BMW iX3
BMW iX3
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次の時代に踏み出したBMW
BMWは同社としては初めてとなるBEVのSAV(BMWはSUVではなくスポーツ・アクティビティ・ビークルと呼ぶ)、iX3を発表した。このモデルは、単なる「BMWが作ったX3の電気自動車版」というだけでなく、第5世代となるBMWのeDriveテクノロジーの頭出しでもあり、プレミアムカーにふさわしい電動駆動システムの新時代の幕開けとBMWは位置づけているという。今後発売が予定されているBEVのBMW i4やBMW iNEXTにもこのeDriveテクノロジーが搭載されるそうだ。
iX3の市場導入は2020後半にスタート
BMWはBEVのi3をはじめ、i8を頂点とするPHV(プラグイン・ハイブリッド・モデル)も積極的にラインナップへ投入してきた。結果として、BMWグループの新規登録車の約13.4%を電動化モデルが占めている(欧州市場における電動化モデルが占める割合は7.7%)。今後、これらの数値が少なくなることは絶対になく、BMWは2025年までに25種類、そのうちの13種類はBEVになる見込みである。また、2030年には全車種の半数に及ぶ電動化モデルの拡充を計画している。
BMW iX3の市場導入は、中国での販売が開始される2020年後半が予定されているという。iX3は合弁会社「BMWブリリアンス・オートモーティブ」が運営する中国の瀋陽工場で生産され、eDriveのコンポーネントもここで作られる。つまりiX3は、BMWブランドとして初めて中国で輸出向けにも生産されるBEVモデルとなる。
汎用性の高い一体型電動ユニット
iX3に搭載される第5世代のeDriveテクノロジーは、電動モーター/パワー・エレクトロニクス/トランスミッションがひとつのハウジング内に収められている。これにより、ドライブトレインの設置スペースを大幅に削減するとともに、出力に対するコンポーネントの重量低減を図り、既存の電動化モデルと比較して、出力密度が約30%向上したという。このシステムは非常に拡張性が高く、様々な車両コンセプト、設置スペース、電力要件に適応できるそうだ。
今回新たに開発された電気モーターは最高出力210kW(286ps)を発生し、静止時からの最大トルクは400Nm。iX3は現状、BMWブランドの電動化モデル中で、これまでにないほど強力なパワースペックを備えることになる。このモーターは電流励磁式で、一般的なモーターのように固定式の永久磁石はなく、レアアースに頼らない生産が可能とのこと。
400Nmの大トルクを直ちに発揮
モーターの設計技術が大幅に向上したことにより、最大回転数は1万7000rpm。210kW(286ps)の最高出力は早い段階で得られ、最高速までの広い帯域で発揮される。400Nmの最大トルクは静止した状態からでも直ちに立ち上がるだけでなく、広い回転域で最大値を維持。これによりiX3は0-100km/hが6.8秒で、従来型のX3 xDrive30iと同等のパフォーマンスを発揮する。最高速度はリミッター作動で180km/hに制限されている。
また、電流励磁式モーターは緻密な回転制御ができるので、ドライブモードによる動力性能の違いがより明確化されているという。SPORTモードを選べば圧倒的な加速力を、COMFORTモードとECO PROモードでは、駆動効率を高め消費電力を重視。コースティングモードも備わっている。
「クラシカルなBMW」たるFRドライブ
前述のようにiX3では、電気モーター/パワー・エレクトロニクス/トランスミッションがひとつのハウジング内に収められ、これがiX3専用のリヤアクスルのサブフレームに設置されている。モーターの動力はそのすぐ両側にある後輪へ伝わるので、伝達ロスが最小限に抑えられる。
BMWによれば「後輪駆動にしたことで、駆動システムの全体的な効率が向上し、電力消費量の削減により航続距離が伸び、ドライバーはクラシカルなBMWのFRドライブを楽しむことができます」とのこと。
4WD導入の可能性は
4WDの駆動形式を選ばなかったとについて、オンライン発表会直後に行われたメディア向けラウンドテーブルで聞いたところ「メインマーケットである中国では4WDの需要がそれほど高くないことも理由のひとつだが、今後4WDも追加するかどうかについては現在検討中」との回答を得た。
優れたトラクションと操縦安定性に加え、いくつかの電子制御デバイスにより、雪道や氷上などでも卓越したパフォーマンスを発揮できるそうだ。
バッテリーのコバルト使用量を3分の1に削減
