2019年5月末に日本でも正式発表された新型カタナに早くも乗る機会を得た。普段は四輪記事を担当している筆者が、ひとりのバイク好きとメディア関係者の中間的な立ち位置からカタナの魅力を探る。REPORT●小泉建治(KOIZUMI Kenji)PHOTO●山田俊輔(YAMADA "Anita" Shunsuke)
「スタイル」ではなく「精神」を受け継いだ
カタナと言えば初代のロー&ロングなシルエットのイメージが強かったから、最初に新型カタナを写真で見たときは今ひとつピンとこなかった。短くて腰高で、おまけにアップハンである。カタナとセパハン、そしてカタナ狩り───このエピソードは多くの人の知るところだからここでは省くが、新型カタナのアップハンを見た瞬間、多くの人がハンドルをモディファイするのだろうと思った。
ところが2019年3月の東京モーターサイクルショーで実物を見たとき、写真とはずいぶんと印象が違うと感じたのである。想像以上にボリュームがあって迫力に満ちている。とりわけタンクのワイド感がすごい。ハンドルの幅もかなり広い。
腰高で短いシルエットのおかげで、写真ではスケール感が掴めなかったのだろう。
そしてタンクのサイドに入った切れ込みの立体感が鮮烈だ。あらゆる点において初代カタナのデザインが秀逸だったことに異論はないが、このタンクサイドの造形は新型の勝ちだろう。もちろんこれは成形技術の進歩の恩恵にほかならないのだが。
スパッと切り落とされたテールは極めて現代流のストリートファイター風で、欧州メーカーのライバル勢と見比べても主張は強い。
新型カタナは初代カタナの「リバイバル」ではない。
初代カタナが前衛的なスタイルをまとって登場したように、その精神を引き継いで新しいスタイルを切り拓いた、いわば「正常進化した姿」なのだ。
そう理解するのに時間はかからなかった。
低中回転域からゴリゴリと加速する!
そして今回、いよいよ実際に走らせることになった。
跨がった瞬間、思わずニヤリとしてしまった。
シートが高いのである。シート高は825mmとスーパースポーツ級で、身長174cm&体重76kgの筆者が両足を下ろすと、ブーツのカカトが傍目には着いているように見えるが、実際にはほとんど体重が掛からずつま先立ちのような状態になる。
これが前述の幅広ハンドルと組み合わされることで、アップハンドルながらアグレッシブなライディングポジションを生み出す。スーパースポーツやモタードに乗り慣れた猛者なら、跨がった瞬間に戦闘スイッチが入るだろう。
スズキお得意のイージースタートシステムにより、スターターボタンを軽くワンプッシュするだけでエンジンはあっけなく目覚める。アイドリング音はかなりの迫力だ。
これまたスズキならではのローRPMアシストの恩恵により、クラッチレバーをリリースすれば車体はスッと前に出る。
アクセルグリップのワイヤーの巻き取り部を真円としないことで開け始めのスロットル操作を穏やかにする「プログレッシブスロットル」を採用しているとはいえ、それでもやはりレスポンスは鋭い。このエンジンの出自がスーパースポーツにあることを感じさせる。
だが、スーパースポーツ系だからすなわち典型的な高回転型エンジンかと言うと、必ずしもそうではない。なにしろ中回転域のトルクが凄まじく、3000~5000rpmあたりのゴリゴリとした手応えが特徴的だ。加速そのものも強烈なのだが、常にエンジンを回している実感が得られるゆえ、とくに飛ばさなくても気持ちがいい。
148psもの最高出力を誇る4気筒ながらこれほど濃密な味があるとは、さすがは名機との誉れ高いK5ユニットである。
着座位置が高く、前寄りのライディングポジションは、走り出せば利点が際立つ。まず、街乗りではアップライトな姿勢でとっても楽チン。そしてポジションの自由度が高いため、ワインディングやサーキットでは思いのままに荷重移動ができるだろう。基本的にはフロントタイヤに荷重を乗せやすいポジションだが、フロントシート後方に尻がピタッと収まる場所があるため、必要とあらばリヤタイヤにもしっかり荷重を掛けられる。そして高速巡航時にも、この後ろ寄りの場所に座るのはアリだろう。
このアグレッシブかつ自在に荷重移動できるライディングポジションを知ってしまった今、少なくとも自分がカタナのオーナーになったらハンドルを交換することはないと断言できる。
かようにバイクは乗らなければわからないものである。とく新型カタナは、質感の高さ、懐の深い乗り味など、実物に接することなしに本当の魅力を知ることはできないバイクと言えそうだ。
逆にもしもアナタが写真を見るだけで新型カタナに魅せられてしまったのであれば、安易に試乗はしないほうがいいだろう。その晩、預金通帳とにらめっこをする羽目になるからだ。
スズキ・カタナ
全長×全幅×全高:2130×835×1110mm
ホイールベース:1460mm
シート高:825mm
装備重量:215kg
WMTCモード燃費:19.1km/L(クラス3/サブクラス3-2/1名乗車時)
最小回転半径:3.4m
エンジン形式:水冷4サイクル直列4気筒DOHC4バルブ
総排気量:998cc
内径×行程:73.4mm × 59.0mm
圧縮比:12.2
最高出力:148ps/10000rpm
最大トルク:107Nm/9500rpm
燃料タンク容量:12L
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
トランスミッション:常時噛合式6段リターン
フレーム形式:ダイヤモンド
キャスター / トレール:25°/ 100mm
フロントブレーキ形式:油圧式ダブルディスク(ABS)
リヤブレーキ形式:油圧式シングルディスク(ABS)
フロントタイヤサイズ:120/70ZR17M/C(58W)
リヤタイヤサイズ:190/50ZR17M/C(73W)
乗車定員:2名
車両価格:151万2000円
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