スポーツ派ドライバーが望むすべてがここにある
手が届くプライスで、振り回しやすいボディサイズとパワーを持ったFRスポーツは、いまや絶滅危惧種。選択肢が豊富にあった時代を知る世代としては寂しい限りだ。とはいえ、改めて改良されたGR86を思う存分に走らせて、どんなに時代が変わろうと、FRスポーツは永遠に不滅だと実感した。
GR86がマイナーチェンジ。AE86の生誕40周年記念の特別限定モデルも設定
理由は、理屈抜きで楽しいからである。運転そのものをエンジョイしたい人や、ドライビングスキルを磨きたいドライバーにとって、手ごろなFRスポーツはなくてはならない存在だ。
1980年代のAE86の志を継承した初代86は2012年にデビューした。初代は当初、兄弟車(BRZ)と同じチューニング内容で発売される予定だった。だが、ドタンバでキャラクターを明確に分ける方針に変えた。理由は「走りがあまりに安定していて、ぶっちゃけつまらなかったから」だという。トヨタの開発関係者は、よりFRらしさを求めて急遽作り分けた。
デビューしたばかりの初期型86は、突貫で仕上げたせいか粗削りな印象が強かった。初めて箱根を走ったときにはびっくりした。ちょっとしたことで簡単にスピンしそうになり、安心して走れなかった。いろいろな挙動を体験することはドライビングの上達につながるが、初期型は不安定すぎて元気に走るのに苦労した。何より楽しくなかった。
その後、初代は時間の経過とともに改善。兄弟車ともどもリファインされ、2021年秋に現行型にモデルチェンジする直前の最終型では見違えるほど完成度がアップしていた。お互い歩み寄ってソックリな乗り味になっていたのが面白かった。
GR86は、FRの魅力を鮮明に表現。ドライバーとの対話性が一段と向上
2021年発表の2世代目は、再びBRZとは大きく作り分けられた。2台はそれぞれ走りのキャラクターを鮮明にする。名称をGR86に変更した現行モデルは、GRブランドならではの「味」を追求。BRZと同じ工場で生産されているとは思えないほど各部が異なっている。
GR86が追求したのは、「FRならではの走りの楽しさ」である。では、FRの醍醐味とはなにか? そこが問題なのだが、開発陣はシンプルにドリフト(=後輪のコントロール性)だと考えたようだ。
シャシーの前後バランスを入念に調律。リアを固めてフロントを動かすことで後輪のトラクションをコントロールしやすいようにした。同時にエンジン特性も荷重移動が起こりやすいようゲインを高めた。そうした配慮の効果で、GR86はドリフトのキッカケがつくりやすいクルマになった。しかも初代の初期型のように簡単にスピンしそうになる挙動とはまったくニュアンスが異なる。イメージしたとおりにクルマが動いてコントロールの幅があるのが現行の2世代目だ。
ただし、そうはいってもちょっとやりすぎかなと感じる面もあった。おそらくモデルライフ中、ドライバーフレンドリーに見直されるはずと思っていたら、まさしく2023年秋の一部改良でそうなった。
ややオーバーゲインぎみだった電子スロットルは出力特性がリニアに変更された。アクセルワークで挙動を自在に操ることができ、アクションを起こしやすいのはGR86の楽しさのひとつだが、さらに扱いやすくなった。加えてヒールアンドトゥが行いやすいよう、初期レスポンスを向上させたという。
VSC制御も最適化された。コーナリング時の走行安定性が一段と向上したのは朗報である。制御の介入タイミングを早くかつ緻密にすることで、コーナリング初期からドライバーの意図どおりに曲がれるようになった。その恩恵は、攻めぎみで走ったときに感じられる。おそらくサーキットなどで限界性能を引き出して走ったり、滑りやすい路面を走るときに、より効果が実感できるに違いない。
試乗車は新設定のブレンボ製ブレーキとザックス(ZF)製ダンパーを装着したRZの6速MT。その走りは、なかなか見事だった。
ザックスを装着した足回りは、接地性と乗り心地、そして姿勢の制御が絶妙。段差や突起を乗り越えてもガツンとならず、着地するときには優しいイメージでいなす。よく動いて路面からの入力を巧みに制御している。不要な挙動は起こさない。
その結果、タイヤがしっかりとしなやかに路面をグリップ。ドライバーが操作したとおりに反応する。クルマがどのような状態にあるのかを把握しやすくなっていた。
ブレンボ製ブレーキは、いかにもキャパシティが高いフィーリングだった。踏力の加減で意のままに減速度を調節できるので、荷重をコントロールしやすい。公道でドライブしても、その価値は十分に味わえる。クローズドコースで走らせれば、アドバンテージをさらに実感するだろう。
今回の一部改良は、安全装備の充実も注目点。MT車にもアイサイトが搭載されたほか、ブラインドスポットモニターも設定された。安全・安心は大切。装備の充実は大歓迎である。
最新のGR86は、ドライビングそのものが楽しく、スキルを磨くにも最適。これからドリフトができるようになりたいドライバーにも、マスターしている人にとっても、いい形で期待に応えてくれる。スポーツカーは素晴らしいと実感させてくれるベストパートナーである。
トヨタGR86 主要諸元
グレード=RZ(6MT)
価格=6MT 347万6000円
全長×全幅×全高=4265×1775×1310(ルーフ部:1280)mm
ホイールベース=2575mm
トレッド=フロント:1520/リア:1550mm
車重=1270kg
エンジン(プレミアム仕様)=2387cc水平対向4DOHC16V
エンジン最高出力=173kW(235ps)/7000rpm
エンジン最大トルク=250Nm(25.5kgm)/3700rpm
WLTCモード燃費=11.9km/リッター(燃料タンク容量50リッター)
(市街地/郊外/高速道路:8.0/12.8/14.2km/リッター)
サスペンション=フロント:ストラット/リア:ダブルウィッシュボーン
ブレーキ=前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール=215/40R18+アルミ
駆動方式=FR
乗車定員=4名
最小回転半径=5.4m
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みんなのコメント
評論家の清水和夫さんが718GTS4.0の1/3というのは価値有りと仰ってますね。
そんな高性能じゃなくてもいい。
だって、みんなドラテク磨いて
ドリフトして走るわけじゃないからね。
昔みたいに
ターボでチョット速くて
脚固くてFRでスポーティなスタイル。
値段も安い。
雰囲気スポーツカーで十分なんだけどね。
まあ、出しても売れないか。