5月28日に決勝レースの行われる第107回インディ500に向け、今年は4月下旬に入ったところで2日間の合同テストがスケジュールされた。
例年なら1日のテストが今年は2日間に倍増されたわけが、残念なことに悪天候のため、走行は1日だけで終わってしまった。
テスト初日で感じたチップ・ガナッシのチーム力。「前のチームと比べていろいろな答え合わせができた」と佐藤琢磨
インディカーは今年、昨年まで以上に接近戦が繰り広げられ、より多くのオーバーテイクが実現されるようにとダウンフォースを増やすための新しい空力パッケージが導入する。
2枚目のバージボードの使用が許可され、新デザインのリヤウィング・ステーにはクィック角度調整機能が装備され、その調整量も3度増やされた。
また、アンダートレイストレイキのサイズが拡大され、そのサイドウォールも昨年までより大きなものを使用して良いルールとされたのだ。スピンした際にマシンが浮き上がるのを防ぐため、フロントノーズの上面両サイドにガーニー・フラップと似たデザインのレールが新たに装着義務付けともなった。
テスト1日目は午前11時から午後6時までの走行時間が予定されていたが、悪天候が予想される事態となったことから、インディカーは急遽予定を変更。1日目は走行開始を1時間早め、走行終了を30分遅らせることとした。1時間半の走行時間増ということだ。
意外にも4月としては暖かなコンディションとなった今回のテスト1日目、最高気温は摂氏29度にもなった。
正午からの2時間では、今年初めてインディ500に挑戦するルーキーのためのオリエンテーションプログラムと、久しぶりの高速オーバルレースを戦うベテランたちのためのリフレッシャープログラムに充てられ、強い風が吹き荒れる難しいコンディションを乗り越え、3人のルーキーたちも5人のリフレッシャーたちも無事に今年のインディ500への出場権を取得した。
ルーキー&リフレッシャーの走行時間帯に小雨が降って30分ほど走れない時間ができたが、その以外に天候による走行中断はなく、今年のレースに出場予定の33台は精力的な走り込みを行った。
午前中に比べて午後の方が風は強まっていたが、今年初めてのインディアナポリスでのテストであるにも関わらず、多くのチームがレースを見据えてのグループ走行をトライしていた。
午前中の2時間では昨年度ウイナーのマーカス・エリクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)が平均224.330mph=40秒1194のラップをマークした。
午後2時から4時間半に渡ったセカンドセッションではジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)が227.686mph=39秒5281の最速ラップをマークした。これらはもちろん、前を行くマシン群のドラフティングを利用してのものだ。
この日は風がとても強かったため、誰もが慎重に走り、無理にライバルと接近しての走行をトライするチームは少なかった。
今年初のインディでの走行ということで、マシンが自分たちの考えている通りにドライブのしやすいものに仕上がっているかを確認する作業がメインテーマとされていたようだ。
新しい空力パッケージでは様々な仕様で走ることが可能であるため、いろいろなパーツの組み合わせをテストすることももちろん重要なのだが、今年のインディ500で戦うために、まずはマシンの基本的な部分がキッチリと作り上げられているかを確かめる。
そこから始める必要がどのチームにもあったようだった。今回のテストで下準備を終え、5月の公式プラクティスからが本当の勝負、ということだ。
午前中のセッションで2番手につけたは単独で史上最多となる5勝目を挙げる可能性を持つエリオ・カストロネベス(メイヤー・シャンク・レーシング)だった。彼は224.280mph=40秒1284を出した。
3番手は一昨年のインディ500で2位フィニッシュしているアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ・レーシング/ホンダ)の224.088mph=40秒1628。
最初のセッションはホンダの1−2−3だった。シボレー勢トップは4番手のスコット・マクラフラン(チーム・ペンスキー)、5番手にもシボレーユーザーのエド・カーペンター(エド・カーペンター・レーシング)が来た。マクラフランは223.965mph=40秒1848、カーペンターは223.765mph=40秒2208がベストだった。
佐藤琢磨(チップ・ガナッシ・レーシング)は222.012mph=40秒5384のベストをセッション終了少し前に記録し、16番手につけた。チップ・ガナッシ・レーシングの4台は、エリクソンがトップでパロウが3番手、2008年ウイナーで、一昨年と昨年の2年連続、5度のインディPP獲得経験を誇るスコット・ディクソンは7番手だった。
