9月24~25日に岡山県の岡山国際サーキットで第9・10戦が行われたファナテック・GTワールドチャレンジ・アジア・パワード・バイAWS。最終ラウンドとなる岡山戦の土曜日、第9戦でジャパンカップのタイトルを決めたカーガイ・レーシングの木村武史は「日曜日もクリーンなバトルで終わりたい」と話していた。
残るGT3オーバーオール、つまりGTWCアジアにおける最高峰タイトルを争う相手は、トリプルエイトJMR99号車メルセデスAMG GT3のH.H.プリンス・アブドゥル・ラーマン・イブラヒム/ニック・フォスター組。木村も、コンビを組むケイ・コッツォリーノも、土曜日のレース後には「ジャパンカップだけで充分。アジアタイトルも獲れたら、それはでき過ぎ」とは話していたが、3ポイント差に迫る99号車と接戦の最終決戦が繰り広げられる予感は、ひしひしと漂っていた。
星野/藤井組アストンが今季2勝目。カーガイは1周目に接触もアジア王者に輝く/GTWCアジア第10戦岡山
だが、迎えた第10戦で待っていたのは「クリーンなレース」という言葉とは正反対の波乱だった。
決勝は、予選最終セッション(=第10戦予選)でアタックしたプロドライバー勢がスタートを務める。当然、スタート直後からタイトルをめぐる激しい戦いが繰り広げられることになると、スタートドライバーのコッツォリーノも予期していたという。
グリッド左側2列目、4番手スタートだったコッツォリーノは好ダッシュを決め、1コーナーへの進入でフロントロウの2台にアウト側から並びかける。このチャレンジは成功しなかったものの、99号車が1コーナーをややオーバーランする形となり、そのイン側から1コーナーを立ち上がったコッツォリーノは、2コーナーまでに5号車荒聖治と並び、2番手が伺える位置につけた。
だが、そこに背後から衝撃が。99号車のフォスターが左リヤに接触してきたのだ。
「やっぱりタイトル争いですから、多少の接触はあるだろう、クリーンな範囲のなかでバチバチなバトルになるんだろう、と考えていたのですが、まさかミサイルが2コーナーで飛んでくるとは想定していませんた」とコッツォリーノは振り返る。
コッツォリーノはスポンジバリアへと埋まった。幸い、マシンはほぼ無傷だったため、セーフティカー中にオフィシャルの手によりコースに戻された後はいったんピットへ向かい、壊れていた左サイドミラーを完全に取り除いてすぐにレースへ復帰。1周おくれで走行を続けることになった。
このままのポジションでレースが終われば、タイトルは2番手を走る99号車陣営にわたってしまう。しかし、1周目の接触に関しては99号車にペナルティが科せられることになった。
そのペナルティが『100秒のストップ・アンド・ゴー』だと聞いたコッツォリーノは、タイトルを確信した。それは、99号車がカーガイのうしろに回ることを意味する秒数だからだ。
「99号車は開幕戦(セパン)から出ていますし、そう言う意味では本来は彼らが(シリーズタイトルを)獲るべきチーム。そこで僕らがタイトルを獲れたのは本当にラッキーだと思います。ただ、今日に関してはSROと審査委員会がフェアな判定を下してくれたことに感謝しています」(コッツォリーノ)
総合順位では2台ともポイント圏外へと転落したが、レース終盤には99号車の後半担当・イブラハムが、木村へと迫る展開となった。
こうなればタイトル争い云々ではなく、純粋にコース上では負けたくない。「タイヤも厳しく、クラッシュの影響でアライメントも狂ってしまっていた」木村だが、ここでは“秘策”を繰り出して、ポジションを守っていた。
「さすがに2回目はぶつけてこないだろう、というのもあって、私は結構途中でバックオフ(ブレーキングポイントの少し手前でアクセルを戻す)しながら、走りました。この前のWEC富士で、ポルシェのプロドライバーがやっていたんです。うしろのドライバーを詰まらせて失速させた瞬間に自分は加速する、という走りを。もうタイヤが厳しかったので、それをやらないと抜かれてしまう状況でした」
かくして木村はポジションを守り、チェッカー。パルクフェルメに戻ると、満面の笑みを浮かべたコッツォリーノが待っていた。
「改めて、木村選手の素晴らしい走りがあり、年間を通してチームが最高のクルマと体制を作ってくれて、この結果があると思います」とコッツォリーノはこの1年を振り返る。
さらにGTWCアジアというシリーズ自体への印象を「プロとアマチュアがお互いにちゃんとした土俵を与えられて、ドライバーのパフォーマンスをしっかりと争えるチャンピオンシップだと思いました」と総括した。
「木村選手含め、たくさんのジェントルマンの方々も、プロのドライバーも『このレースいいよね』と思っていますし、ピレリのワンメイクタイヤはちょっと滑りやすいんですけど、これを乗りこなすこともモータースポーツの醍醐味というか、非常にハイレベルなことだと思うので、今後も(参戦を)続けていくつもりです」
ふたりは、11月にロンドンで行われるSRO年間表彰式にもアジア王者として招待されるようだ。アジアを制した彼らの今後の活躍も気になるところだ。
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