人がバイクに乗る理由とは?
人はなぜバイクに乗るのか。
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日本と同様にバイク文化が息づく英国では、大小さまざまなブランドが魅力的なモデルを生産し、多くのライダーが己のマシンをこよなく愛している。かくいう筆者(英国人)も、自動車専門誌の編集者としてドライビングと雑務に明け暮れる傍ら、ライディングの魅力に取り憑かれた1人である。
人がバイクに乗る理由をネットで検索したとき、まさか一番上に出てくるのが、電動二輪車に乗ることを奨励する英国の行政のページだとは思わなかった。
ロンドンからほど近いノーサンプトンシャー州は、メルセデスF1チームなど世界有数の技術者が集まる地であり、F1やモトGPの舞台となるシルバーストーンのような有名なサーキットもある。
そんな背景もあって、ノーサンプトンシャー州議会はバイクを奨励しているのだろうが、なんという啓蒙的な場所なのだろう。
しかし、筆者が見つけられなかったのは、クルマ好きの人がバイクに乗る傾向があるかどうかを示す統計である。AUTOCARの英国編集部内ではスタッフ同士でバイクの話題もよく出るのだが、あるとき編集長代理が、なぜクルマ好きがバイクも好きになるなのか説明してほしいと頼んできたのだ。
時間の節約になる……けれど?
英国にはバイクの免許保持者が360万人、クルマの免許保持者は4000万人強いる。表向きは、ライダーとドライバーの割合は1対10弱ということになるが、実際の車両の数はこれに比例するものではない。
英国の道路には3217万台のクルマが走っているが、バイクは134万台しかない。多くのライダーは普段クルマを運転していると考えるのが妥当だろう。統計には頭を悩ませるが、筆者はライダーの知り合いが多い。
バイクの魅力とは何か? ノーザンプトンシャー州では、バイクに乗る理由の第一に「時間の節約」を挙げている。これはバイクの最大の神話だと思う。渋滞の中、同じ距離を走るのに、バイクはクルマより16~46%ほど時間を短縮できるというのは事実だ。
そして、英国人の平均的な通勤時間は片道30分弱。そのうちの3分の1、10分が渋滞だと仮定しよう。その中をバイクで走り抜ける。すると、バイクに乗ることで通勤時間が5分短縮されるという計算だ。ブラボー!
バイク乗りは「楽」じゃない
しかし、ライディングの前には準備しなければならないことがたくさんある。バイクを鍵のかかった倉庫にしまっている人もいるし、カバーをかけている人もいる。昼飯の弁当箱を助手席に放り込むわけにはいかないので、バッグにしまっておく必要がある。カップは持っていけないから、家を出る前にコーヒーを飲み干さなければならない。仕事用の靴は大抵、ライディングには使えないので、袋に入れて持ち運ぶ必要がある。
室内でライディング用の服に着替えると、オーバーヒートして汗をかき、ライディング中に風が当たって骨の髄まで冷えてしまうので、ヘルメットをかぶる直前に硬いプレート付きジャケットを着る。仕事着や弁当などの荷物もあるので、玄関から何度も往復しなければならない。
そして、家の鍵をしっかり閉めて、荷物をベルトやひもで固定し、最後にジャケットとヘルメットをかぶって……ああ、いけない、耳栓をするのを忘れた。
確かに、バイクはクルマよりも場所を取らないし、渋滞にも巻き込まれにくい。しかし、通勤時間をすべて街中で過ごすスクーター乗りは時間を節約できるが、郊外に住む人がバイクに乗っても、せいぜい周りのドライバーの通勤時間を短縮するだけだ。
それから、バイクの世話をする手間もある。洗車や注油はクルマより頻繁にしてやらないといけない。それに、クルマとバイクを両方所有するのであれば、その分費用がかさむ。1年のうち気温が「適切」な時期は数か月しかない。筆者は冬や雨の日にはあまり乗らない。
運転の「本質」を教えてくれるのがバイク
