■ヴァンテージ、スーパーカーの仲間入りを果たす
アストンマーティンのなかで、もっとも成功したモデルが、ヴァンテージ・ファミリーだ。過去70年間に亘って、3万6000台以上のヴァンテージがハンドビルドによって生み出されてきた。
ボンドカーになった! アストンマーティン「ヴァンテージ」を代表するDBシリーズ5選
1970年代後半からのヴァンテージは、スーパーカーにも引けを取らない性能が与えられ、イアン・カラムがデザインした「DB7 V12ヴァンテージ」以降は、外観もスタイリッシュなリアル・スポーツカーへと変貌を遂げた。そこで、最新モデルへと続く現代ヴァンテージ5車種を紹介しよう。
●V8ヴァンテージとV8ヴァンテージ・ザガート
1977年の発表当時、「英国初のスーパーカー」と称賛されたのが、初代アストンマーティン「V8ヴァンテージ」だ。このクルマは、先代モデルとはまったく異なるエンジニアリングおよびパフォーマンス面の特徴を備えていた。
0-60mph(約96km/h)加速ではフェラーリ・デイトナを打ち負かし、最高速度は170mph(約274km/h)に達する性能だった。
エンジンは、ラゴンダが当時製造していたラグジュアリーセダン用と同じものだが、高性能カムシャフト、高圧縮比、大径化されたインテークバルブ、新設計されたマニホールド、大型キャブレターなどを組み合わせることにより、出力をアップ。
V8ヴァンテージは、英国製の高性能スポーツカーとして、その車重をものともしないパフォーマンスを発揮した。当時の自動車雑誌によるロードテストによると、「保守的な」デザインのヴァンテージは、ランボルギーニ・カウンタック、フェラーリ512BB、ポルシェ911ターボといった同時代のライバルを上回る性能を見せたという。
この世代のヴァンテージが大幅なパフォーマンス向上を果たしたのは、300ps台のパワーを叩き出したV8エンジンへのアップグレードによるものだ。キャブレターは、より大型のウェーバー製48 IDFが採用され、インテークマニホールドも改良された。
大径化されたバルブ、デザインを見直したエキゾーストマニホールド、改善されたカムシャフトと高圧縮比により、このエンジンは、385psを発生する能力を備えていた。
V8ヴァンテージのシャシーは、アジャスタブルタイプのKONI製ダンパー、短くしたスプリング、大径フロント・アンチロールバーによって剛性が引き上げられた。さらに255/60VR15ピレリCN12タイヤを装着するため、スペーサーを入れてトレッドが拡大されている。
空力特性の最適化を図るため、エクステリアは明確に差別化された。標準バージョンに比べ、V8ヴァンテージはフロントエアダム、完全に塞がれたグリルに設置されたシビエ製H4ツイン・ドライビングライト(ラジエーター用の冷却エアはバンパー下から導入)、リアのブーツリッド・スポイラーなどを特徴としていた。これらの空力パーツは、リフト(揚力)を低減させるために不可欠であった。
もうひとつの大きな特徴としては、ダウンドラフト・キャブレター上に設置された大型エアボックスを覆うために必要な、ボンネットバルジの採用が挙げられる。
V8ヴァンテージは、30年間にわたって大きな進化を遂げ、1990年に5.3リッターエンジンを搭載した「X-Pack」仕様が発表されてひとつの時代の終わりを告げる。
このモデルは、より全長の短い、先進的で非常に希少なV8ザガートのベースとしても使われた。そしてこの世代のヴァンテージは、アストンマーティン・ラインナップの絶対的な頂点に君臨するモデルでもあった。
●生産台数_V8ヴァンテージ:372台(クーペ)、194台(ヴァンテージ・ヴォランテ)/V8ヴァンテージ・ザガート:52台(クーペ)、8台(ヴァンテージ・ヴォランテ)
●ヴァンテージ(スーパーチャージド・ヴァンテージ)
1990年代のアストンマーティンは、引き続き「スーツを着た野獣」と評されるスポーツカーを製造することに情熱を傾けている。その結果として登場したのが、ヴィラージュをベースとした1993年のヴァンテージだ。
このモデルは「スーパーチャージドヴァンテージ」の異名を取り、後に新世代のV8ヴァンテージへと引き継がれることとなる。
あらゆる意味で重量級となったこのヴァンテージの車重は、1990kgであった。ヘッドライトは6灯式で、フロントには巨大な直径362mmのベンチレーテッド・ディスクブレーキと4ピストンAPレーシング・キャリパーが組み合わされ、その当時のロードカーに搭載された最強のブレーキだった。
このグランドツアラーに搭載されたエンジンは、5340ccのV型8気筒エンジンにイートン製スーパーチャージャーを2基組み合わせたものである。最高出力558ps、最大トルク76.0kgmを発生したこのパワーユニットは、市販車に搭載されるものとして世界最強を誇った。
