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テレビ映えしなかったF1ヨーロッパGP。現地で感じたふたつの驚き【サム・コリンズの忘れられない1戦】

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テレビ映えしなかったF1ヨーロッパGP。現地で感じたふたつの驚き【サム・コリンズの忘れられない1戦】

 スーパーGTを戦うJAF-GT見たさに来日してしまうほどのレース好きで数多くのレースを取材しているイギリス人モータースポーツジャーナリストのサム・コリンズが、その取材活動のなかで記憶に残ったレースを当時の思い出とともに振り返ります。

 今回は2012年にバレンシア市街地コースで開催されたF1ヨーロッパGP。テレビ中継を見る限り、バレンシア市街地コースはまったく魅力的に感じられなかったというコリンズですが……。

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 テレビ中継を見る限り、バレンシアの市街地コースはひどい場所に思えた。私は多くの人から、F1はなぜあんなところでレースを開催するのかと問われたが、彼らを納得させられる回答をすることはできなかった。映像を見る限り、特徴のないコンクリートの壁に囲まれた波止場を巡る無機質なコースに思えて仕方がなかった。

 ここは取材に行ってもまったく興奮することのない場所だと思っていた。もっとストレートに表現すれば単純に行きたくなかったので、ヨーロッパGPが初開催された2008年から最初の数年間は取材に行くことはなかった。

 2008年に初めてF1カレンダーに登場したヨーロッパGPは、8月24日決勝というスケジュールが割り当てられた。8月後半という日程は、私も含めヨーロッパのほとんどが夏休みを取っているタイミングだ。これも足が遠のく要因だった。

 その数年後ヨーロッパGPの日程は6月の終わり、イギリスGP前というタイミングに変更されたため、さらにヨーロッパGPに行きたくない理由が増えた。数週間待てば、自宅からクルマで45分しか離れていないシルバーストンでF1取材ができるというのに、わざわざバレンシアまで飛ぶ必要性はない。

 しかし、ジャーナリスト仲間の多くは私がバレンシアに抱いている印象が間違っていると指摘してきた。彼らはバレンシアが最高の場所であると言い、何年もの間、私に現地へ行くよう勧めてきた。

 私はジャーナリスト仲間による“勧誘”を受けても興味を一切持たなかったのだが2012年シーズン、私はヨーロッパGPに行かなければならない状況に追い込まれた。当時担当していたある記事のためにインタビューをしなければならず、その締切の関係からイギリスGP前にインタビューを実施する必要があったのだ。

 こうしてヨーロッパGPに向かうことになった私は、イギリスを発つ前にバレンシアの地図を見た。すると、街のどこからでもコースに非常に簡単にアクセスできそうなことに気がついた。パドックのほぼ入り口近くに路面電車の駅があったのだ。

 バレンシアに到着した私は空港から直接ホテルに向かった。ホテルはコースからかなり距離があったが、素晴らしいホテルだったし、毎朝路面電車に乗ることは気にならなかった。

 そのホテルに向かう道中、私はふたつのことに気がついた。ひとつは街全体が閑散としているということ。もうひとつはヨーロッパGPがスペインの有名なお祭りである“サン・フアンの日(聖ヨハネの前夜祭)”の最中に開催されているということだ。

 翌朝、私はまず取材用のパスを受け取るためにあるオフィスへ向かった。このオフィスはバレンシア市街地コースから何マイルも離れていた上、街を走る路面電車のどの路線からも離れた場所にあったため、長いこと歩かざるを得なかった。

■テレビの印象と異なるバレンシア

 パスを受け取るオフィスへの道順がはっきりしていなかったので少々不安に感じたが、長く歩いたことで街の様子を観察することができた。

 街を歩いて感じたのは、バレンシアがとても素晴らしい場所だということ。仕事ではなく、今度は休暇のために訪れたいと思うほどだった。街の光景はF1中継で見たコンクリート造りのコースとは似ても似つかなかったのだ。

 ただ週末にはF1ヨーロッパGPが開催され、またサン・ファンの日も近いというのに、街が閑散としているという感覚はつきまとったままだった。オフィスへ向かう道中、人を見かけることはほとんどなかった。

 F1の取材に訪れると、サーキットにほど近い街では必ずF1に関連するものを目にする。いたるところにF1開催を告知するポスターが貼られているし、F1をイメージした装飾が施された店を見かけることもある。なにより観戦に訪れたファンがお気に入りのチームウェアを着て歩いているものだ。

 しかし、バレンシアは違った。もし私がF1取材のために訪れていなければ、週末にF1が開催されるなどと思いもしなかっただろう。それくらいバレンシアの街にF1を思わせる要素がまったくなかったのだ。

 この状況はコースに近づいても変わらなかった。パドックエリアにつながる橋から一番近いカフェですら、普段と変わらない様子だった。

 バレンシアの街に驚かされた私は、F1で使われるコースにも驚かされた。しかし、こちらはいい意味での驚きだ。

 パドックとコースの広大なセクションはマリーナ・エリアに位置していた。ここは2007年と2010年に、ボートレースのアメリカズカップ開催のために大規模な開発が行われたのだが、そのほかの行事に使われることはほぼない様子だった。実際にパドックのほとんどはピットガレージも含めて、1914年ごろに建てられた古くも美しい産業ビルのなかに設営されていた。

 またコース自体も私が想像していたようなコンクリート造りの場所ではなかった。現在にいたるまで、私はなぜF1ヨーロッパGPがあれほどテレビ映りが悪かったのか理解できない。実際に訪れたバレンシアは本当に魅力的な場所だったから、なおさらだ。

 ふたつの驚きを味わった私はF1開幕直前の木曜日にいくつかインタビューをこなし、コースの雰囲気を味わった。メディアセンターは古びていたが、ウォーターフロントにあり、そこからほど近い波止場エリアでは、私が好きなブランドのアイスクリームが無料で配られていた。海を眺めながら太陽の光を浴び、アイスクリームを堪能するのは気持ちよく、バレンシアは想像していたほど悪くない場所だと思い始めていた。

 そして、この日の仕事を終えようとしたころ、ジャーナリスト仲間のひとりがビーチに行って何か食べるものを探そうと提案してきた。私はコースのすぐ近くにビーチがあることさえ知らなかったが、F1マシンが駆け抜けるコースのすぐ近くに広大で素晴らしいビーチが広がっていたのだ。

 しかし、そんな素晴らしいビーチや現代的な建物と1世紀以上前からある美しい建物が入り交じる光景がF1中継で放送されることはなかった。残念ながら、今後もその機会は訪れないだろう。

 とにかく私はたった1日でバレンシア市街地コースに対する印象を改めた。そして何年も足を運んでこなかったことを後悔しつつ、ビーチでおいしい食事に舌鼓を打ち、ホテルに戻ったのだった。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 

サム・コリンズ(Sam Collins)
F1のほかWEC世界耐久選手権、GTカーレース、学生フォーミュラなど、幅広いジャンルをカバーするイギリス出身のモータースポーツジャーナリスト。スーパーGTや全日本スーパーフォーミュラ選手権の情報にも精通しており、英語圏向け放送の解説を務めることも。近年はジャーナリストを務めるかたわら、政界にも進出している。

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