特徴的なフラットオーバル、ワールド・ワイド・テクノロジー・レースウェイ(WWTR)で繰り広げられた2024年NASCARカップシリーズ第15戦『エンジョイ・イリノイ300』は、予選からフォード陣営が好調さを披露する展開に。決勝でもチーム・ペンスキーの牙城にクリストファー・ベル(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)が挑んだものの及ばず。ディフェンディングチャンピオンのライアン・ブレイニー(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)が待望の今季初勝利を飾る……かと思われた。
しかしホワイトフラッグ目前にまさかの“燃料切れ”でチームメイトにリードを譲る残酷な展開となり、オースティン・シンドリック(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)がルーキーイヤーの2022年『デイトナ500』以来となる劇的な優勝を飾っている。
強豪スチュワート・ハース・レーシングが2024年限りで解散へ「バトンを渡す時期が来た」/NASCAR
レースウイークを前に強豪スチュワート・ハース・レーシング(SHR)の解散という衝撃的ニュースが飛び込んできたパドックだが、幕開けのフリー走行こそ、このWWTRでカップ初勝利を刻んでいるジョーイ・ロガーノ(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)が最速を記録したものの、続く予選ではマイケル・マクドウェル(フロントロウ・モータースポーツ/フォード・マスタング)が今季3回目のポールポジションを獲得。SHRの活動休止発表翌日に「来季2025年より3台体制に復帰する」とアナウンスし、暗にSHRからのチャーター(参戦枠)購入を示唆したフロントロウ・モータースポーツが、シンドリックとブレイニーを撃破してフロントロウを固めるなどフォード陣営が主導権を握る展開とした。
しかし決勝序盤から単騎フォード艦隊に挑んだのが4番手発進だった前戦勝者ベルの20号車カムリXSEで、チーム解散の失意に暮れるジョシュ・ベリー(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)が左フロント破損から112周目にウォールの餌食となり、ブレイク目前にはカイル・ブッシュ(リチャード・チルドレス・レーシング/シボレー・カマロ)とカイル・ラーソン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)が絡むなか、シャーロットから続くステージウイン記録をステージ2まで伸ばしていく。
■首位浮上のブレイニーにベルのカムリが迫る
「こんな日を過ごす余裕はないんだ」とシーズン初のDNFに加え、今季未勝利でプレーオフ進出にも黄色信号が灯るブッシュ。「ダメージがひどく35位、一方でヤツ(ラーソン)は10位。向こうがルーズになって体当たりし、こちらのレースを完全に破壊し全滅させたんだ」
このステージ2ブレイクでもステイアウトを選択したチーム・ペンスキー陣営は、レースを通じてライバルよりも少ないピットストップ回数で戦い抜く戦略を採り、最終ステージに向けた149周目のリスタートをワン・ツー・スリーフォーメーションで始める。
早めの最終ピットで後方に“潜伏”し、周囲がルーティンに向かった217周目にはブレイニーがついに首位へと浮上。その背後からベルのカムリXSEが迫ってくる。
ここから前後を入れ替えながらブレイニーを仕留めに掛かったベルだったが、ここで突如エンジンの不調に見舞われペースダウン。最後はマーティン・トゥルーエクスJr.(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)から再三のプッシングを受けながら、失意の7位でチェッカーを受けた。
「何が起こったのかまったく分からない。勝ちに行った途端に何らかのエンジンの問題が発生した」と、その瞬間には無線で悲痛な叫びを上げたベル。
「最後まで走れたことに驚いている。何とか切り抜けることができて良かったよ。こんなレースカーは滅多にないし、いつだってそれを利用するしかない。だからこそ残念な1日だった……」
これで仇敵が去り、悠々のクルーズに入った王者ブレイニーは、背後のシンドリックに約1.2秒のマージンを持ってラスト2周へ突入。しかしここで、チャンピオンの12号車にも悲運が訪れる。
ホワイトフラッグが揺れる直下のスタート/フィニッシュラインでスローダウンを喫した僚友の傍を、本来のレーシングスピードを維持したシンドリックの2号車が通過。この瞬間、ブレイニーの手から勝利がこぼれ落ちることとなった。
「僕たちの(早めのサイクルで176周目に入った)ピットタイムが足りないなんて、考えたこともなかった」と、燃料がショートだとは想定していなかったと明かしたブレイニー。
「そういうことだった。あぁ、12号車のクルーたちを誇りに思う。僕らは速かった。クリストファー(・ベル)を抑えるのに苦労したけれど、あれも楽しい戦いだった。彼に何が起こったのか分からないけれどね」
「本当に……本当に1周足りなかった。心底、残念だ。オースティン(・シンドリック)と2号車のチームにおめでとうを言いたい。彼らは1日中いい仕事をした。チーム・ペンスキーとフォードを誇りに思うよ」
■シンドリックが85戦続いた未勝利期間にピリオド
こうして力無くファイナルラップを周回し、最終的に24位でフィニッシュした僚友に対し、思い掛けず最後の1周でリードラップを取り戻したシンドリックは、都合53周で先頭を走ったレースのエンディングに、85戦続いた未勝利期間のピリオドを打つことに。今季トップ10のなかったクルーも驚きと歓喜に沸く結果を手にした。
「今週末は関係者全員にとって素晴らしい週末だった。けれど……優勝争いを繰り広げていたトップ2台の結末には心が痛むよ」とブレイニーやベルの心情を思い遣ったシンドリック。
「でも、これは僕にとって大きなこと。そしてチームにとっても大きなことだ。カップシリーズでブライアン(・ウィルソン)をクルーチーフとして勝利を記録でき本当にうれしいよ。またいつ同じことが起こるかわからないが、とにかく全力で走り、最善を尽くすよ」
併催されたNASCARクラフツマン・トラック・シリーズ第12戦『トヨタ200』は、終始レースを支配したコーリー・ハイム(トリコン・ガレージ/トヨタ・タンドラTRDプロ)が、ステージ2の“トリプル・トラック・チャレンジ”制覇によるボーナス5万ドル(約780万円)も総ざらいの完勝劇を披露。
そしてポートランド・インターナショナル・レースウェイで開催されたNASCARエクスフィニティ・シリーズ第13戦『パシフィック・オフィス・オートメーション147』では、今季より満を持しての北米大陸本格挑戦を開始している“SVG”ことシェーン-ヴァン・ギズバーゲン(カウリグ・レーシング/シボレー・カマロ)が、苦労の末に待望のシリーズ初優勝を達成。1.967マイルのロードコースを走破し、フィニッシュ後は興奮した観客にサイン入りのボールを蹴り込んでエクスフィニティ制覇を祝った。
「最高の1日だった。本当にクールで素晴らしいレースができたよ」と、オーストラリアを代表するRSCレプコ・スーパーカー・チャンピオンシップで“3冠”を誇るNZ出身の35歳。
「リスタートをもっとうまくこなして、ポジションの取り方を学ぶ必要があるが、とても楽しかった。本当にクールなレースだった。このクルマが大好きだし、このシリーズも素晴らしいよ」
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