1998年後半にデビューした「V600バージョン」では、さらに出力が51ps強化された。最高速度は186mph(約300km/h)に達し、0-60mph(0-96km/h)加速は4.6秒。高速走行テストでは、200mph(約322km/h)に迫る最高速度が記録されたとされている。
スペシャル・エディションの「V550」、「V600」および「V8ヴァンテージ Le Mans」なども投入され、2000年10月の生産終了に至るまで、この世代のヴァンテージが新鮮さを失うことはなかった。
●生産台数_ヴァンテージ/V8ヴァンテージ:273台(クーペ)、40台(スペシャルモデル)
●DB7 V12ヴァンテージ
1999年のジュネーブモーターショーでデビューした「DB7 V12ヴァンテージ」が、次世代ヴァンテージのエンブレムを掲げるモデルとなった。
世界的に有名なデザイナーのイアン・カラムによって完全に新しくデザインされたこのクルマは、フォード・リサーチ&ビークル・テクノロジー・グループおよびコスワース・テクノロジー社との緊密な協力体制によって開発されたオールアルミニウム合金製5.9リッター48バルブV型12気筒エンジンを搭載し、426psの最高出力、55.3kgmの最大トルクを発生した。
シャシも強化され、当時としては非常に斬新なフロントおよびリア・サスペンションのセットアップが採用された。このモデルが登場するまで、アストンマーティン・ヴァンテージは、標準仕様のエンジンを搭載していたが、DB7 V12ヴァンテージはそれらと一線を画した新しいエンジンを採用し、直列6気筒エンジンを搭載したヴァンテージともまったく異なるモデルに仕上げられている。
その結果、当初は、下記の2つのトランスミッションが用意された。
・クロスレシオ6速マニュアル・トランスミッション:最高速度184mph(約296km/h)、0-60mph(約96km/h)加速5.0秒
・5速オートマチック・トランスミッション:最高速度165mph(約266km/h:リミッター作動)、0-60mph(約96km/h)加速5.1秒
しかし、2000年以降、ZFとの共同開発で高い評価を得た「タッチトロニック」システムも選択可能となっている。
ブロックシャム工場で4年半にわたって製造されたDB7 V12ヴァンテージクーペの生産台数は2091台に達し、ヴォランテおよびGTと合計した数字は、アストンマーティンにとって新記録となった。
最後のDB7 V12ヴァンテージは、2003年にブロックシャム工場からラインオフされている。
●生産台数_DB7 V12ヴァンテージ:2086台(クーペ)、2056台(ヴォランテ)
■ベビーアストンであり、911イーターは、アストンマーティンの屋台骨になった
ヴァンテージは、ベビーアストンと呼ばれた、「V8ヴァンテージ」で大成功を収め、新世代ヴァンテージは2世代目へとスイッチした。
アストンマーティン・ラゴンダ社長兼グループ最高経営責任者(CEO)のDr.アンディ・パーマーは、アストンマーティン・ブランドの栄光の歴史を語るうえで欠かすことのできないヴァンテージの魅力に関して、次のように述べている。
「最新モデルのヴァンテージおよびヴァンテージAMRは、世界中のドライバーに強烈なインパクトを与えた“ヴァンテージ”というモデルを、弊社の流儀に従って新たに解釈したものです」
●V8ヴァンテージ(VHアーキテクチャー採用)
2003年のジュネーブモーターショーにおいて、「V8ヴァンテージ・コンセプト」が発表された。このコンセプトモデルは、その後、ヴァンテージの次世代モデルへと進化を遂げることになる。
2年後の2005年、「V8ヴァンテージ」の生産モデルが発表され、注文が殺到することとなる。
実際の生産開始は2005年秋だが、ゲイドン工場の第2組立ラインをV8ヴァンテージ専用としたことで、生産台数は年間3000台に迫る勢いとなった。そしてアストンマーティンの107年にわたる歴史において、販売面でもっとも成功を収めたモデルとなった。
新車の約70%は、英国外のカスタマーに納車され、英国およびヨーロッパへの納車は2005年10月に開始、北米をはじめとするその他の地域では、2006年初頭から随時デリバリーがおこなわれた。
V8ヴァンテージは、VHアーキテクチャーをDB9に続いて採用した市販モデルであり、DOHC32バルブを備えたドライサンプ方式の新設計4.3リッターV型8気筒エンジンを搭載した最初のクルマとなった。
最高出力385ps/7000rpm、最大トルク41.8kgm/5000rpmのエンジンは、グラツィアーノ製6速マニュアル・ギヤボックスが標準で組み合わされ、重量は1570kg、0-60mph(約96km/h)加速は4.9秒、0-100mph(約160km/h)加速は10.7秒であった。
