昨季、衝撃のデビューウインを飾った“SVG”ことシェーン-ヴァン・ギズバーゲンの凱旋ラウンドともなったシカゴ市街地での2024年NASCARカップシリーズ第20戦『グラント・パーク165』は、初年度に続き2年連続で雨絡みの短縮ウエットレースという難しい条件と化すなか、戦略的に正しい判断を下したアレックス・ボウマン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)が実に80戦ぶりの勝利を獲得することに。
「前回勝ったときは、あまり祝うことができなかったが、今夜はバーボンをたくさん飲むつもりだ。これはマズいね……またバスルームの床で裸で目を覚ますことになりそうだ(笑)」と、喜びを爆発させる結果となった。
ガレージ56から発展した最高1360PS発生の電動マシン『ABB NASCAR EVプロトタイプ』が初公開
現地土曜に初公開された電動コンセプトモデル『ABB NASCAR EV Prototype』のお披露目を筆頭に、来季に向けたストーブリーグでは、チームの解散に伴いリクルート活動を強いられていたジョシュ・ベリー(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)のウッド・ブラザーズ・レーシング入りが決まるなど、シカゴの週末はニュースが相次いだ。
当該ラウンドには、もちろん前年度覇者であるSVGが今季レギュラーのNASCARエクスフィニティ・シリーズとともに最高峰クラスにもエントリー。さらにデイトナ24時間覇者で、ル・マン24時間でもクラス優勝を記録する“耐久の雄”ジョーイ・ハンドも、フォード陣営よりRFKレーシングのマスタング60号車でゲスト参戦することで話題を集めた。
迎えたレースウイーク走り出しは、林立する高層ビル群に快晴の青空が映えるコンディションのなか、カイル・ラーソン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)がフリープラクティス(FP)最速から予選でもポールウイナーに輝く好調ぶりを見せる。
そのFPではカウリグ・レーシングのカマロZL1をドライブし、セッション2番手に続いていたSVGは、カップの予選でこそ5番手に留まったものの、続くエクスフィニティ・シリーズ第18戦『ザ・ループ110』では本領を発揮。
グリーンフラッグからのオープニングでラーソンと複数回もポジションを入れ替える好バトルを演じると、ステージ1を制覇し、終盤も好調タイ・ギブス(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタGRスープラ)を仕留め、風の街シカゴの2.2マイルで完勝。シリーズでは3戦連続のロードコース勝利と、シカゴ通算2勝目を手にした。
■ステージ2再開直後、SVGに不運が襲う
「最高だ、最高のレースだったよ。最後はかなりワイルドだったが、このカウリグ・レーシングの皆には感謝してもし切れない」と、おなじみになったラグビーボールをスタンドに蹴り込むアクションで勝利を祝ったSVG。
「カイル(・ラーソン)とのレースは最初から素晴らしかった。(ステージ1終了後)お互いに親指を立てて手を振っていたのはクールだったね。本当に敬意を表しながらの“ビッグムーブ”だったし、彼はブレーキングとバンプの処理が抜群だった。僕は多くのことを学び、彼も僕から多くを学んだだろう。明日もまた彼とレースして勝利を収めたいね」
同じく、日曜はフロントロウ2番手のギブスと並んでポールポジションからスタートを切るラーソンも「とても楽しかった」とエクスフィニティでの勝負を振り返った。「もちろん今日は勝ちたかったが、何よりも学びたかった。彼はバトルのシェイプやアングルを作って追い抜くのが本当に上手だし、彼と戦いたかったんだ」と続けたラーソン。
「それが僕の目標で、初めてチャンスを得たとき、彼とレースできる機会がまたあるかどうかわからないし、これを逃せないと思ったんだ。1、2周は僕のクルマの方が彼より少し良かったようで、彼を抜いて守ることができたけど、彼の方が僕よりずっと上手だったよ」
迎えた日曜決勝は一転。スタートから雨混じりの天候で、各車ともウエットタイヤかスリック装着かの判断が分かれるなか、ワイパーを作動させながらの勝負でSVGがさすがのドライブを披露。ドライの前日に続きウエットのカップ戦でもステージ1を制していく。
この時点でNASCARの運営側は昨季の反省も踏まえ、雨の影響により75周レースの「最大延長は午後8時20分まで」と最初のステージブレイクを前に各チームに通達。すると雨脚が強まったステージ2再開の25周目に衝撃の光景が広がる。
再開直後のリスタート。タイヤ換装で5番手から再浮上を狙ったSVGの16号車だったが、激しいウォータースクリーンで視界不良のなか、ターン6へのブレーキングで車両の制御を失ったチェイス・ブリスコ(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)が、クルマを止め切れずにSVGのリヤに激突。アウト側のウォールにヒットした16号車はここで再起不能となり、前年度ウイナーがこの日のリタイア第1号となってしまう。
「ただターンインしただけ。かなり調子が良さそうだったのに、誰か(ブリスコ)に押し出されてしまった」と、ケアセンターを離れた後に応じたSVG。
「本当に残念だ。クルマの感触は良くレースの大部分でリードしていたし、雨のなかでのスタートも気持ちよかった。彼の不運なミスだが、本気でそうしたワケじゃない。こんなに早くリタイアしたのは残念だし、最後にちゃんとトライできなかったのも残念だ」
■雨で1時間43分の中断。再開後もハイドロでクラッシュ発生
ここで雨量による2回目のコーションが発動し、レースは1時間43分の赤旗中断に突入する。まだトラック上には雨量が残る31周目の再開後、クリストファー・ベル(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)がギブスから首位の座を奪い返すと、34周目にはSVGに続きポールウイナーにも悲運が襲い、ハイドロプレーニングを起こしたカマロZL1の5号車はターン6のタイヤバリアに激突。これでシカゴの主役級と目されたふたりが戦列を去ることに。
ここから終盤の戦略的な判断でフィールドが混乱するなか、ベルとギブス、そしてタイラー・レディック(23XIレーシング/トヨタ・カムリXSE)ら、好調トヨタ陣営が優勝争いを展開し、その背後でジリジリとポジションを上げて来たボウマンが、ステージ2を制したハンドのマスタング“ダークホース”を追い詰め2番手まで浮上してくる。
その前段でタイヤ交換を済ませていたカムリXSE艦隊は、49周目からのファイナルステージ後に前方の車列を掻き分けるのに時間を取られるなか、首位ハンドを51周目に仕留めたボウマンだったが、ここでジョシュ・ベリー(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)が2回目のクラッシュを喫して最後のコーションが発動する。
首位の48号車のカマロZL1は古いウエットタイヤでステイする判断を下すと、レースは54周目のリスタート時点で長期中断の影響から最大延長時間に到達。最後は各所でクラッシュや接触上等の肉弾戦が頻発するなか、ホワイトフラッグで2番手ハンドを捉えたレディックも、攻めの姿勢でわずかにエイペックスのウォールへタッチするミスを犯して48号車に届かず。3番手にもギブスを従えたボウマンが、最後まで集中力を切らすことなくトップチェッカーを受けた。
「やれやれ……(スプリントカーの事故で)背骨を折って、脳にダメージも負い、それ以来ずっと調子が悪かったんだ」と、2022年のラスベガス以来となる勝利を飾ったボウマン。
「僕はもう一度レースに勝てるチャンスがあるかどうか、疑い始めていたんだ……これは(深酒の)マズい取引になるだろうが、それもこのスポーツの最高の瞬間の一部さ!」
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