高電圧のリチウムイオンバッテリーも今回新たに開発されたもののひとつ。BMWグループは2013年から電動駆動システム搭載車用のモジュールとバッテリーを製造しており、バッテリー・セル技術と高電圧バッテリーの製造に関して、すでに経験と実績を積んでいる。
特にモジュールを柔軟に配置できる独自開発のシステムは、様々な車両パッケージに柔軟に対応することができる。さらにこのリチウムイオンバッテリーは、BMWグループの包括的なサステナビリティ戦略の一環であり、バッテリーに使用される原材料のコバルトは、前世代のバッテリーと比較して約3分の1に削減されたという。
iX3に搭載されているバッテリーは、個別に制御可能な188個のセルで構成されており、それぞれをアルミニウムのパーティションで覆うことで10個のモジュールにまとめられている。
そしてボディと一体化したコンポーネントとして、車両のフロア下に配置(重心はX3と比較して750mm低くなっている)。重量は529/523kg、総エネルギー量は80kWhで、そのうち74kWhを使用可能という、このクラスでは非常に優秀な質量/蓄電容量比を実現している。
気温マイナス30度でも始動可能
そしてこのバッテリーを含むEVユニットは先進の冷却/加熱システムにより、厳密な温度管理がされているそうだ。この冷却/加熱システムは、バッテリーユニットのみならず、パワー・エレクトロニクスと電気モーターも支配下に置く。
これにより、あらゆる運転条件とあらゆる天候下において理想的な温度制御が保証され、例えば電動式の補助ヒーターが外気温マイナス30度でも直ちに問題なく始動できるようにする。車内とバッテリーの加熱には、ヒートポンプシステムを採用。ヒートポンプは、従来の暖房に比べて40~80%のエネルギー消費量を抑えながら、快適な車内環境を実現するという。
「満タン」からの走行距離は460km
高電圧のバッテリーと新開発のモーター、それらのパフォーマンスを十分に発揮できる温度管理システムなどにより、iX3の航続距離はWLTPテスト・サイクルで最大460km(285マイル)を記録。これは旧NEDCテスト・サイクルの値に換算すると、最大520kmに相当する。
充電ユニットはCCU(Combined Charging Unit)と呼ばれ、世界各国の充電ステーションに対応可能だそうだ。交流(AC)端子を使用した場合、単相充電で最大7.4kW、三相充電で最大11kWの充電が可能。もちろん直流(DC)の急速充電も使用できるほか、150kWの高出力充電ステーションの恩恵も受けられる。
交流の家庭用充電器での充電時間は0から100%まで約7.5時間、直流の急速充電では0から80%まで34分をそれぞれ要するという。急速充電の場合は10分間充電すると、WLTPサイクルで約100km走行分の電力が得られることになる。AC/DCの複合充電ソケットは、iX3の右リヤ・ホイールアーチの上に設けられている。
X3と同等の車内スペースを確保
iX3のインテリアは基本的にX3のそれを踏襲している。運転席/助手席/後席のスペースもX3とほぼ同等である。ラゲッジ・コンパートメントの積載容量は510~1560リットル(X3は550~1600リットル)で、床下にパワートレインを収めているにも関わらず、X3と大差はない。
フロアの下には充電ケーブルやトノカバーを収納できるスペースも確保されている。また、最大積載量750kgまでのトレーラーカップリングを選ぶことも可能である。
BEV専用プラットフォームをメインにしないワケ
i3やi8は専用のプラットフォームを持っていたが、iX3はX3と共有し、リヤのサブフレームのみが専用設計となっている。BMWとしては今後も、BEV専用プラットフォームと共有プラットフォームの2本柱でやっていくそうだが、しばらく後者がメインになるという。
これでX3は、ガソリン/ディーゼル/PHV/BEVの4種類のパワートレインを選べるようになった。単一モデルで幅広いパワートレインのバリエーションを持つことで、ユーザーの様々なニーズをこぼさず拾う戦略である。なお、i3は今後も改良を加えながら継続、i8はすでに生産が終了しているがそれに代わるモデルについては現在画策中とのことだった。
iX3の車両重量は2185kg(欧州仕様)。X3のPHVであるxDrive30eの車両重量は2060kg(日本仕様)だから、PHVからBEVにすることで125kg重くなっている。しかし前後重量配分は43:57で、例によって前後の重量バランスは悪くない。重心高も下がっているので、iX3の走りには期待が持てるのではないだろうか。
REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)
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