2023年9月中旬、富士スピードウェイで「LEXUS SHOWCASE」と題したメディア向けのイベントが開催された。このイベントは、23年にワールドプレミアを行った、これから発売を予定するレクサスのニューモデルを一堂に集めて展示。併せてプロトタイプ車両の体験試乗会も行われた。そのうちの1台が、この新型LMである。
●プロトタイプのボディサイズは全長5125mm、全幅1890mm、全高1955mm。ホイールベースは3000mmでタイヤサイズは225/55R19。撮影車はミシュラン プライマシーSUV+を装着。ボディカラーはソニックチタニウム
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”ガワ”だけじゃない2代目の真価
2023年4月の上海モーターショーで新型が世界初公開されたLMは、もともと中国市場をターゲットに誕生したレクサス初のミニバンだ。
初代は先代アルファード/ヴェルファイア(以下アル/ヴェル)をベースに超短期間で開発され、2020年に販売がスタートした。ボディパネルはほぼ共用で、成り立ちはまさに”アル/ヴェルのレクサス仕様”だった。が、なかでもVIP向けの2列シート4人乗りが中国の富裕層に大ヒット。大人気のアル/ヴェルのさらに上を行く、ハイエンドショーファードリブンMPVの地位を一躍築いた。
2代目となる新型LMは、その商品性をいっそうグローバルに訴求すべく、ひと足早くフルモデルチェンジした現行アル/ヴェルと初めから並行して開発が進められた。中国のほかに挑戦する市場は、凱旋となる日本、そしてショーファーカーで長い歴史と伝統を誇る欧州である。
新型もGA-Kプラットフォームを核とする車両の基本コンポーネントは、アル/ヴェルと共用。しかし、開発陣に話を聞くと、今度はレクサスの名にし負う専用の設計・開発が、目に見えない部分にも随所に行われているのだ。
まず、エクステリアはすべてLM専用デザイン。グリル一体の「スピンドルボディ」をさらに進化させたフロントまわりは、じつに独創的で強烈な存在感を放つ。ボディ寸法はアル/ヴェルに対して3mのホイールベースをそのままに、ひとまわり拡大。全長は5mを超え、全幅は1.9m近い、完全なグローバルサイズだ。
コックピットもアル/ヴェルと同様の眺めだった先代から一新。ショーファーカーといえどもデザインはレクサスの「Tazuna Concept」に基づき、シンプルで運転に集中できる環境が整えられた。ドライビングポジションも抜かりなく、ステアリング位置が10mmドライバー寄りに見直されている。フロントドアには電子制御の「eラッチシステム」を採用。
シートは3列の6/7人乗り、2列の4人乗りを設定。今回披露されたのは、まず導入が予定されるLM500hの4人乗りだ。
●メーターフードとセンターのディスプレイが別体となるアルファード/ヴェルファイアに対し、LMはこれらを一体化。フロントドアにイージークローザーを組み合わせたeラッチシステムをレクサス車で初採用
知っているクルマの内装じゃない
VIPのための特別な室内空間は、初代LMのコンセプトを継承しながらすべてが大幅に進化している。2人用のリムジンシートは、アル/ヴェルのエグゼクティブラウンジシートを上まわるであろう超ビッグサイズ。座り心地も特に横方向がさらにゆったり感じられる。
●パーティションの上部中央には、乗員と周辺温度を検知する後席専用の「温熱感IRマトリクスセンサー」を設定。乗員の顔、胸、大腿、下腿の体の部位を4つに分け温熱感(温かさ/冷たさ)を推定することでエアコンやシートヒーターなどを一括コントロール
前席とは壁のようなパーティションで完全に仕切られ、48インチの大型ワイドディスプレイが目の前に広がる。雰囲気はさながら高級ホテルの一室やモダンなリビングだ。パーティション上部の小窓を閉めれば、エンジン音はまったくといっていいほど耳に届かず、逆にオンライン会議などの重要な会話が前席に漏れる心配もない。
リフレッシュシート(いわゆるマッサージ)やエアコンなどの装備は、アルヴェルよりさらに高機能。また、下降式サイドサンシェードや左右独立ムーンルーフなどの装備についても、LMではパワーウインドーやサイドサンシェードの開閉スイッチをコンソールに配置するといった違いも見られる。
●専用の独立シートは先代よりもオットマンの伸縮量を延長。レクサス車では初となるアームレストとオットマンにシートヒーターを採用。写真の内装色は、カッパーの差し色を効かせたソリスホワイト
●大型センターコンソールにはパーティションの昇降式スモークガラスとサイドシェードのスイッチ。タッチ式コントローラーのリヤマルチオペレーションパネルはアルファード/ヴェルファイアと同じく脱着可能
●パーティションの下部左右にはバッグなども入れられる大型の収納。扉の開閉はじつにスムーズだ。中央には冷蔵庫が備わる
速さを誇張しない制御
LM500hは2.4LターボのパラレルハイブリッドにeAxle(後輪を水冷式モーターで駆動する高出力型4WD)を搭載する。すでにRX500hやクラウン クロスオーバーRSで定評のあるパワートレーンだ。今回ショーファーを体験したのは富士スピードウェイの構内路1周だけだが、2.5トンはあるだろう車重をまるで感じさせない、発進から滑らかで力強いトルクの立ち上がりはさすが。
●パワートレーンは写真の2.4L直4ターボハイブリッドのeAxle(4WD)と2.5L直4ハイブリッド(FF/4WD)を設定。まずはターボハイブリッド車から導入を予定
一方、足まわりは、いわばAVS(減衰力可変サスペンション)とアル/ヴェルの周波数感応型ショックアブソーバーをドッキングした、周波数感応バルブ付きAVSをレクサスで初採用している。土台となるボディも、フロントにパフォーマンスブレースを備えるヴェルファイアをベースに、リヤまわりにもブレース類を追加。さらに、ホイールベース内の構造用接着剤は高剛性タイプと高減衰タイプの使い分けを高剛性タイプ主体(アル/ヴェルは半々)にするなど、じつに入念な剛性アップが図られているのだ。
その効果のほどは公道デビューしてからのお楽しみだが、チョイ乗りで感触が確かめられたのは、アルファード エグゼクティブラウンジ(2.5L HV)と、ヴェルファイア Zプレミア(2.4L ガソリンターボ)のいいトコ取りをしたような乗り心地。サスは走り出しから細かい振動や突き上げを伝えず、ボディはどっしりとフラット感が非常に高い。
加えて、ドライブモードセレクトには、後席の乗り心地を優先する「リヤコンフォート」モードをレクサス初採用。リヤサスの減衰力を若干下げるとともに、アクセルやブレーキの統合制御で加減速時の姿勢変化をより少なくするセッティングになる。リヤサスが路面に対してフレキシブルに追従しながらリヤまわりの姿勢を動かさないようにした、まさしく”大船に乗ったような”味わいは、同様のモードを設定するメルセデス・マイバッハS680をなんとなく思い起こさせた。
LM500hは日本に今秋導入予定。いずれは2.5L HVのLM350h(E-Four/FF)もラインアップに加わるだろう。セダンが中心の超高級ショーファーカーの景色をLMが変える日は、もうすぐだ。
〈文=戸田治宏 写真=山内潤也/トヨタ〉
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