可搬式オービスはLSM-300からLSM-310へ
すでにあちこちでさんざん書いてきたとおり、東京航空計器(TKK)の可搬式オービスLSM-300はどうやら使い物にならないようだ。そう推認せざるををない理由がいくつもある。TKKは1976年以来、ループコイル式オービスの老舗だ。急ごしらえというべきスキャンレーザー方式(以下、レーザー式)が失敗だったのか。2020年になってショッキングなことが次々とあり、警察庁はもうLSM-300に見切りをつけたかに思われた。
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ところが! 警察庁内のTKK推しの一派は引き下がらなかったんだねぇ、LSM-310を発売した。なんだそれ? 今回、情報公開条例により大阪府警から、LSM-310の契約書等を開示請求した。開示された大量の文書からその内容を一部紹介しよう。まず、以下は契約書の鑑(かがみ)だ。
LSM-310の契約書として開示された鑑(1ページ目)には、2式で2274万8000円とある。1式当たり1137万4000円。LSM-300はだいたい1000万円なので、ちょっと高い。
LSM-310は、どこがどう進化したのか?
LSM-300と明らかに違う点が2つある。1つは、本体部は同じ縦長直方体なんだけども、LSM-310は上下に2分割できるのだ。発光部と、測定&撮影部と、バラで運び、現場で合体させる。撤収時は2分割する、運搬が断然便利になった。
もう1つ、白黒ではなくカラーの写真を撮れるようになった。ちなみに、可搬式オービスについてTKKとライバル関係にあるSGG(スウェーデンを本社とする世界的企業、Sensys Gatso Group)は、最初からカラー写真だ。
今回の開示では面白いことがあった。以下は仕様書の1ページ目だ。「3 性能」の「(1)速度計測」の「イ 速度計測範囲」が墨塗りになっている。
私は他のオービスについても開示請求してきたが、この部分はみんな墨塗り、不開示だった。開示すれば違反者を利することになるからだという。しかし私は著書などで速度計測範囲の上限を書いてきた。TKKのオービスIIILh(フィルム式)は199km/h、オービスIIILk(画像伝送式)は240km/h、三菱電機の高速走行抑止システム、RS-2000は220km/hなどと。それらは、オービスの裁判だけで400件ほどを傍聴するなかでわかったことだ。
なのに、LSM-310の速度計測範囲は、2020年10月ごろからか、ネットで知れわたっている。LSM-310のパンフレットというかチラシというか、A4サイズでカラーの1枚ものが出回っており、そこに「40~220km/h」とばっちりあるのだ。誰かが守秘義務に違反して流出させたのか。ものすごくマニアックに妄想するなら、じつはLSM-300の上限速度はかなり低く、LSM-310は上限220km/hになったので、TKKの誰かが誇らしく出しちゃた、とか? ちなみにSGGの可搬式オービスの上限は300km/hだ。これも裁判傍聴からわかったことだ。
LSM-310は、ホントに使えるのか?
そんなことより何より、いちばんの問題は、LSM-310は“使える”のか、そこである。もしも、2分割とかカラー写真とかを超えて、レーザー式の測定部が大改良されたなら、警察は当然、どんどん取り締まるだろう。そしてテレビのコメンテーターにこう言わせるだろう。
「神出鬼没な可搬式オービスが通学路、生活道路でびしびし取り締まるもんだから、事故が減ってるそうで、素晴らしいです。ところがですよ、オービスは違反者を呼び出して出頭させて違反切符を切るんですね(めくり式のフリップで説明)。ただでさえ手間がかかるうえ、ゴネて出頭しない奴もいて警察の負担は大きいって、泣いてましたよ。駐車違反と同じように、違反車両の持ち主からさくっと違反金を徴収する、そういう制度にしたらどうなんですか」
あるいは、LSM-300と同様、LSM-310もまた使い物にならず、「見せる取り締まりで速度抑止を」と言い出すのか。いったいどうなるのか、私はほんとにドキドキする。
〈文=今井亮一〉
交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から裁判傍聴にも熱中。2009年12月からメルマガ「今井亮一の裁判傍聴バカ一代(いちだい)」を発行。
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