条件「すごいドライビングをするならば貸す」
オーナーが大切に扱っている愛車を試乗のために借りる場合、よほどのことがない限り、何らかの制約がかけられてくるものだ。
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丁寧に扱うことは当然として、エンジン回転数を一定以下に制限されたり、公道走行に限るなどの条件は、ごく普通だ。
仮にサーキットの走行が許されたとしても、周回数を制限されることは覚悟せねばならず、オーバーステアの体験などは論外ということになるはずだ。
ところが、ここでお見せする素晴らしいコンディションのエスプリ・スポーツ300のオーナーであるケン・ベアード氏は、とんでもない条件をつけてきた。
彼が提示した条件はただひとつ、「フランケルが腰の抜けるほど、凄いドライビングをしてくれるのなら、貸し出すのはOKだ」ということだった。
彼のおかげで、われわれは、なぜ、これほどまでに皆がロータスを愛しているかを、とことん知ることができたのだ。彼には大いに感謝したい。
わたしが彼の目の前でロータスのテストコースを周回している間、彼は自分のクルマが全開でアタックしているのを見、チューンされたエンジンが最大限のパワーで吠えているのを聞いていた。
わたしとしては、このクルマのバランスの良さと、オーナーの寛大さのどちらが大きいのか確信が持てなかったが、ただ、その両方に深く感動するしかなかったのである。
ロータスが、2015年のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードで、60周年を迎えるブランドとして祝福されることになり、それを記念して、本誌編集長より、その最もロータスらしさを体現したモデルを、歴代の中から3台選び、テストをすることを任命された。
この記事の最後で、これ以外の注目すべき3台のモデルについても採り上げたが、ひとまず、最初に選んだ3台について述べていきたい。
エランはこの中ではおそらく異論の余地の全くない1台だろう。エランが登場したときロータスはすでに創業から10年を経過していたが、わたしにとってはロータスの精髄中の精髄というべきクルマであり、このメーカーのテンプレートと言ってもいい。
新型のロータスは必ずや、単純な構造や軽量化、美しさとバランスなど、エランを参考にしながら設計されるはずだ。さて、どのエランを選ぼうか? 2+2は別とするが、状態がよければどの個体でも問題はないだろう。
結局、ポール・マッティ氏が1966年式のS2を提供してくれたが、これは完璧なコンディションだった。完全にオリジナルの、愛すべき標準型のエランである。
そしてエスプリを無視するわけにはいかない。ロータスの60年の歴史の中で、半分を過ぎた辺りのモデルだが、それは問題ないだろう。
ひとたび、エスプリと決まれば、どのタイプを取り上げるかは簡単だった。スポーツ300が最高のエスプリだ、ということによもや異を唱える人はいないだろう。
最後に、わたしはエリーゼを選ぶことにした。このクルマは現在でも新車で買えるし、バスタブシャシーは1996年に遡る初期型からほとんど変わっていない。そしてこのクルマはロータスの危機を救った功労者でもある。
エリーゼがロータスの最良の設計方針に忠実に則って完成された、ということについては、語りつくすことがないほどだが、エランに乗った直後にドライブする、という経験は今までなかった。
エリーゼが他のどのクルマよりもロータスらしいのは間違いない。試乗車は、ロータスから提供された1998年式のシリーズ1で、ストーンチップ処理のノーズと剛性感の高いトランスミッション、107,000マイルの走行距離がこれまでの経歴を見事に証明している。
ロータス・エランS2
さて、ひとまず話をエランに戻そう。もし、ロータスがどんなクルマなのか、また、どうあるべきなのか、を知りたいと思ったら、正にこのエランに回答がある。このクルマは、小さくてシンプルだが、それは、決して粗雑だとか不快だという意味ではない。実際はその反対である。
わたしにとって驚きなのは身長6フィート4インチのわたしでも実に快適にアロイスポークで木製リムのステアリングを持つ運転席に快適に座れて、しかもルーフとウィンドウを完全に開いてもわたしの薄い頭髪をかき乱すことがなかったということだ。
試乗車はノーマルのS2で、つまりフォード製ブロックにロータス製ツインカムヘッドを載せた1.6ℓのエンジンから107psを発生する。
トランスミッションは見事なまでに正確なフォード製の4段ギアボックスだ。サスペンションはフロントがトライアンフ・ヘラルドのダブルウィッシュボーンで、リアにはチャップマン式擬似ストラットと呼ばれるメカニズムが使われているが、これはロアウィッシュボーンにストラットを取り付けたもので、構造をシンプルに抑えている。
バックボーンシャシーの使用によるねじれ剛性には制約が生じるが、グラスファイバー製ボディに加えて木製ダッシュボードの採用により強化が施されている。しかし特筆すべきは重量で、わずか673kgに抑えられているのだ。
これでも体感的には充分に速いが、もし、エランで、現代のマシンを脅かそうとするなら、高価なスプリント仕様がある。
