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【新車で買える1937年式!?】アルヴィスに、日本で試乗してみた 新・旧4.3リッター・バンデン・プラ・ツアラー

掲載 更新 6
【新車で買える1937年式!?】アルヴィスに、日本で試乗してみた 新・旧4.3リッター・バンデン・プラ・ツアラー

英ALVIS コンティニュエーション・シリーズとは

text:Kazuhiro Nanyo(南陽一浩)

【画像】アルヴィス コンティニュエ―ション/ヘリテージ【比べる】 全28枚

photo:Masanobu Ikenohira(池之平昌信)

試乗会の案内をメールで見て、二度見した。アルヴィスとあったからだ。日本ではカーグラフィック誌の創刊編集長、故小林彰太郎氏が好んだ英国車として知られる、そんなエンスー物件だ。

1919年にコヴェントリーで創業したアルヴィスは、現存する自動車メーカーの中ではシトロエンと同い年で、戦前にスポーツカーやレーシングカーで評価を高めた頃はベントレーやロールスと同格とされた、英国の名門中の名門だ。

技術力の高さゆえ第二次大戦前から軍需産業にも着手したが、戦後は民生用の自動車部門は大量生産の波にのり切れず、1960年代にローバー、次いでブリティッシュ・レイランドに吸収された。

以降、アフターサービス供給は「レッド・トライアングル社」の名で継続されるも、アルヴィスの商標名は軍産部門と一緒にいくつもの軍需産業グループを渡り歩いていた。

10年ほど前、レッド・トライアングル社がブリティッシュ・エアロスペース社から自動車としてのアルヴィスの商標を買い戻すことに成功。

そこで、1937年に英国で150台分の製造認証が下りていながら戦争によって生産が中断していた77台分、つまりデッドストック状態だった当時のパーツと許可枠が用いられ、新たに「アルヴィス・コンティニュエーション・シリーズ」の名で、ロードカーとして世に送り出されたのだ。

それが今回の試乗に供された「4.3リッター・バンデン・プラ・ツアラー」で、日本でナンバー取得した第1号車だ。

じつに約60年ぶり 日本で新車登録されたアルヴィス

そんなアルヴィスがなぜ日本で? という理由は、輸入元の明治産業に帰せられる。

ブレーキや電装品など自動車部品の専門商社である同社は、1951年から63年にかけて「明治モータース」というアルヴィスの正規輸入元だった。

社長の竹内眞哉氏が創業85周年を機に、社史編纂を兼ねてアルヴィスに再コンタクトしたところ、コンティニュエーション・シリーズで再び輸入元をやらないかと誘われた。「自動車を扱う会社である以上、若い社員に“クルマって面白そうだな”と、興味をもってもらうのにいいと思った」

もちろんビジネスとはいえ、複数のヒストリックカーを楽しむエンスージャストでもある竹内社長の決断は、豪気というか心意気を感じさせる。

生憎、小雨の舞う袖ケ浦フォレストレースウェイだったが、現代の手で新たに組み上げられたコンティニュエーション・シリーズの1937年式とともに、数年前に竹内社長らがミッレミリアで走らせたオリジナルで同型の1937年式4.3Lバンデン・プラ・ツアラーも比較試乗のために用意されていた。

当時のコーチビルダーが消滅している以上、ボディは旧モデルのパネルを3Dスキャンからおこして、今のジ・アルヴィス・カー・カンパニー社内で当時と同じ工法で組まれた。

そのため新旧の区別は外観ではディスクブレーキぐらいで、むしろ組み上げ精度を鑑みればコンティニュエーション・シリーズの方が静的質感は上だろう。

たまたまクルマの空き順の都合で、まず旧い方の1937年式、ついでコンティニュエーション・シリーズに試乗することになった。

名にしおう戦前スーパーカー 驚くべき実力はどこに?

