レクサスのフラッグシップSUV「LX」に試乗することができた。メインマーケットが中近東、ロシア、中国、そして北米というモデルだけに、サイズも大きく、押しの強い面構えは、国内で見れば強烈な印象を受けるモデルだ。
<レポート:高橋 明/Akira Takahashi>
レクサスLXは1996年に北米で販売開始され、グローバルで人気を得たモデルだ。それもヘビーデューティなエリアが特徴だ。大自然の中での信頼性からくる人気というわけでもある。現在のメインマーケットは前述の中近東、ロシア、中国で、もともとの北米での人気は少し落ち着いている状態だという。
2015年8月にビッグマイナーチェンジを行ない、現在のフェイスマスクをはじめとするエクステリア、インテリアに変更されている。幅が広いバンパー部とスピンドルグリルの印象は他のレクサスにも増してインパクトがある。そしてインテリアはレクサスらしい高級な内装で、フラッグシプに相応しいと思う。
ボディサイズは全長5065mm×全幅1980mm×全高1910mm、ホイールベース2850mmと圧巻の大きさだ。搭載するエンジンはV型8気筒の5.7Lエンジンに8速ATを搭載している。こうしたスペックをみただけでも規格外の迫力が伝わってくる。
詳しい人ならご存知のようにレクサスLXはランドクルーザーをベースに製造されている。国内での月販目標台数は50台という数字からみても、国内より海外での需要がメインであることがわかる。しかし、製造はトヨタ車体の吉原工場だけで生産されている。ちなみに、生産ラインではランクルと同じラインを共有しつつ、レクサス専用の別工程を交えて製造される。ちなみに中近東での月販は1000万円クラスのLXが1600台という驚異の数だ。国内での車両価格は1100万円(税込み)。
中近東、ロシアがメインとなる販売エリアの環境を考えてみると、灼熱、砂漠、極寒、雪原などが容易に想像できる。つまり、求められる性能はハンドリングや乗り心地、静粛性、燃費などといった一般車に要求されるものとはプライオリティの順番が異なり、どんな環境でも走行できるタフネスさ、信頼性、安全、安心といった性能が優先されることになる。突き詰めれば、生きて帰ってこられる信頼性が必要なのだ。そのうえでの燃費や乗り心地などが求められるわけで、国内で試乗すればその非日常性に刺激を受ける。
■試乗インプレッション
試乗車のLX570はタンカラーのレザーシートを装備し、ドアを開けた瞬間に高級車であることが一目瞭然。もっともその外観からもフツーじゃないことは感じているわけだが。車高の高いシートに乗り込み、コクピット周りを眺める。
ステアリングはウッドとレザーのコンビ仕上げで最新装備をコントロールするスイッチ類がたくさん付いている。メータは2眼式で視認性が高く小型のデジタル表示パネルがセンターにあり、さまざまな情報が表示される。
センターコンソールはシフトレバー横のマウスで最新のナビゲーションが操作でき、また4WDのコントロールをするスイッチ類が並ぶ。4WDのハイ・ローの切り替えやセンターデフロック、砂地や泥濘地、雪用などのモードセレクト、自動車高調整機能そしてドライブモードセレクトのダイヤルが装備される。国内での使用環境ではまず必要とならない装備だが、安心材料ではある。
ナビゲーションは11.6インチの大型モニターが見やすい。インターフェイスもわかりやすく初めての操作でも、目的地設定に迷うことは少ない。コンソールにある操作マウスは馴れるのに少しの時間が必要だが、インターフェイスが分かりやすいので、こちらへの不満も少ない。
空調などのクライメートコントロールでは、レクサスのフラッグシップに相応しく、オートエアコン、ステアリングヒーター、シートヒーター、シートベンチレーションなどコンシェルジュ機能が充実している。
さて、走り出してみるとV8型のエンジンは377ps/534Nmで約2.7トンのボディを軽々と加速させる。18インチサイズのタイヤとフロント:ダブルウイッシュボーン、リヤ:トレーリングリンク式のサスペンションはしなやかに、そして静かに走る。
レクサスLXにとって、日本の舗装路はフラットでとても綺麗な路面なのだろう、しっとりとした高級車らしい乗り心地と静粛性を持ちながら、滑るように走る。
ステアリングの応答はおおらかに反応する。操舵感はやや重めの印象で高級SUVでボディサイズが大きくなると軽めの操舵フィールになるものだが、この辺りはメインマーケットでの使用環境を踏まえていると想像できる。実際、電動パワーステアリングを装備せず油圧式を採用しているのだ。もはや常識となっているEPSをあえて採用しないわけだ。
短時間の試乗のため、あまり細かいことはわからないのだが、試乗後チーフエンジニアの小鑓貞嘉氏に話を聞くことができた。
「レクサスLXは中近東、とくにカタールでは非常に人気が高く、交差点に止まると必ずランクルかLXが目に留まるほど台数が走っています。それは、お客様からの信頼があるのだろうと思っています」と語るほど車両に対する信頼性が重視されているエリアでは絶対的な存在として君臨していることがわかる。
「前回のマイナーチェンジで、この顔になったのですが、この顔になってからはロシアでの売れ行きがいいですね。やはり、何もない大自然の中でクルマを見たときに、自分のクルマだ、というのが遠くからでもわかるほうが嬉しいですよね。アメリカのピックアップトラックもよく見れば、みんな個性的で押しの強い顔してますからね」厳しい自然環境の中で、遠くに自分のクルマを見たとき力強さは頼もしさにも繋がり、存在感がとても需要な要素になるわけだ。
さらに「ワントリップ1000kmくらい走ることが多いですから、運転していて楽だったり、疲れないことが重要です」と説明する。特にシートにはこだわったそうで、長時間運転した後に疲れ方が違うというのは、多くのモデルで経験しているので理解できる。また、運転が楽だと感じるのは、雄大なエリアで未舗装路があり、砂漠あり、雪原あり、といった中ではおおらかに走れることが重要になるだろう。言い換えれば、ある程度の緩さがないとそうした環境下では疲れてしまうわけだ。
こうして日本の道路で味見をさせてもらったが狭い国土の日本を快適に走るというモデルではないことがよくわかる。がしかし、大きいがゆえにLXにしかない味があるのも確かで、キャデラック・エスカレード、リンカーン・ナビゲーター、そしてレンジローバーを好むユーザーに通じる価値観の中でも存在感が大きいと感じる試乗だった。
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