こちらは0-97km/h加速を7.5秒でこなすので、かなり肉薄できる。しかし、誰が絶対的なパワーを気にするのだ? エランの神話はハンドリングから生まれたのではないか。
乗ってまず気づくのはサスペンションの異常なほどの柔らかさである。乗り心地は実に良好でまるで昔のシトロエンのようだ。
タイヤの幅はまるでフラフープのように細いが、ウェットなサーキットでのトラクションは驚異的で、ブレーキも同様だ。
ここから示唆されるのは、エランがこれほどソフトな足回りを持つ唯一の理由は、そうでなければボディに負荷がかかった時に捩れるからということらしいが、もしそれが事実だとしても、この解決策は実にうまくいっている。
グリップは予想よりも強力で、狙ったラインをトレースする性能は、これほど古くて足回りが柔らかく、ねじれ剛性に欠けたクルマとしては信じられないほど高い。
この3点から考えて、最もドリフトに持ち込みやすいクルマだとわたしは考えていた。だが、そうではなかった。
足回りはわずかながらアンダーステア寄りに設定されており、スロットルを戻してリアを不安定にしてから再び踏み込んでラインから外そうとすると、確かにコーナーの前半で軽いオーバーステアの挙動を示しはするが、あまりに車重が軽いため、すぐに慣性が尽きてグリップを回復してしまうのだ。
ボディ構造では、このエランはどの個体を取っても46年の歳月を感じさせる。ハンドリングも現代の高性能車とは大きく異なっているし、路面への粘着力は比較にならないほど弱いが、ドリフトを始めると挙動ははるかにゆっくりしている。
それなりの実力のあるドライバーにとって、誤ってスピンに陥ることを想像するのはきわめて難しい。このために低速のほうがより楽しめるクルマに仕上がっており、さらに付け加えて言うなら乗れば乗る程ほど楽しみがわかってくるクルマであるとも言えるだろう。
ロータス・エリーゼS1
年代順で考えるならここでエスプリに乗り換えるべきところだが、それではギャップが大きすぎるようにも感じられる。
それに加えて、エリーゼが真の意味でエランの後継となっているかどうかを確かめたいという好奇心があまりに強すぎたので、エリーゼに乗ることにした。
エンジンはドライバーの前方から後方に移動したが、依然として2.0リッターに満たない4気筒であり、ボディも相変わらずグラスファイバー製で、軽量化と単純化への強烈な執着もまったく変わっていない。
初期型のエリーゼはロータスが公称するほど軽くはなく、それは最初の諸元が装備重量ではなく乾燥重量だったためだが、今回の1998年式は、ディスクがアルミではなく鉄製であるにも関わらず重量はわずか730kgで、これは現行の最軽量モデルよりも146kg軽い数値である。
今回提供されたクルマは、かなり使い込まれており、新車時の試乗の記憶を手繰りながら、そのギャップを埋めようと考えていたが、その必要は全くなかった。多少走行距離が伸びていようが、エリーゼは魅力的な体験をさせてくれるだけの実力はなんら変らなかったのだ。
1.8ℓのローバーKシリーズのエンジンはわずか118bhpかもしれないが、クルマ自体がこれだけ軽ければエリーゼを0-97km/hまで5.9秒で加速させるには充分であり、これは最新型のトヨタ製エンジンを搭載するモデルよりわずかながら速い数字である。
多少気まぐれな挙動を示すのではとわたしは予想していて、特にウェットコースではなおのことと考えていたが、この点でもわたしは完全に肩透かしを食ってしまった。エランで最も特筆に価するのがサスペンションの路面追従性だとするなら、エリーゼでのそれはステアリングだ。
こちらもやはりゆっくり走っていても楽しめるクルマではあるが、それはグリップに欠けるところがあるからでは決してなく、むしろ路面の感覚がそのまま自分の指先に反映されるという得がたい体験が決して乗り手を飽きさせないからなのだ。
ホイールベースは短く慣性モーメントは低いが、このステアリングの優れた素性が本気で振り回して走るときに何よりも自信を与えてくれる。
実際に走って見ると、コーナーの抜け方に2通りの方法があることに気づく。
レーシングカーのようにアペックスで狙いを定め、きれいにクルマをバランスさせてアクセルコントロールで走りぬけることも出来るし、単純にインベタで走っても構わない。
使い込まれた14年落ちのエリーゼは、現代のクルマが思いもよらないような素晴らしい挙動を教えてくれる。まるで、自分の周囲を自らがコーナリングしているかのようなダイレクト感が得られる。
テールが流れた場合でも、特にウェットコンデションで簡単に流れるのだが、リニアな動きなので、フロントを意図する方向に向け続けるのは難しくない。
数ラップを重ねるうちに、このお気に入りのエリーゼがアットホームで快適な空間に感じられてくるはずで、それはまるで履きなれた上履きのようになじんだ感触となるだろう。
どの旧型エリーゼも今なお素晴らしいクルマであることを実証してくれるはずだ。
ロータス・エスプリ・スポーツ300
エスプリにはわたしはちょっと不安を感じていた。エランはかなり古いクルマなので、デザインやテクノロジーやドライビングが現代のクルマと同じようなものと期待することは絶対にありえない。
それとは対照的に、14年落ちでもエリーゼは現代の同格のクルマと今でも完全に互角に立ち回ることができる。しかしエスプリは?
