マツダがドライバーの体調悪化や居眠りなどで事故の恐れがある場合にクルマを自動で路肩などに停止させる副操縦士システム、「CO-PILOTコンセプト」を公開した。2022年度からの新型車から導入される予定だ。
一般道や低速運転時にも対応できるのはマツダのシステムの特徴だが、一般道でまったく同様のシステムを採用しているメーカーはない。各メーカー間の考え方の違いはいったい何か、広島でマツダのCO-PILOTを実際に体験してきた松田秀士氏が分析する。
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文/松田秀士、写真/マツダ、スバル、トヨタ、AdobeStock
■運転中に意識をなくしたドライバーによる事故が起きたら……
クルマ運転中の体調急変での重大事故が増加中。しかも一般道で多く発生しており、歩行者を巻き込む重大事故になりやすい(hikari_stock@AdobeStock)
ここ最近、高齢ドライバーによる事故が報道され社会問題化している。ベビーブームといわれた団塊世代の高齢化が進行中で、高齢ドライバーが占める比率も上昇中だ。筆者自身、「安全運転寿命を延ばすレッスン」(小学館)なる本を執筆し、高齢ドライバーへの安全運転啓蒙活動を行っている。
しかし、これはあくまでもドライバーが運転可能な状態を維持していることが前提。そこで運転ミスをしないために、何に気をつけ、普段どのようなトレーニングをし、どんなサプリメントが効果的なのかを提案している。
しかし、もし運転中にドライバーの身体に異変が起き、意識をなくしてしまったら……。こうなったらクルマは走る凶器と化す。事実、昨年東京都内でも運転中にドライバーが失神して、歩道に乗り上げて歩行者を巻き添えにする事故が発生している。
■CO-PILOTはいざという時にドライバーの代わりをする副操縦士
マツダによると、このような事故は年間に300件超も発生しているのだという。しかも、そのほとんどが60km/h以下の一般道で発生しているというデータがある。その具体的な対策として昨年、マツダがCO-PILOTコンセプトを公開した。
これはクルマがドライバーをモニタリングして居眠りや失神などの異常を検知したら、自動的にクルマを停止させるというもの。現行モデルではアラームなどによる警告を行っているが、さらに一歩進んでクルマを自動で停止させ、二次発生する事故を防止しようという試みだ。
CO-PILOTとは航空機の副操縦士という意味。飛行機の場合、機長に何かがあったとき代わって副操縦士が安全に空港に着陸させる。しかし、クルマの場合は副操縦士を常に乗せて走るわけにもいかず、そこでクルマが副操縦士として安全に停止させるというもの。
■マツダの三次テストコースでCO-PILOTシステムを体験してきた
実際に筆者は昨年MAZDAの三次テストコース(広島県)に行き、CO-PILOTシステムを体験してきた。この時の車両は2025年をめどに開発が進められているCO-PILOT 2.0というもので、12個のカメラによって周囲360°を常にモニタリングし、ドライバーの状態を観察するカメラも運転席に向けてセットされていた。
マツダが発表した「CO-PILOTコンセプト」を三次テストコース(広島県)で実際に試乗してきた松田秀士氏と12個のカメラを備える実験車両のマツダ3
今年度に発売予定の新型車に搭載が予定されているのはCO-PILOT 1.0。CO-PILOT 2.0の特徴は、ドライバーが運転を継続できない状況になった時には、路肩に寄せ、退避可能なエリア(非常駐車帯等)までクルマが自動運転を行って走行。
その後、停止すると自動でヘルプネットに通報する。CO-PILOT 1.0では高速道路での第1車線走行時のみ可能な状況であれば路肩に寄せて減速停止を行うが非常駐車帯への退避は行わず、減速してその場で停止させる。
用意されている「ヘルプネット」は、備え付けのSOSボタンを押すことで外部に知らせることもできる
この際に周辺や他車へ異常を知らせるためにクラクションとハザードに加え、ブレーキランプの点滅も行うというもの。CO-PILOT 2.0との決定的な違いの要因となっているのが、周囲の交通をモニタリングするカメラの数と高度な詳細地図による位置情報だ。
実はこの三次テストコースでの試乗では、CO-PILOT 2.0装着車でワインディングのコースを完全な自動運転で走行することも体験。テストコースのワインディングコーナリングなので上り下り、さらに曲がり込んだコーナーもあり、路面もわざと荒れた作り。
そこを50km/hを超える速度でコーナリングし、直線では120km/hオーバーまですべて自動運転で走行したのだ。
