時の遅延(=タイムラグ)です。人間は50~100ミリ秒のレイテンシーでも操作できるようになりますが、長時間続くと非常に疲れますし、ストレスが溜まります」
致命的な遅延が発生した場合、フェッチとVay社ではいずれも「最小リスク操縦」と呼ばれるシステムを発動し、車載技術によって自動的に走行を中止、停止させる。
――遠隔運転のオペレーターにはどんな資格が必要なのか?
オペレーターには、まず通常の運転免許が必要であることは明らかだが、遠隔運転のための免許は存在しない。これは英国の法律委員会の懸念事項でもある。そこで同委員会が提案したのが、ERDO(Entity for Remote Driving Operation)許可証で、運営会社が従業員の能力について責任を持つというものだ。
英国では、車両型式認証機関であるVCA(自動車安全証明局)がこのような制度の責任を負う可能性を示唆している。
事故時は誰が責任を負うのか
――事故が起きた場合、誰が責任を負うのか?
法律委員会は、過失があった場合、オペレーターは従来のドライバーと同じ罪で起訴されるべきであると勧告している。しかし、「接続の問題や遠隔操作機器の不具合」など、オペレーターの管理の及ばない問題については、責任を負うべきではない。そのような場合、制裁を受けるべきは会社であり、起訴される可能性もある。大まかにはVay社も同意見で、広報担当者はAUTOCARに対し「責任の所在は、個々のケースに大きく左右されます」と語っている。
――「遠隔」とはどこまでが遠隔なのか? 国外からも操作可能か?
英国の法律委員会は、この点について明確に述べている。国外の司法権では強制力がないことを懸念し、「国外から車両を遠隔操作することは禁止すべき」としている。例えば、事故が起きたときに遠隔運転していたドライバーの呼気検査(酒気帯びなどの検査)を、国外では迅速に行うことができない。
インペリウム・ドライブ社のカヴェ氏もこの考え方に理解を示しているが、長期的には、個人ではなく雇い主の会社に責任を負わせる制度が導入されれば、「オペレーターを国外に置けない理由はない」と考えている。
――遠隔運転はセキュリティ上のリスクが高いのでは?
運営会社によれば、そうではないようだ。Vay社の広報担当者はこう説明する。「当社は(ドイツの認証機関である)テュフズードから、自動車産業におけるサイバーセキュリティの新基準であるISO/SAE 21434の評価を受けており、肯定的なお墨付きをもらっています」
「例えば、Vayのデータは、すべての伝送ポイントで暗号化されます。遠隔運転ステーションには、許可されたオペレーターしかアクセスできず、アクセスは技術的手段によって保護されています」
――普及の可能性は?
新しいタイプの交通手段として、普及を疑問視する声がある一方で、遠隔運転車の費用対効果と利便性を求めて自家用車を手放す人もいるかもしれない、という考えもあるようだ。フェッチは、今年中に運用車両を5台から50台程度に増やす意向だ。
果たして実現可能かどうかはまだわからないが、法律委員会の勧告は業界にとって正しい方向への一歩と解釈されており、長期的にはさまざまな法律や規制を基に、道路を走る遠隔運転車が増えていくことになるかもしれない。
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