空前の旧車ブーム。人気車ともなれば新車当時価格の数倍は当たり前…。中古車検索サイトをのぞいていると、「え、こんなに高いの!?」と驚くことばかりだ。
そんななか、もはや一般的になった個人売買。仲介マージンもないし、車両受け渡しのときに相手の顔も見えるから安心…と思う人も多いだろうか。それが結構ヤバいことも起きているのだ。
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今回は、誌面上に個人売買欄を掲載している旧車専門誌「オールドタイマー」(八重洲出版)編集部に個人売買でよくあるトラブルの傾向と対策を聞いた。
「何よりも、トラブルの例を知っておくことが大事です」とオールドタイマー誌の甲賀編集長。「じつは最近、旧車の売買をめぐってこんなことがあったんです…」と語りだした。
◇◇◇
現車はクルマ屋に預けている
果樹園農家のAさんは、果物の包装に貼る「生産者ラベル」に自分の顔と古い軽トラの写真を使いたいと思い、360ccの商用車を探していた。そのクルマを少しずつレストアしていくという物語を、ラベルで表現するつもりだったのだ。そこで目を付けたのが、オールドタイマー誌の個人売買欄に載っていた360ccのサンバートラックだった。
その旧車の売り主Bの住所は福岡。Aさんも福岡に住んでいたため、話が早いと思った。
売り主Bは、郵便での連絡が基本でなかなか電話に出ない。やっと連絡を取り合えるようになり、Aさんは「そろそろ現車を見たい」と伝えると売り主Bは、「サンバーはクルマ屋に預けている。そこの社長が偏屈なじいさんなので、最後に見せる」などと言って現車確認させてくれない。
しかし売り主Bは話好きで愛想がいい男だったので信用してしまい、Aさんは購入を決めた。現車確認は受け渡しのときにして、確認してダメなら断るつもりだった。
■なかなかやってこない売り主B
受け渡し当日。Aさんは積載車を借りて待ち合わせのコンビニに向かった。しかし1時間待っても売り主Bは来ず、ファミレスに場所を変えて待っているとやっと現れた。すると売り主Bは、これからサンバーを取ってくるから積車を貸せという。Aさんは一緒に行くと言うと、「社長は偏屈なじいさんだから」とまた突っぱねられた。
1時間ほどして、売り主Bは旧車を積んでファミレスに戻ってきた。Aさんはクルマを確認しようとしたが、あたりは暗くなっていた。さらに売り主Bは、「もう時間がないから」と急かすので、ぱっと見ただけで現金60万円を渡してしまった。
翌日、積車から降ろしたサンバーを見ると、なんとフレームまでボロボロ。車体番号はサビて消えてしまっていた…。
売り主Bにクレームしようと電話をかけまくったが、連絡がつかない。そこで、クルマの引き渡しのときに売り主Bがサンバーを預かってもらっていたという「偏屈なクルマ屋のじいさん」を訪ねて福岡中を探した。
そのじいさんをようやく見つけた。とても好々爺で、売り主Bの言っていることがウソだとわかった。このじいさんに自分を会わせてしまうと、クルマのボロさ加減を知られてしまうので遠ざけていたらしい。
じいさんいわく、サンバーはひどいボロだったのだが、売り主Bがどうしても欲しいというので20万円で売ったという。つまり、転売目的だったのだ。
■住所も名前も別にあった
そのじいさんは、売り主Bの本名と住所を知っていた。愛知県●●市××町、実名はXだった(編集部注:ここではややこしいので売り主Bのままで)。
個人売買欄に載っていた福岡の住所を検索すると、クルマも置けない団地だった。ではなぜ、Aさんが郵送したハガキや手紙が愛知の売り主Bのもとに届いたのか。
売り主Bは、雑談好きだった。「自分は子供のころ福岡で育ったが、両親は離婚して福岡を離れた」と話していた。また、「Aさんは果樹園をやってるやろ。ウチにも柿の木があるんだが、毎年早くに熟れて落ちてしまう。どうしたらええやろ」。「ウチにはハチロクが何台もある」などなど。
サンバーの代金を返すようにと何度か売り主Bに電話した。やっと一度だけ出た売り主Bはこう言った。「そんなボロボロだったか。そりