マツダ3などに搭載される新世代ガソリン・エンジン「SKYACTIV-X」のアップデート版に世良耕太が試乗した。改良のポイントは?
SKYACTIV-Xの仕組みとは
マツダは新世代ガソリン・エンジンのSKYACTIV-Xをアップデートする。アップデート版の発売タイミングは2021年初頭の予定だ。最大トルクは現行SKYACTIV-X比16Nmアップの240Nm/4500rpm(社内測定値。以下同)、最高出力は8kW(10ps)アップの140kW(190ps)/6000rpmになるという。ハードウェアを変更せずソフトウェアの変更のみでこれらの性能向上を実現することもあり、現行SKYACTIV-Xユーザーへの無償アップデートを検討しているそうだ。
国内では2019年12月から販売開始されたSKYACTIV-Xは、ガソリンエンジンで圧縮着火を制御する技術を世界で初めて実用化した画期的なエンジンだ。既存のガソリンエンジンは、燃料(ガソリン)と空気をよく混ぜた状態にした混合気に点火プラグで火を点ける。すると、火花を基点に燃焼が広がっていく。
圧縮着火は、燃料と空気をよく混ぜるところまでは火花点火と同じであるものの、点火プラグは用いず、圧縮による温度上昇を利用して自己着火させる。自己着火のメリットは、後述する“リーン”な混合気を燃焼させることができる点だ。熱効率を高めていくことがエンジン開発のひとつの理想であるとすれば、その理想に近づける開発の方向は極論すれば2点に絞ることができ、1つは圧縮比を高めること。もう1つは比熱比を高めることだ。
比熱比は混合気をリーンにしていくほど高くなる。ガソリンと空気が過不足なく燃焼する空気と燃料の質量の比は14.7:1で、これより空気の比率が高い状態をリーンと呼ぶ(逆に、燃料の比率が高い状態はリッチ)。リーンにしていくと、混合気は文字どおり薄くなるので、点火プラグでは着火しにくくなる。だから、圧縮比を高めて(熱効率が高くなる一要素だ)圧力を高め、高温状態にして自己着火させるのだ。
圧縮着火が優れているのは、リーンな混合気を燃焼させられることだけではない。点火プラグの電極を基点に燃え広がる火炎伝播燃焼と違って、燃焼室全体で同時多発的に燃焼が始まるため、燃焼が速い。点火プラグを用いた火炎伝播燃焼の反応が、しばらくチカチカしてから点灯する蛍光灯なら、圧縮着火はさしずめLEDだ。スイッチを入れた瞬時に光るがごとく、瞬時にパッと燃える。だから、燃焼エネルギーが圧力に変換される効率が高く、熱効率が向上する。効率の向上分は燃費に振ることもできるし、出力やトルクに振ることもできる。反応の早さ、それ自体も魅力だ。
圧縮着火はHCCI(予混合圧縮着火)とも呼ばれ、「夢のエンジン」「究極の内燃機関」ともてはやされて1990年代後半から一時期開発が活発化したが、GMやメルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲンなど、どのメーカーも実用化できずに諦めた。安定した燃焼の成立範囲が狭いのが課題だった。圧縮着火がおこなえない領域では点火プラグを用いた燃焼に切り換える必要があったが、スムーズな切り替えが難しく、実用化の壁となって立ちはだかったのだ。
マツダは点火プラグの火種を圧縮着火のきっかけづくりに利用する独自の燃焼方式、火花点火制御圧縮着火(SPCCI)をものにすることで、圧縮着火を世界で初めて実用化することに成功した。「火花点火との切り替えが難しいのなら、最初から火花を使ってしまえ」という逆転の発想だ。火花で点火した火炎を伝播させるのではなく、あくまでも圧縮着火のためのきっかけづくりに点火プラグを用いる。
火花点火のきっかけづくりは一律ではなく、エンジン回転数や負荷に応じて、強くしたり、弱くしたりする必要がある。そのためには筒内の状態を精度高く把握する必要があるため、SKYACTIV-Xは各気筒に筒内圧センサー(CPS)を設置した。このセンサーからの情報をもとに気筒ごとの筒内の状態を予測し、その状態からドライバーの要求を満たすための新気、EGR(排ガス再還流)、燃料量、点火時期を制御する。
瞬発力が向上
こうした燃焼制御の緻密化を図ったのが、今回のアップデートの内容だ。15.0という、ガソリンエンジンとしては無類の高圧縮比に変更はない。マツダは2021年初頭に発売するSKYACTIV-Xのアップデート版を「SPIRIT 1.1」と命名した。SPIRITは「内燃機関の理想に向けて徹底的に技術を磨き上げていくマツダの“精神“から名づけた」という。最初の数字はハードウェアの数字を示しており、小数点以下の数字はソフトウェアの数字を示している。今回はソフトウェアをアップデートしたので、1.1になった。
燃焼制御の緻密化を図った結果、従来に比べ多くの新気を導入してもしっかりと燃焼をコントロールできるようになり、トルクと出力が向上した。ターボエンジンにたとえれば、過給圧を高めたようなものだ。
そう聴くと、応答遅れが大きくなるのではと思いがちだが、そこは燃焼の速さがウリの圧縮着火である。筒内状態量の予測モデル精度が高くなったことにより、アクセルペダルを踏み込んだときのレスポンスが良くなり、早く加速度が立ち上がるようになった。AT車の場合は、ダウンシフトの応答性も高くなっている。
マツダ美祢試験場のサーキットコースとワインディングコースで、現行のSKYACTIV-XとSPIRIT 1.1を短時間、乗り比べた。試乗車はどちらも、MAZDA3ファストバックである。正直なところを記すと、現行のMAZDA3×SKYACTIV-Xがもたらす走りの気持ち良さを再確認した。このままでも充分気持ちがいい。アクセルペダルを踏み込む足先の動きに即応してクルマの姿勢が変化するが、前下がりのロール姿勢に移行していくプロセスがなんとも絶妙で、クルマを自らの意思で操っている感じが濃密に味わえる。
SPIRIT 1.1は、クルマを操っている感が一段と増す。「少しオーバースピードでコーナーに突っ込んだかな?」と、感じたときにアクセルペダルを踏む力を心持ち緩めると、エンジンのトルクがスッと落ちて(圧縮着火はトルクを出す側だけでなく、落とす側も速い)荷重移動が起き、前下がりの姿勢を増しつつ鼻先がさらに内側を向き、狙ったラインに乗る。そのコントロールがしやすくなっている。
タイトなコーナーをクリアした先が上り勾配になっている状況では、視覚で得た情報から無意識に、右の足先に込める力が強くなるものだ。SPIRIT 1.1のAT車はそんなとき、ドライバーの意図を汲み取って素早くダウンシフト。ここで力が欲しいと思うタイミングで力を出してくれる。SPIRIT 1.1はそのときの、グッとクルマを押し出す力が強くなっている。もっと早く、大きな力を出すことも可能というが、それをやると車両の動きが過敏になってしまうので、あえてなましているという。
右足の動きに即応する瞬発力の高さと、その高い瞬発力を生かしてクルマの動きをより自在にコントロールできるようになるのが、SKYACTIV-Xのアップデート版、SPIRIT 1.1の魅力であるのだ。
文・世良耕太
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