コーナリングもライン取りや加減速もレーシングドライバーの筆者を唸らせるもの。ここまで自動運転の開発が進んでいることに驚いたものだ。が、しかし、マツダはあくまでもドライバーが運転を楽しむことをメインにしている。だからCO-PILOTなのだ。
■アイサイトXにも装備されている「ドライバー異常時対応システム」
では、このような安全システムを開発しているメーカーはほかにないのだろうか? 実はすでに装備されて発売されているモデルがある。
アイサイトXには「ドライバー異常時対応システム」が装備されている。ドライバーに異常が発生したと判断した場合、走行中の車線内で徐々に減速・停止し、ハザードランプやホーンで周囲に知らせる
スバルレヴォーグのアイサイトXだ。レヴォーグの場合、高速道路ではハンズオフできるほどの高性能。こちらはJARIのテストコースで体験したのだが、見通しの悪いところは避けて、同一車線上で減速して停止させる。
クラクションやハザードで他車に知らせることも行う。また、日産スカイラインハイブリッドに搭載されるプロパイロット2.0もアイサイトXと同じような制御を行っているのだ。
■ドライバーの異常時対応を行うトヨタの「アドバンストドライブ」
さらに一歩踏み込んでいるのがトヨタとホンダだ。トヨタミライとレクサスLSのアドバンストドライブ装着車にも同じような機能がある。アドバンストドライブはライダーを採用するなど高度なADAS(運転支援機構)を採用しているだけに、第1車線走行中にかぎり路肩に寄せて停車させる機能を持つ。
トヨタのアドバンストドライブのドライバー異常時対応システムは、システムがドライバーの運転継続困難と判断した場合、周囲に警告しながら車線内または路肩に停車する。停車後にドア解錠やヘルプネット接続による救命要請も行う
ユニークなのはエージェント機能を活用したオペレーターとの会話。居眠りを感知したらエージェントに自動で電話をして、オペレーターと会話をすることで覚醒させようというもの。
自動運転のレベル3を達成したホンダレジェンドにも同様の機能が採用されている。
■一般道で対応できるのはマツダのCO-PILOTだけ
ところで、レヴォーグ、スカイラインハイブリッド、ミライ、レクサスLS、レジェンドと紹介してきたが、これらはすべて高速道路上でのみ作動し、なおかつアイサイトXやアドバンストドライブなどの高機能ADAS(運転支援機構)を作動させての走行中であることが前提だ。
つまり、高精度な地図情報とGPSを使用した正確な位置情報を取得している必要があるのだ。そしてこの高精度な地図情報は現在高速道路にしかフォローしておらず、一般道(幹線道路のみ)の高精度地図情報が整うのは2025年頃と予想されている。
これに対して今年導入予定のCO-PILOT 1.0は高速道路に限定せず、一般道でも行う。一般道でも行うのは今のところCO-PILOT 1.0だけ。他社はすべて高速道路に限定される。
写真はCO-PILOT 2.0を搭載した試験車両で、一般道走行中に異常事態を検知して減速している車内の様子
冒頭で説明したが、ドライバーが運転不能に陥ったことによる事故のほとんどが60km/以下で発生している。つまり、一般道が多いのだ。高精度な地図情報がない一般道でも自動停止を行おうとしているのだからある意味野心的であり、真剣にこのような事故を防ぎたいという切実さが見える。
そこにはやはり運転を「安心して」楽しんでもらいたいというマツダの思いがあり、ワインディングなどの一般道でも何かの時に対応できる制御が必要と判断したからこの時期に他社に先駆けて導入できるのだろう。
■な、なんと!! ドライバーの目の動きから脳疾患を検出可能!?
さらにCO-PILOT 2.0を2025年に導入予定しているのだが、こちらにもマツダならではのユニークな機能を開発中だ。それはドライバーの眼の動きをモニタリングして居眠りだけでなく、脳疾患による異常予兆を検知しようとしているのだ。これらの異常とは低血糖、心疾患、脳血管疾患、てんかんを指す。
視覚刺激の強い場所を計算して2次元マップとして表現した「サリエンシーマップ」。この情報と目線カメラの情報を組合せて脳疾患による異常予兆を検知しようとしている
フラつきなどの運転操作異常。倒れ込みなどの頭部挙動異常。そして視線の挙動異常。これらの予兆をモニタリングして、速い段階でドライバーに代わっての運転対応を行い事故を未然に防ごうとしている。
踏み間違いによる事故だけでなく、運転不能に陥るリスクをどうマネージメントするのか。安全な交通社会を維持するためには必要不可欠な技術である。
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みんなのコメント
あとはTHSを組み込んでくれたらすぐにでも買うのに。
ハイブリッドがないのか痛い。