古くから続くFRという訴求力
text:Matt Saunders(マット・ソーンダース)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
2シーター・スポーツのジャガーFタイプに、マイナーチェンジが施された。8年目のモデルイヤーを、控えめに祝うように。
スポーツカーは全般的に、1世代の寿命が長い傾向がある。それでもFタイプはいくつかの点で、発表当初から古さを感じさせるものだった。2006年の2代目XKに用いられていた、アルミニウム製のプラットフォームがベースということもあるだろう。
他にも理由はある。Fタイプ自体の雰囲気に、懐かしさがある。
70年近い歴史を持つシボレー・コルベットは、エンジンの搭載位置をドライバーの前方から後方へと変化させた。しかし、FタイプのレイアウトはFRを維持している。
自動車の歴史に詳しい人に話を聞けば、コルベット誕生のきっかけを教えてくれる。第2次大戦中に、アメリカ軍がジャガーの前身となるSSカーズ社などが生み出した英国製スポーツカーを運転したことで、自国のスポーツカーを望んだのだ。
ジャガーは、シボレーよりスポーツモデルの歴史が長い企業の1つ。2020年も、1930年代と同じレイアウトで、スポーツカーを作っている。そんなFタイプは、筆者への訴求力がとても強い。
搭載するエンジンは3種類で、2種類はV8エンジン。素晴らしい。2021年のモデルイヤーを控えて、スーパーチャージャーで過給するV6エンジンは、欧州市場のラインナップから落ちた。
選択肢は、エントリーグレードに載る300psの4気筒ターボと2種類のスーパーチャージドV8。試乗したのは最高出力575psのユニットが載る、トップグレードのFタイプ R P575 AWDだ。
スタイリングやサスペンションを中心に手直し
4気筒エンジンは後輪駆動のみだが、575psのV8エンジンは4輪駆動のみ。中間の450psのV8エンジンは、後輪駆動か4輪駆動かを選べる。トランスミッションはすべてが8速AT。ボディタイプは、クーペとコンバーチブルが選べる。
FタイプのRには、新しいサスペンション・スプリングに、アダプティブダンパー、アンチロールバーを採用。タイヤの取り付け位置を調整するため、リアアスクル周りにも変更を受けている。
ホイールは前後ともに20インチで、幅も広がった。パワーステアリングとトルクベクタリング・システムは、新しいソフトウエアで制御される。
Fタイプのマイナーチェンジでは、スタイリング変更にも多くの予算が充てられている。その効果は、賛否両論かもしれない。AUTOCARの英国編集部でも意見が分かれている。
液体金属のような面構成と、Iペイスのようなフロントグリルを獲得し、スリークでファッショナブルになったと評価する見方もある。一方で、それらを否定する意見も少なくない。
少なくとも、注目を再び集めるという点では成功していると思う。インテリアデザインは基本的に継続で、ドライビング体験にも明確な変化はなかったのだから。
それでもインテリアには、新しい素材が採用されている。試乗車に付いていた、マットブラックのドアハンドルは良いと思った。
メーターパネルは新しくモニター式となり、10インチ・モニターのインフォテインメント・システムには、スマートフォンのミラーリング機能を追加。無線でのソフトウエアのアップグレードにも対応する。
ちょいワルで騒々しい2シーター
車内は本当の2シーターでコンパクト。長距離を走るグランドツアラーとしてだけでなく、日常的な利用にも不便はない。身長が190cm近い筆者だと、さすがに完璧に快適な空間は得にくい。仮に数cm車内を広げられたとしても、大差はないだろう。
試乗車にはヘッドレスト一体のバケットシートが取り付けられていた。クッションは肉厚で、部分的に調整も可能だから、長距離であっても座り心地は快適。荷室容量はクーペサイズ。細身のリアハッチを開いて荷物の出し入れをする。
アストン マーティンを習ってか、Fタイプ Rにもクワイエット・スタートに準じるモードが追加された。だが、スタートボタンを押す前にダイナミック・モードを選んでおけば、JLR製の5.0LスーパーチャージドV8に期待する、雷鳴で起動することも可能。