午後には午前中は11番手と大人しめだったニューガーデンが一気にスピードアップ。ウイングを寝かせ、ライバルのドラフティングを積極的に利用してはいたが、226mph台というのは走行初日としては非常に素晴らしいスピードだった。
インディ初制覇に意欲を燃やす2017、2019年チャンピオンは最後に29周のロングランまで行ってテストを終えると、「今日は難しいコンディションだった。寒くはなく、暖かいと言っていい1日で、強風が吹いていた。新しいエアロに関しては、まだ1日しか走っていないので全面的な確認はできていない」
「新パッケージで可能な全セッティングをトライするには時間が足りなかった。そのため、レースにどのような影響があるのか……わかっていない。もう少し走らないと」とコメントし、「今日の午後、自分のマシンはやや予選よりのスペックになっていた。幾つかのエアロパーツを試すことができた点は良かったと思うが、インディでは1日々々コンディションが変わる」
「今日はとても良い1日だったけれど、今日が良かったからと言って、今年の自分たちが素晴らしいレースデイを送れる保証はない。常に警戒心を保ち続けることが重要。日々気温や路面温度は変化するし、風も吹く強さや向きが変わる。今日速かったマシンが明日も速いとは限らないということ」
「それでも、今日の自分たちはレースに向けた良いベースラインを見つけることができたと思う。ここからやるべきことはまだまだたくさんあるけれどね」と締めくくった。
午後の2番手はインディアナポリスが地元のコナー・デイリー(エド・カーペンター・レーシング)。テスト1日目の終了間際に39秒5664=平均スピードは227.466mphのラップを完成させた。走行周回数も145周と多く、充実したテストとできている様子だった。午前中はホンダが1−2−3だったが、午後はシボレー勢によるワン・ツーとなった。
午後の3番手、ホンダ勢最速は過去2年連続でポールポジションを獲得(通算5回)している2008年のインディー500ウイナー=スコット・ディクソン。彼は226.788mphをマークした。
4番手は先週末のロングビーチでキャリア初優勝を飾ったばかりのカイル・カークウッド(アンドレッティ・オートスポート)で226.727mph。
琢磨は午後に48ラップを走行。そのうちの38周目に39秒7764のベストを記録した。平均時速は226.265mphで、セッション5番手となった。ガナッシでのインディ・テストは順調に始まったと評価して良いだろう。他チームでの経験と実績はすでにチーム内で高く評価されており、重要なテスト項目を任されていた。
合同テスト2日目は朝から降り出し雨により、早々にキャンセルが決定された。午前10時から午後4時までのテストが予定されていたが、雨が1日中降り続ける予報が出されたため、走行が始まる予定だった午前10時よりも前にテストのキャンセルが発表された。
随分と決断が早いな……と思っていたら、なんと予報は外れ、午前11時前には雨が上がっていた。乾燥作業を行えば、2時間かそれ以上の走行が確保できていただろう状況となった。
来週末には第4戦がアラバマ州のロードコースで開催されるため、チームによってはマシンをロードコース用へコンバートする必要があるのだ。昨日のテストを1時間半長くしたのは、今日の全面キャンセルを想定してのことだったのだ。
「もっと走りたかった、本当に残念。タイヤを5セット残したのももったいなかった」と琢磨は話していた。
しかし、1日目の走行で強豪チームのマシンが非常に安定していることを感じ、手応えを感じていた。
「昨年のレースセットアップで走って、ガナッシのスタンダードなクルマをまずは感じました。まだちゃんとしたトラフィックで走っていないので、このチームのマシンに対する評価はしにくいのですが、クルマは凄く安定しているのと、自分としては結構ドラッグが大きいことも感じました」
「今の時点でも言えるのは、このマシンはトラフィックの中できっと良い動きをするだろうな、ということです。今日はマーカス・アームストロングがロード&ストリートコースで戦う際のアメリカンリージョンのカラーリングになっているんですが、チップ・ガナッシ・レーシングのマシンに乗ってるのか……とちょっと感慨深かったですね」とも琢磨は語っていた。
インディカー・シリーズは、来週末にバーバー・モータースポーツパーク、そしてインディアナポリス・モータースピードウェイのロードコースでのレースを行い、5月16日によりインディ500のプラクティス走行がスタートする予定だ。
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