このエンジンはアストンマーティン専用のもので、ドイツのケルンにあるエンジン工場でV12と並びハンドビルドで組み立てられた。
後に、この世代のV8ヴァンテージには、426psの最高出力と47.8kgmの最大トルクを発生する4.7リッター・エンジンが搭載されることになる。その結果、0-60mph(約96km/h)加速は4.7秒に短縮され、最高速度は8mph向上して180mph(約290km/h)に達した。
そして2009年、アストンマーティンはヴァンテージの歴史を象徴するハイパフォーマンス・モデル、「V12ヴァンテージ」を発表。2007年12月に行われたゲイドン本社の新しいデザインセンター開所式に合わせて発表された「V12ヴァンテージ RSコンセプト」をベースにしたこの量産モデルは、発売されると同時に高い人気を博した。
V8搭載モデルからの重量増加は50kg程度に抑えられ、DBSと同様、フロントにミッドマウントしたオールアルミニウム合金製エンジンを特徴とするV12ヴァンテージは、驚異的なパワーを発生。排気量5935ccのエンジンは、1気筒あたり4本のバルブを駆動するダブルオーバーヘッド・カムシャフトを搭載、最高出力517ps/6500rpm、最大トルク58.1kgm/5750rpmを発生した。
6速マニュアル・ギヤボックスを組み合わせたこのモデルは、0-60mph(約96km/h)を4.2秒で加速し、最高速度は190mph(約306km/h)に達した。
このV12ヴァンテージでは満足しないアストンマーティンのエンジニアは、さらなるポテンシャルを備えたクルマの開発に取り組む。その結果、2013年に誕生したのが「V12ヴァンテージS」だ。
V12ヴァンテージSは、最高出力573ps、最大トルク63.2kgmに引き上げられ、0-60mph(約96km/h)加速は、スポーツシフトIIIオートメーテッド・マニュアル・ギヤボックスとの組み合わせで、3.5秒という驚異的な数値をマークした。
さらに最高速度は205mph(約330km/h)に到達し、アストンマーティン史上最速モデルとなった。
発表から3年後には、V12ヴァンテージSに、7速マニュアル・ギヤボックスが搭載され、一部マニアに熱狂的に受け入れられた。
V12ヴァンテージの製造期間には、様々なスペシャル・エディションが発売されたが、もっとも重要なモデルは、イタリアのデザインハウスであるザガートと再び協力して開発した、2012年の「V12ヴァンテージ・ザガート」だ。
●生産台数_V8ヴァンテージ:15458台(クーペ)、6231台(ロードスター)/V12ヴァンテージ:2957台(V12ヴァンテージSを含む全タイプの合計)
●ヴァンテージ(現行モデル)
新型ヴァンテージは、2シーターのスポーツカーで、最新の自社製アーキテクチャーが採用されている。優れた空力特性と躍動感を実現するためにデザインされ、最高出力510ps、最大トルク69.8kgmを発生する4.0リッター・ツインターボV型8気筒エンジンをフロントに搭載し、ZF製8速オートマチック・ギヤボックスと組み合わされている
最新世代のヴァンテージは、0-60mph(約96km/h)加速3.5秒、最高速度は195mph(314km/h)に達した。
新型ヴァンテージは、E-Diffと呼ばれるトルクベクタリング機能を備えた電子制御ディファレンシャルを搭載する最初の量産アストンマーティンとなり、その骨格はDB11と共通の斬新な接合アルミニウム製プラットフォームを中心に構築されている。
2017年末にこのニューモデルが発表された時に、Dr.アンディ・パーマーは、アストンマーティン・ブランドの栄光の歴史を次のように述べている。
「よりシャープなスタイルと俊敏な運動性能を備えた本物のスポーツカーである新型ヴァンテージは、まさにエンスージアストが待ち望んでいたアストンマーティンのピュアなドライビングマシンといえるでしょう」
2019年には、モータースポーツからインスピレーションを受けてグラツィアーノ社が開発を担当し、「ドッグレッグ」と呼ばれる独特なシフトパターンを備えた7速トランスミッションを搭載した、「ヴァンテージAMR」が発売された。
ヴァンテージAMRは、人車一体となったドライビング体験を生み出すために製作されたモデルだ。Dr.パーマーは、次のようにコメントしている。
「自動運転のロボットタクシーが現実味を帯びてきたこの世界において、アストンマーティンは最先端のテクノロジーによるパフォーマンス・ドライビングの世界をさらに進化させています」
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