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ノリスとフェルスタッペンのスピードセンスの競演。来季新人の積極起用と繊細さ【中野信治のF1分析/第15戦】

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ノリスとフェルスタッペンのスピードセンスの競演。来季新人の積極起用と繊細さ【中野信治のF1分析/第15戦】

 ザントフォールト・サーキットを舞台に行われた2024年第15戦オランダGPは、ランド・ノリス(マクラーレン)が2位のマックス・フェルスタッペン(レッドブル)に22.896秒もの大差を築く独走のポール・トゥ・ウインで今季2勝目を飾りました。

 今回はノリスとフェルスタッペンの攻防、ローガン・サージェントに代わりウイリアムズからF1デビューを果たすフランコ・コラピントについてなど、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で綴ります。

ウイリアムズF1、イタリアGPよりフランコ・コラピントを起用。サージェントに代わり最終戦まで

  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 フェルスタッペンの母国グランプリであるオランダGPでしたが、今年の主役はフェルスタッペンではなくノリスでした。1周あたり70秒ほどと短いザントフォールト・サーキットで、ノリスは予選でフェルスタッペンに0.356秒差という圧倒的なギャップを築いてポールポジションを獲得しました。低速コーナーでもよく曲がるマクラーレンMCL38のバランスの良さを最大限に活かした走りでした。

 また、ザントフォールト・サーキットにはマクラーレンにとって少しナーバスな動きが出てしまう超高速コーナーがなかったこともあり、マクラーレンの弱点が出にくく、強みが際立つサーキットレイアウトだったことも、その圧倒ぶりを支えたとは思います。

 ただ、なんと言ってもオランダGPでのノリスの走りは素晴らしいものでした。特に予選ではノリスの持つスピード感覚が遺憾なく発揮されていたように思います。同時に、地元戦を迎えたフェルスタッペンもひとつのミスもなく100パーセントの力を出し切っていました。スピードセンスの近しいふたりが力を出し切った上での0.356秒差は、マクラーレンとレッドブルのクルマの差であると私は感じています。

 決勝のスタートではポールスタートのノリスがわずかに出遅れ、フェルスタッペンがターン1のホールショットを奪いました。ローンチ(スタートの動き出しの制御)に関してはドライバーよりもシステム側でコントロールする部分が多くを占めていることもあり、ポジションダウンはノリスのミスとは言い切れません。チームメイトのオスカー・ピアストリ(マクラーレン)もスタートでひとつポジションを落としていることを見るに、オランダGPではマクラーレンのローンチ設定がベストな働きをしてくれなかったように感じました。

 母国4連勝を狙うフェルスタッペンはスタートでトップに浮上すると、早めにノリスがDRSを使用できなくなる1秒以上のギャップを築こうとしてプッシュしていました。ただ、プッシュを続けてもノリスはなかなか1秒前後から離れず、『これはやばいな』というふうに感じたのではないかと思います。

 逆にノリスの立場からすると、スタートでフェルスタッペンに前に出られたらプッシュされることは想定していたでしょう。フェルスタッペンを追いつつレースペースを確認することになりましたが、ノリスが『これは抜き返せる』といった手応えを抱くまではそこまでの時間は要しなかったはずです。

 実際にフェルスタッペンにタイヤのデグラデーション(性能劣化)の影響が出始めた18周目、ノリスがターン1で容易くフェルスタッペンをオーバーテイクし、ラップリーダーの座を手にしました。

 さらに、レッドブルのクルマはもともとアンダーステア傾向のため、コーナリング時にはかなりステアリングを切って舵角も大きく、フェルスタッペンはそこから何度も切り足すようなステアリング捌きで曲がらないクルマを必死に曲げようと努力していたと思います。

 結果的に、フェルスタッペンは逃げにかかろうとプッシュし、クルマを必死に曲げようとしたことでタイヤをかなり酷使してしまい、ノリスの独走体制構築に繋がったというふうに見えました。

 ノリス独走の一方で、3番グリッドスタートのピアストリはスタートで4番手に後退すると、ファーストスティントを33周まで引っ張る作戦に出ました。セカンドスティントでフレッシュタイヤを活かし順位を上げるという戦略は決して悪くはないものでした。

 ただ、マクラーレンとピアストリの想定以上にシャルル・ルクレール(フェラーリ)がいい走りを見せたことで、ピアストリは4位という結果に終わりました。もし、セカンドスティントでピアストリがルクレールを早めに攻略できていれば、2番手のフェルスタッペンに迫ることができたとは思います。