……欠点を弁解するには新しすぎるし現代の世界で評価するには古すぎるので、単に残念ながら時代遅れとなってしまった過去の栄光を懐かしむだけに終わってしまうのではないか?
ある意味では、それは当たっている。ボディパネルのチリのずれ方は悪い冗談だし、キャビンは狭苦しくレイアウトも貧弱だ。
ルノー製のギアボックスも役不足だし4気筒2.2ℓのエンジンはターボ過給で初代エスプリのほぼ2倍のパワーを得てはいるが、そのエグゾーストノートたるや粗暴としか言いようがない。
しかし、絶対的に速いのは間違いないところだ。われわれがこのクルマをロードテストしたのは1993年に遡るが、当時の個体は燃料ポンプの不調でエンジンに充分な燃料を供給できないトラブルがあったにも関わらず、0-97km/h加速を4.7秒でこなしてみせた。
今、目の前にあるクルマは完調で、2速へのシフトの際のタイムロスを考慮にいれても、当時の公表タイム、4.5秒は軽くクリアするように思われた。
更に大きなターボにはタイムラグがあるのでは、という懸念も同時に払拭された。リッター当たり141psの出力を誇るこのエンジンは、オフブーストでもそれなりに納得できるレスポンスがあり、ひとたびギャレット製のタービンが回転を上げれば驚異的な反応の良さを示すのだ。
ロータスのテスト・コースを始めて周回した時、このクルマがめったに破綻をみせないことに、改めて驚いた。殆ど20年の間、このクルマに乗るチャンスはなかったが、その当時は今回ほど美点に魅了されることはなかったのだ。
再びわたしはこのクルマに魅了されている。当時わたしは、このクルマは過去最高のパワーステアリングを持つと明言したが、20年間近く過ぎた後でもこの言葉通りになるとは思いもしなかった。
あの当時、このクルマは自分が運転した中では最もバランスの取れたミドエンジンのクルマであった。今でもそれは変わらない。エンジンをドライバーの後方に据えるクルマでドリフトに長けたクルマはないが、このエスプリに乗れば、「はたしてそうか?」と思うだろう。
ケンはロータスのシャシーエンジニアのトップのひとりにこのクルマを運転してみるよう勧めたが、わたしは、そのエンジニアがクルマを下りて来た時の嬉しそうな顔は決して忘れないだろう。
「ちゃんと仕上がっている」というのが彼の言葉だった。ロータスのテストコースの外周路の内側は、このクルマのシャシーにとって他のどの場所よりも過酷な場所だろうから、彼の言葉は最高の賞賛である。
わたしは自分の選択に満足した。どのクルマもそれぞれに、規範となるべき名車なのだ。だが同時に、意外性もあった。
正直に言えば、エランには自分が望むものの全てがあるが、エリーゼとエスプリ・スポーツ300にはさらに多くのものがあった。
この中で最軽量で最も単純でそして最も美しいエランには、ロータスのDNAが最も濃密な形で濃縮されているが、エリーゼもごく近いところまで迫っている。そして現在では一方の価格が他方のほぼ4分の1になっていることを考えれば、そのバリューは明白にわかるだろう。
しかし自分の心を捉え、数日経ってもまったく返却する気にならなかったのはスポーツ300だった。
わずか64台しか製造されておらず、その為に今では良好な個体を入手するのに£45,000(約540万円)を必要とする。それも当然ながら売りに出されているクルマを発見できればの話である。
このクルマは最高のエスプリとして広く認知されているが、わたし個人の感想では、もっと素晴らしく、これ以上にわたしが運転したいクルマは他にない、とまで言い切ることができる。無論、ロータスとしては、やや理想から外れるかもしれないが。
皆さんもご存じの通り、ロータスは現在この後継となるモデルの開発を進めている。
もしニューモデルが、ルックスもドライビングも同じくらい良好なクルマに仕上がって、しかも造りも良好だったら、ロータスの悩みは全て消えることになるのだが。
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