ホンダが新たに投入するコンパクトSUV「WR-V」の完成度はいかに? 実車を見た今尾直樹がレポートする。
衝撃的バーゲン価格
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ホンダから衝撃的なコンパクトSUVが登場した。その名をWR-Vと呼ぶ。最大の特徴は、同社の「ヴェゼル」とほぼ同サイズのボディに1.5リッター自然吸気のガソリン・エンジンを搭載し、200万円~250万円という、1クラス下の低価格を実現している点だ。衝撃的バーゲン価格。コンパクトSUVの大安売り!
ヴェゼルのe:HEVをはじめ、ハイブリッドのコンパクトSUVは300万円前後するというのに、WR-Vはそれより2割方安い。この物価高で、もちろん賃金は上がらない。そんなご時世に、なんたる福音であることか。
このようなホンダの規制秩序もひっくり返す衝撃的な価格が可能になったのは、タイにあるホンダR&Dアジア・パシフィック・センターで短期集中開発し、インドの工場で生産するグローバルSUVを日本に持ってきているからだ。従来のホンダの部品と技術をフル活用していることもコストダウンにつながっているらしい。インドでは「エレベート」という名前で販売されてもいる。その日本向けがWR-Vなのである。
ちなみにエレベートがインドで発表されたのは今年6月6日で、発売以来、かの地で大人気だという。現地価格は、109万9900ルピーから。1ルピー=1.81円(11月17日時点)で計算すると199万4841円、およそ200万円になる。それが現地と大きく変わらない価格で日本でも販売できるのは、インドが旧宗主国のイギリス同様、右ハンドル市場というのもある。そのため、日本向けの大きな変更を必要としなかったのだ。
そのエレベート改めWR-Vのボディ・サイズは全長4325×全幅1790×全高1650mmで、正確にはヴェゼル比、5mmだけ短く、60mmほど背が高い。全幅は同じ。2650mmのホイールベースはヴェゼルより40mm長い。一見して“ヴェゼル似”ながら、タイのR&Dで日本を含む各国の20代の若手デザイナーが中心になって手がけたエクステリア/インテリアのコンセプトは、「MASCULINE & CONFIDENT(マスキュリン アンド コンフィデント)」、日本語では「自信あふれる逞しさ」という。
WR-Vのエンジンは1.5リッター自然吸気、とだけ都内某所で開かれた事前説明会で公表された。そこでインドのホンダのホームページで確認してみた。エレベートの現地価格もそこに大書してある。肝心のエンジンは1.5L i-VTEC DOHCで、最高出力は121ps、最大トルクは145Nm。ヴェゼルの1.5リッター直4は118psと142Nmだから、同型ユニットを使っている。と、考えるのが妥当だろう。トランスミッションは6MTとCVTがある。日本はCVTのみだろうけれど、筆者的には6MTを入れたらいいのに……と、思う。もちろん筆者の無責任なつぶやきに過ぎない。駆動方式はFWDのみで、4WDの設定はない。価格は上がり、燃費は下がるから、にちがいない。
プラットフォームはヴェゼルとは別物である。すなわち、初代「フィット」以来の「センタータンクレイアウト」ではない。燃料タンクを後席の床下に配置している、コンベンショナルな方式を採用している。センタータンクのメリットは後席の背もたれをバタンと前に倒しただけでフルフラットな荷室があらわれることにある。デメリットは側面衝突のテストに備えて骨格を強くる必要があることで、このことは重量増とコスト増につながる。フルフラットにするために後席座面のクッションを薄いものにしなければならず、これもインドではマイナスになる。WR-Vのパッケージ担当者によると、オーナーが休日、運転手を雇って後ろの席に乗ったりして、後席の稼働率がともかく高いからという。
事前説明会のスタジオに持ち込まれていたWR-Vの車内に乗り込んでみると、なるほど、後席はルーフがヴェゼルよりも60mmほど高くて、ホイールベースが40mm長い分、広々としている。座り心地も、クッションが厚くて良好だ。荷室もスクウェアで、ヴェゼルより広そうである。ただし、後席を倒すと荷室部分と倒した背もたれの高さが異なり、明瞭な段差ができる。なにを載せるかによって、この段差のとらえ方は違ってくるはずだ。
最大の強み筆者の目に映ったWR-Vの最大の弱点は質感である。とりわけ内装のプラスティックとファブリックの素材は、軽自動車の「N-BOX」のほうがよさげに思える。広報担当者にそう告白すると、「N-BOXは特別です」と、答えた。であるにしても、どうしてN-BOXみたいに明るいグレーとかをシート生地に選ばなかったのか。と、思っちゃう私であった。ドア内側のレバーとか強度がフニャフニャで、折れそうだ。なので、開発担当の方に率直な質問を投げつけた。すると、言下に「折れません」と、否定された。重要保安部品が折れたらタイヘンである。断固たる否定は筆者にとってうれしいものだった。
だけど、たとえばファストファッションのブランドがやっているような合理化、ボタンの数とか縫う箇所とか、あるいは素材とかで、うまくコストを下げている。という印象は否定できない。そこで先述の広報担当者に、これまた率直に個人の感想を申し上げた。その方は諭すように筆者にこういった。
「それは高級車ばかり見ているからですよ。同じ価格のクルマと較べてください」
ガーン。冷静になってみよう。じつは私、トヨタの「ライズ」は未体験である。最大のライバルと目されるトヨタ「ヤリス・クロス」は試乗した。インテリアはブラウンとか、色づかいはよかったけれど、質感はたしかに価格なりだった。ヤリス クロスの1.5Lエンジン+ハイブリッドは251万5000円から。1.5Lガソリン・モデルは212万7000円からである。ヤリス クロスは全長4.2mで、ホイールベースは2560mmで、繰り返しになるけれど、WR-Vより1クラス小さい。
これまた繰り返しになるけれど、ホンダWR-Vの最大の強みは、ヴェゼルの並みのサイズで、価格は1クラス下という点にある。物価高のこんにち、これは大いなる福音であろう。ホンダはヴェゼル並みの販売台数をWR-Vに期待しているというから、福音の大盤振る舞いだ。
開発責任者の金子宗嗣さんによると、WR-Vの本格的な開発は2021年にタイでスタートした。コロナ禍だったからこそ、「制約のある生活で自分と向き合い、本当に価値あるものは何かを追求する傾向に世のなかはある」と、金子さんは感じたという。さらにコロナがあけたいま、“自由の大切さ”にひとびとは気づいた。だからWR-Vでは、「既成概念や固定観念にとらわれない新しい生き方を表現しよう」と、金子さんは考えた、というのだ。
つまるところ、ホンダWR-Vは規制の概念や固定観念、ホンダのヒエラルヒーさえぶっ壊す、パンクでアナーキーなプロダクトなのである。そういう意味では、極めてホンダらしい。ともいえますね。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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