リアヒンジで天地の短いドアを開け、まずオリジナルの1937年式のシートに身体を預ける。

ツアラーの名の通り、後列シートをもつ4座の内装には薄いグレーのレザーが張られ、スポーティだが広々とした余裕をも感じさせる。

ステアリングホイール上には点火の進角調整レバーとチョークがあるが、ホットスタートである以上、いずれも不要。ダッシュボード中央のキースイッチで電源をONにすると、後ろから電磁ポンプのコッコッコという低くくぐもった音を、久しぶりに聞いた。

電源キーすぐ右のイグニッションボタンを押すとクランキングが始まり、ガスペダルを少し煽ると、4.3Lストレート6が目を覚ます。

正直、乗る前はケータハムやモーガン的な「プリミティブな楽しさ」を想像して高を括っていたので、総じて恐ろしく洗練されたフィールに舌を巻いた。

まず重たいとはいえ、発進時のクラッチ操作にコツらしいコツは要らない。

Hパターンの4速MTの感触こそ、固くて最初は難儀したが、ニュートラル位置から叩きこむのではなく、遊びのないゲートの入口をシフトレバーで探り当てた後、ゴリッと押し込むまたは引き込む、そうやってひと呼吸おく感覚に慣れると、じつは扱い易いトランスミッションであることに気づく。

元よりフルシンクロだがダブルクラッチを使うと素晴らしく素直に入ってくれる。大した剛性感だし、そもそもエンジンを楽しむのにシフトフィールの頼もしさは大前提であることを再認識させてくれた。

ビッグボアの直6 滑らかな回転フィールに違い

躾の行き届いたソリッドな感覚は、エンジンの回転フィールやシャシーの剛性感にも及ぶ。

ガスペダルを踏み込むと大きなボア特有の、ツブの揃った燃焼フィールが滑らかに、しかし太いトルクを発しながら、レブカウンターの針が力強く昇りつめていく。

3500rpmまでのグライド感はクルーズ向きだが、そこを越えるとエグゾーストノートは一段と、唸りのピッチとトーンを上げて野性味を増す。お手本のようなストレート6だ。

3m超えのホイールベースにウォームローラーの細身ステアリングは、確かにタイトベンドでは重労働で、右周りの袖ケ浦ゆえ翌々日、左上半身だけが筋肉痛になった。

だが戦前車とはいえ高性能なエンジンから絞り出される、経験したことのないスピード感は、まさしくスーパーカーだ。

このオリジナルのフィールが身体に染みついている内に、2020年メイドの1937年式4.3Lバンデン・プラ・ツアラーに乗り替えた。ドアハンドルを握った瞬間、そのエッジの立ち具合からして新しいクルマだ。

今の法規制に対応する以上、3連SUキャブに代わってインジェクション採用し、進角調整もチョークレバーも見当たらないが、電源キーを捻ってイグニッションを押すエンジンスタートの儀式は同様だ。

トランスミッションもトレメック社製の6速MTで、シフトレバーの遊びの無さや剛性感ではオリジナルと比べるべくもないものの、ずっと現代的なシフトフィールゆえ、戸惑いはない。

オリジナルよりスパイスの効いたコンティニュエーション

80年以上の時を隔てて組まれた同じ4.3Lの直6を、4速が直結となるクロスレシオかつオーバードライブ付きのトランスミッションで操るのは、まったく質の異なる刺激だった。

吹け上がりが軽くてアクセルに対するレスポンスも一段鋭い。その分、シフト操作も忙しくなるが、峠道など公道ではコンティニュエーション・シリーズの方が勾配やコーナーのRに対してヴァーサティル、つまり乗り易いだろう。

ラック&ピニオン式に改められたステアリングのフィールもより鮮明で、細身のタイヤがたわんでからノーズが素直にインに入っていく感覚が、明確に腰に伝わってくる。4900×1700×1360mmに、3135mmという超ロングホイールベースのジオメトリーも、現代のクルマに乗り慣れた身に大きな違和感はない。

