NTTインディカー・シリーズ第3戦ロングビーチで優勝したのはアンドレッティ・オートスポートから出場するカイル・カークウッドだった。彼の乗るのはオートネーションがメインスポンサーのカーナンバー27。鮮やかなピンク&ホワイトのカラーリングが施されたホンダエンジン搭載マシンだ。
カークウッドはフロリダ出身の24歳。インディカーにデビューして2年目、キャリア20戦目という早さで初優勝に到達した。
各チーム基本セッティングを進めたインディカーIMSテスト。2日目は悪天候で中止となり「もっと走りたかった」と琢磨
カークウッドは生まれも育ちもフロリダ州のジュピター。トランプ元大統領の住むマー・ア・ラーゴがあるパーム・ビーチのすぐ北で、マイアミからでも80マイルほどの距離にある海辺の街だ。近頃だとタイガー・ウッズをはじめとするプロゴルファーが多く住む街として有名になっている。
カークウッドはマリンスポーツに親しみながら育ち、レースの世界でのプロを目指した。レーシングカートで才能を見せた彼は16歳でフォーミュラカー・レースへのチャレンジを開始。
その後はステップアップ・カテゴリーひとつひとつで勝利とタイトル獲得を重ね、インディカーシリーズへと続くラダー・システム=“ロード・トゥ・インディ”の3カテゴリーすべて(=USF2000、インディ・プロ2000、インディライツ)でチャンピオンとなってインディカーへと辿り着く最初のドライバーとなった。
USF2000制覇が2018年で、インディ・プロ2000でのタイトル獲得は2019年。2020年はCOVID-19パンデミックで出場を予定していたインディライツシリーズが開催されず1シーズンをロスすることとなったが、IMSAシリーズのGTDクラスにレクサスワークスから出場するなどしてスキル維持に努め、2021年にインディライツが再開されるとデイヴィッド・マルーカスとのバトルを制してチャンピオンとなった。
マルーカスは父親の経営するチームがデイル・コイン・レーシングと提携したことでチーム内でインディカーへと進出できたが、カークウッドはインディライツタイトルを獲ったアンドレッティ・オートスポートでのステップアップができなかった。
インディライツでほとんど実績を残していないデブリン・デフランチェスコが多額の持参金によってアンドレッティのシートを手にしたというのに……。
しかし、カークウッドの才能を見込んでAJ・フォイト・エンタープライゼスが彼をフルシーズンで起用することになった。
お世辞にもパフォーマンスが良いとは言えないAJ・フォイトのチームから出場しながら、カークウッドはマシンよりもドライバーの能力の占めるウェイトの高いストリートレースで才能を発揮した。
開幕戦セント・ピーターズバーグ、第3戦ロングビーチでの予選でオーワードやディクソンがQ1での敗退をする中、予選12位に食い込んだ。デビューイヤーの予選最上位はテクニカルなミド・オハイオのロードコースにおける9位。決勝での最高位フィニッシュはポートランドの13位。
リザルトだけで評価するなら決して良いシーズンを送れたとは言えないが、ルーキーイヤーだというのにチームメイトはデータのシェアなどで共闘を期待できる経験も才能も持たないドライバーと参戦体制が非常に厳しいものだったため、それも仕方がなかった。
ただし、ルーキーでありながらチームが優先的に力を注いでくれるポジションにあったことは、カークウッドにとって救いだった。
2023年シーズンを終えるとアンドレッティ・オートスポートからアレクサンダー・ロッシがアロウ・マクラーレンへと移籍。カーナンバー27に空きができ、カークウッドはそこに収まることになった。馴染みのあるアンドレッティのチームへと復帰が叶った。
海辺の街で育ったカークウッドは、今でもサーフィンや釣りを趣味として、ゴルフも嗜む。オンとオフを上手に切り替えながら、彼はアメリカ最高峰オープンホイールシリーズでも頂点を目指している。
パンデミックで参戦する予定だったインディライツが1年休止され、インディカーへとステップアップした最初の年は戦闘力の高くないチームからの参戦と、カークウッドのキャリアは遠回りをしているようにも見えるが、アンドレッティ復帰のタイミングはベストかもしれない。
ここ数年はパフォーマンスの低下傾向が見られていた元祖マルチカーチームだったが、ライアン・ハンター-レイやロッシが去ってチームの主力がコルトン・ハータやロマン・グロージャンにシフト。カークウッドの加入で世代交代はさらに進む。
さらに、F1グランプリへの参戦計画を発表し、スポーツカーシリーズへの復活も果たすなどしてチームの組織全体が活気づき、インディカーのチームも2023年シーズンに向けてプログラムの再構築を行うと、すぐさま様々な面でレベルアップが実現された。
開幕前のテストからスピードを見せた彼らは、シーズン開始直後から優勝やタイトルを争う輪の中に入って行く勢いを見せている。
カークウッドはそんなチームで走り出し、わずか3戦目にしてインディカー初優勝。ピットで作戦を担当するのが経験豊富なブライアン・ハータとされるなど、才能を認められ、活躍を期待されている彼にはスタッフによるサポートも手厚いものが用意されている。
カークウッドはこれから更に力を伸ばし、ハータとアメリカ人ドライバーによる二枚看板となり、チームとシリーズを引っ張って行くべき存在なのだ。
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