上手に利用すれば、隣人との関係性を悪くすることなく、個人的な喜びも得られる。Fタイプのオーナーの場合、隣人の目を気にしない人もいるかもしれないけれど。
少し上品さを増したと感じるものの、Fタイプは生意気で好戦的な見た目のままだ。現代のTVRとでもいいたくなる。ちょいワルで騒々しい力強さに魅力を感じるか、存在感に戸惑い控えめなものを選びたくなるか、主観はそれぞれだろう。
姿は大きく見え、運転には相当な手応えがありそうに感じる。ボンネットは長く、胴回りも細くはない。1743kgもある車重を、操縦性や乗り心地から感じ取れるが、加速は充分に鋭い。
ワイルドな性格に変わりはなし
硬めの乗り心地だが、アダプティブ・ダンパーを引き締めると、明確に落ち着きがなくなる。ステアリングは重さも充分でレシオも丁度いい。だが感触には乏しい。
ドライビングモードがノーマルの時は、コーナリングの姿勢制御に寛大さが残る。ダイナミック・モードではステアリングの重みが増し、外側のタイヤへ荷重をかけながら、フラットな姿勢で旋回する。コーナー途中の隆起部分では小さく跳ねることもある。
Fタイプ Rは、明らかにシャシーの備える余裕より、動力性能の方が高い。ブルテリア犬のように、俊敏ではあるが、闘争心も強い。速くエキサイティングで、滑らかな郊外の道をスピードを上げて走れば、夢中になれる。
しかし路面次第では、正確な運転も求められる。軽くはない車重を抑え込むため、細かな修正も必要だ。
4輪駆動であっても、パワーは豊かで活発。電子デバイスがオンの状態でも、深くアクセルを踏めばリアタイヤはむずがる。手に負えなくなる前に、何らかの制御が介入してくるが。
Fタイプ Rはモデル後期になっても、ワイルドな性格を変えなかった。0-100km/h加速は3.7秒だが、おそらく簡単に再現できるだろう。
V8エンジンの怒号がスーパーチャージャーの悲鳴に重なり、音響の誘惑も積極的。3500rpmから5000rpmにかけての中間加速は、特に鋭い。
トルクコンバーターの8速ATはツインクラッチほど変速は素早くないし、現代のV8ターボエンジンほど、低回転域のトルクが太くもない。Fタイプのパワートレインに、反応の鈍さを時折感じることも確かだ。
一聴の価値があるV8サウンド
マニュアルモードを選べば、大自然に伸びる道を気持ちよく駆け抜けられる。タコメーターの針も、ドライバーの希望する角度を保てる。そうすれば、陶酔するようなドライビング体験になる。
豊かさと上質さ、高速域での安定性と快適性を、俊足のグランドツアラーとしてバランスさせている。フロントエンジン・レイアウトが、よりコンパクトなスポーツカーと変わらない、むしろそれ以上の満足感も与えてくれる。
最強版のV8エンジンを搭載したFタイプ R P575が、マイナーチェンジを受けた中で最良のFタイプなのか、確かめてみるのも面白い。あるいは、V8ミドシップに変わったコルベットとの比較にも興味が湧く。
ハンドリングの正確性と操縦性で向上は見られた。ジャガーの関係者によれば、450psのV8エンジンの方がバランスでは上だ、という話も聞いている。
確かに走るルートによっては、心から楽しむにはパワー過剰気味に感じたことは否定しない。ただし、これほどのスピードを必要としていなくても、Fタイプ R P575 AWDの放つサウンドは一聴の価値がある。
ジャガーFタイプ R P575 AWDのスペック
価格:9万7280ポンド(1313万円)
全長:4470mm
全幅:1923mm
全高:1311mm
最高速度:299km/h
0-100km/h加速:3.7秒
燃費:9.3km/L
CO2排出量:243g/km
乾燥重量:1743kg
パワートレイン:V型8気筒5000ccスーパーチャージャー
使用燃料:軽油
最高出力:575ps/6500rpm
最大トルク:71.2kg-m/3500-5000rpm
ギアボックス:8速オートマティック
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