 オランダGPを終えて、レッドブルとマクラーレンのコンストラクターズポイント差は30点まで縮まり、レッドブルにとってはかなり危うい状況となりました。セルジオ・ペレス(レッドブル)もオランダGPでは決してパフォーマンスも悪くはなかったとは思います。それだけに、レッドブルはシーズン終盤に向けて、マシンパフォーマンスを全体的に上げていかなければいけないでしょう。マクラーレンはすでにレッドブルを射程に捉えていますからね。

■若手のステップアップはF1ドライバーの新陳代謝を活性化させる

 オランダGPの前に、アルピーヌが来季ジャック・ドゥーハンを起用すると発表しました。2023年FIA F2の走りなどを振り返ると、ドゥーハンはメンタルが強く、アグレッシブかつマシンコントロールの上手いドライバーだという印象です。

 一方で私は、ドライビングの繊細さという部分はどうなのかという部分は気になります。というのも、オランダGPを最後にウイリアムズのレギュラーシートから離れたローガン・サージェントも、FIA F2時代にはアグレッシブな走りを見せる勢いのあるドライバーでした。ただサージェントの場合、F1昇格後はアグレッシブすぎるところが目立ち、繊細さに欠けていたという印象を抱きました。

 F1はアグレッシブな走りだけではなく、見えない部分での繊細さが非常に重要です。繊細さに関して確固たる土台があった上でのアグレッシブさが求められるのがF1ですから、F1昇格を果たすドゥーハンがどのような走りを見せるのかは非常に楽しみです。

 また、今週末のイタリアGPから最終戦アブダビGPまでの9戦で、ウイリアムズはサージェントに代わり、フランコ・コラピントを起用すると発表しました。この起用にはメルセデスとの関係や政治的影響も多々あるなか、自チームの育成ドライバーであるコラピントを乗せるしか選択肢がなかったのではないかと私は思いますが、それでもコラピントにとっては大きなチャンスです。

 ウイリアムズは来季アレクサンダー・アルボンとカルロス・サインツというラインアップがすでに決まってはいるとはいえ、この9戦でコラピントがいいパフォーマンスを発揮することができれば、FIA F2ドライバーたちにとっても非常にポジティブな影響を与えると感じます。

 来季はハースから参戦するオリバー・ベアマン、そして先述のドゥーハンと、新人ドライバーが複数名F1にレギュラー参戦します。若手のステップアップはF1ドライバーの新陳代謝を活性化させ、F1を目指す若いドライバーたちのモチベーション向上にも繋がりますし、F1チームの価値観の変化にも繋がるでしょう。

 そんな、F1での積極的な若手起用の流れを作ったのはマクラーレンです。今年のレースを見てもわかるとおり、ノリス、ピアストリという20代前半のコンビでコンストラクターズタイトルを狙える位置につけています。私はこの若手の積極的な起用の流れが今後のF1の主流になってくると考えています。

 また、イタリアGPでは常々F1昇格の噂が流れるアンドレア・キミ・アントネッリがフリー走行1回目に出走し、母国イタリア人ファンの前でF1公式セッションデビューを果たします。FIA F3を経験せずに参戦したFIA F2で2勝を飾ったアントネッリの今後の動向も楽しみですし、アントネッリは『若手は時間をかけて育成しないといけない』と言われてきた既存の考えや価値観、そして流れを一転させる活躍をジュニアカテゴリーで見せてくれています。

 もし、今後アントネッリがF1のレギュラーシートを掴み、F1でも結果を残すことができれば、育成に時間を要せずに結果を出すことができるというわかりやすい一例になるかもしれません。アントネッリの動向、そして来季メルセデスでジョージ・ラッセルのシートを得るドライバーは誰なのかという点には引き続き注目したいと思います。

 さて、今週末のイタリアGPが開催されるモンツァ・サーキットは久しぶりの大改修が行われ、ターン1~2のシケイン(バリアンテ・レティフィーロ)のレイアウトも変更されました。とはいえ、依然として超高速サーキットであり全開率も高いというモンツァの特徴には変わりはありません。

 ダウンフォースの少ない状態で縁石を積極的に使うことが求められるため、セットアップによるクルマの特性、いい部分と悪い部分の出方が他のサーキットと大きく異なることも特徴です。これがどのチームの後押しとなるのかも楽しみですね。

 これまでストレートがあまり速くはなかったマクラーレンがモンツァでもオランダGP同様の速さを見せることができたら、シーズン終盤戦に向けて、もはや敵なしという状況となるでしょう。ストレートスピードに秀でるレッドブルにとってはここで優位性を取り戻すことができるのか、そして個人的には、同じく低ダウンフォースのベルギーGPで他を圧倒したメルセデスが、同じく低ダウンフォースのモンツァでどのような戦いを見せるか、再び他を圧倒しマクラーレンを先行することができるのかという点にも注目したいと思います。

【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)のバイスプリンシパル(副校長)として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24

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