筆者はすぐに挫けてしまうし、濡れたバイクウェアを職場で整理しなければならないのは苦痛だ。夏の一番暑い日のジャケットも耐え難いものだが。それに、バイクが交通弱者であることは認めるべきだと思う。編集長と筆者はそれぞれバイク事故で友人を亡くしているし、怪我をした知り合いだって少なくない。だから、まだライダーでない人には、手放しでお勧めできるものではない。
でも、それはそれで残念なことだ。なぜなら、時間を節約するという考えは忘れ、代わりにライディングを人生最高の過ごし方の1つと考えるべきだからだ。筆者にとってライディングは、運転の本質的な楽しみを倍増させるものである。
筆者は人と移動装置とのやりとりが好きだ。馬や自転車に乗りたいと思うのも、蒸気機関車を運転したいと思うのも、飛行機やヘリコプターを操縦したいと思うのも、クルマを運転したいと思うのも、すべて同じ感覚だと思う。技術を楽しく応用して、ここではないどこかへ行く……最終的には、わたし達全員が同じような感覚を抱くのだと思う。
バイクはクルマ以上にその感覚を与えてくれる。おそらくゴーカートを除いて、どんなクルマでもそうだろう。筆者のホンダ・アフリカツインのような大型バイクは220kgあるが、これでも小型乗用車の半分以下だ。余計なものがついていないのも魅力の1つである。
また、バイクは必要以上に大きくならない。軽量スポーツカーで知られるアリエルの創立者サイモン・ソーンダース氏は、軽量なバイクやクルマを設計してきたが、バイクのバッテリーボックスに「2mm」の余裕を見つけて「大喜び」したと言う。純粋にエンジニアリングが好きな人なら、きっとバイクも気に入るだろう。
人間と機械が一体化する感覚
そして、バイクに乗ったことがなくても、自転車に乗ったことがある人なら、乗り物と「対話」する感覚がわかるはずだ。クルマでは、手足を使ってレバーやステアリングホイールを動かし、さまざまな部品を回して速度や方向を調整するが、身体そのものは事実上静止している。
バイクにも動力はあるが、身体の動き、特に傾きは、進む方向に驚くほど直接的な影響を与える。
バイクが人間の延長のように感じられ、人間と機械が一体となり、心を広げてくれるというのは、ちょっと陳腐な表現かもしれない。ひどく気取った言い方でもある。しかし、そこには心を動かす何かがある。単なる精神論ではなく、科学に基づいた理論が。
日本のある大学の研究によると、40代のライダーが2か月間の通勤で認知機能が高まったという。学術誌『Brain Research』に掲載された2021年の研究では、バイクに乗ることでストレスが25%減少したとされている。
研究者の1人は「実験室での実験では、バイク乗りが公道で感じるような感覚を再現することはできない」と言う。
つまり、科学のお墨付きというわけだ。バイクは寒いし、暑いし、濡れるし、時間を浪費するし、お金もかかるし、無防備だ。でも、はるかに、はるかに幸せになれる。筆者は自分の足が許す限り、バイクに乗るつもりだ。
(AUTOCAR英国編集部マット・プライヤー)
自然を「肌」で感じる素晴らしさ
バイクの旅で何物にも代えがたいのは、どんなクルマよりも直接的に自然と触れ合えるということだ。谷底では気温の低下に気づく。サイレージ(飼料)や収穫された干し草の匂いは特に鋭い。路面の変化にも気を配り(安全のため)、樹木の下の湿った場所には特に注意する。
エンジンの音を越えて、鳥のさえずりを聞くこともある。風向きにも気を配るし(騒音や姿勢に影響する)、太陽と風を背に長距離を走ったことがある人なら、それがどれほど崇高なことかわかるだろう。
雨に濡れるって? 確かにリスクはあるが、最近のギアはかつてないほど優秀だ。しかし、筆者もよくやらかすように、身を守るものを忘れてしまった場合は、ずぶ濡れのバイカーがよく口にする、「まあ、濡れるのは一度だけだし……」という皮肉を楽しむことができる。
(AUTOCAR英国編集部スティーブ・クロプリー)
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