アストンマーティンのフラグシップ「DBS」に小川フミオが試乗した。まもなく公開される映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』にも登場するフラグシップモデルの魅力とは?
V12はやっぱりイイ!
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2021年秋、いよいよ、007シリーズ最新作の『ノー・タイム・トゥ・ダイ』が日本公開される。そこで活躍するのが、ボンドシリーズ第3作「ゴールドフィンガー」(1964年)に登場していらい、ボンド・カーとして常に話題を振りまいてきたアストンマーティンだ。
同社の日本法人では、映画の公開にあわせて、ボディ側面に大きく“007”とロゴを入れたDBSを用意した。SUVの「DBX」のセールスが好調ながら、アストンマーティンの本籍地は、このあと発売される「ヴァルキリー」「ヴァルハラ」それに、新型「ヴァンクイッシュ」などの心躍るスポーツカーにある。『ノー・タイム・トゥ・ダイ』の劇中にはDBSスーパーレッジェーラも登場している。
そのDBSに関する最新のニュースは、車名から「スーパーレッジェーラ」のサブネームが落とされたこと。シンプルにDBS、とすっきりした。
DBSは魅力が多い。ひとつはパワー。アストンマーティン史上最高出力を謳う533kW(725ps)を誇る5204ccV型12気筒ガソリンツインターボ・エンジン搭載で、8ATを介して後輪を駆動する。
アストンマーティンは、いまも12気筒を作っている数すくないメーカーである。AMGから移ってきた現CEOのトビアス・ムアーズ氏は、「生産はすぐにはやめません。おそらくもう1世代作って、それが最後になるかもしれない」と、2021年4月にジャーナリストを招待してのオンラインでのラウンドテーブル(少人数の記者会見)でそう語っていたのを、私もよく記憶している。
ドライバーは後車軸の真上に座るような、英国のスポーツカーの伝統ともいえるレイアウトで、12気筒エンジンがまわるときの心地よい振動とサウンドがコクピットに伝わってくる。これが大きな魅力だ。久しぶりに12気筒独特の太いトルク感を味わえたのもうれしかった。
かつ、このエンジン、じつに軽やかに回転を上げる。そのいっぽうで、低い回転域から大きなトルクで車体を押しだしていき、そしてあっというまに、空と飛ぶような加速感を堪能させてくれる。
ドライブモードセレクターがステアリングホイールまわりに搭載されていて、親指で「GT」「スポーツ」そして「スポーツプラス」を選択できる。市街地でより強い刺激が欲しいときはシフトアップのタイミングを少し遅くして高めのエンジン回転域を使う「スポーツ」がいいだろう。
なにより、8段オートマチック変速機を、マニュアルシフトで操作するのが、このクルマのもっともおいしいところを味わえる方法だ。4000rpmから5000rpmの少し上までエンジン回転を上げて走ると、気分は最高だ。レスポンスの速さといい、トルクの出かたといい、ドライバーの感覚にばっちり合っている。V12最高! と、あらためて感じ入った次第。乗れたのは、ボンドのおかげともいえる。
(こっそり)自分のものにしたくなった
さらにDBSには審美性という大きな魅力がそなわっている。低く構えたプロポーションにくわえて、巨大ともいえるフロントのグリルとエアインテークが、“獰猛”と形容したくなる印象を与える。いっぽう側面をみると、抑揚のついたボディのラインは力強さとともに、官能性を感じさせる。
21インチのリム径を持つロードホイールと組み合わされた扁平率の低いタイヤの力強い存在感は大きいものの、前後にのびやかな雰囲気がエレガントに思える。上手なデザインだ。
車名にある“DB”はアストンマーティンのラインナップにあって、2プラス2の座席レイアウトを意味する。ホイールベースは2805mmと、意外なほど長く、快適性が追求されている。おかげで、長距離も難なくカバーするツアラーとしてのキャラクターも、DBSの大きな特徴なのだ。実際に乗り心地も快適である。
アストンマーティンは、「Q」と呼ぶ、特別架装部門を本社内に持っている。内外装をはじめ、顧客の注文に合わせて車両を仕上げるビスポーク担当の部署だ。それもオーナーから好評を得ている。
DBSでも、2020年にQが担当した『ノー・タイム・トゥ・ダイ』公開記念モデルが設定されたのは記憶に新しい。特別な車体色をはじめ、映画のボンドカーに採用されていた様々な武器やデバイス(ロケット・モーター、ミサイル、レーザー、ターゲット・ディスプレイ、スキー・アウトリガー)を操作するためのスイッチを模してレーザー刻印されたガジェット・プレートなど、独特の遊び心で仕上げられた限定車だ。
そういえば、『ゴールドフィンガー』に使われたアストンマーティンDB5(シャシー番号DP/216/1)は、1997年に米フロリダ州の個人の航空機格納庫に収まっていたのが盗難に遭い、いまだに見つかっていない。もし市場に出てくれば、価格は2500万ドル(約25億円)だとか。
アストンマーティンには、ひとを惹きつける魔力がある。
盗難に遭ったオーナーには気の毒であるものの、それがよくわかるエピソードだと思ってしまう。3500万円超のDBSに乗って、私もこのクルマを(こっそり)自分のものにしたくなった。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.)
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