そもそもこのサイズ感で1620kgという車重は、戦前なら重量級パフォーマンスカーでも、今やご馳走といえる軽さなのだ。

制動タッチについても、こちらはサーボアシスト付きディスクブレーキだが、ある程度ブレーキペダルをストロークさせないと効かないのは旧モデルと同じで、制動力自体に差があるとは感じられなかった。惜しむらくはABCペダルの配置で、ブレーキに対しアクセルが奧にあり過ぎてヒール&トゥができないこと、あとカマボコ型のクラッチペダルが雨に濡れた靴底には滑りやすく、土踏まずで踏みとどまったことが何度かあった。

とはいえ、それらは調整の範囲だろうし、新車として1937年式のクルマを操れる喜びは何物にも代え難い。

非・大量生産品の1台が、今の大量生産車と決定的に違うこと

今回、オリジナルとコンティニュエーション・シリーズ双方の4.3リッター・バンデン・プラ・ツアラーに接してつくづく感じたのは、アルヴィスというクルマが、戦後の大量生産カルチャー、つまりコストカットによる効率化と現地生産主義で売られてきたクルマとは、峻別されるべき工業製品である事実だ。

だから英国渡しで約5300万円という価格は、決して高過ぎるものでもない。

元々、アルヴィスはローリングシャシーのみのメーカーで、ボディはコーチビルダーで別に誂えて架装するものだった。1940年で時を止めた工場から蘇った2020年型のコンティニュエーション・シリーズは、いわば沈没船から発見されたシャンパーニュとかロシアン・カーフに似るが、その価値は希少品としてのそれだけではない。

2020年型はクラシックカー・イベントなどの出場資格は得られないかもしれないし、投機的な価値も生みにくいだろうが、クルマというものが使っているうちに償却して無価値になる耐久消費財のフリをした「消えモノ」ではなく、買ったら一生直しながら使うモノだった時代の、エッセンシャルな造りの良さを宿している。

ちなみに試乗を終えて迎えた週末、英国でエリザベス女王の孫、チャールズ皇太子の姪にあたるベアトリス王女が、女王の1960年代のドレスをウェディングドレスに直して、結婚式で着用したという報があった。

何でも女王が映画「アラビアのロレンス」の試写会で着用した代物だったとか。誂えで作ったものは、そう、元より使い捨てるものではないのだ。

それに、キャブレター調整その他の軽作業などメカニックの手を経ずとも、戦前の英国メイドの重厚さと精密さを気軽に味わえる。要はお独りさまで遊べる人には、上手く使えば一生の玩具になる。

コンティニュエーション・シリーズは今後、別の3L直6を加え、他に6種類の車種が展開される予定だ。歴代のオールド・アルヴィスをも並べたショールームが品川区港南にオープンしているので、足を運んでみて欲しい。

コンティニュエーション・カー 試乗車スペック

アルヴィス4.3Lバンデン・プラ・ツアラー(コンティニュエーション・シリーズ)

参考価格:5274万5000円(英国港渡し:1ポンド=137円)
全長:4900mm
全幅:1700mm
全高:1360mm(1500mm)
最高速度:180km/h以上
0-100km/h加速:-
燃費:-
CO2排出量:-
車両重量:1620kg(1840kg)
パワートレイン:直列6気筒4387cc
使用燃料:ガソリン
最高出力:160ps/3600rpm
ギアボックス:6速マニュアル
乗車定員:4名

ヘリテージ・カー 試乗車スペック

アルヴィス4.3Lバンデン・プラ・ツアラー(ヘリテージ)

全長:4900mm
全幅:1700mm
全高:1350mm(1500mm)
最高速度:160km/h以上
0-100km/h加速:-
燃費:-
CO2排出量:-
車両重量:1620kg(1840kg)
パワートレイン:直列6気筒4387cc
使用燃料:ガソリン
最高出力:137ps/3600rpm
ギアボックス:4速マニュアル
乗車定員:4名

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みんなのコメント

6件
  • 富山の主婦にとっては、親しみやすいクルマだ。
  • 品川333じゃ無く、
    3のみ表記のナンバーなら更にイイ感じ♪
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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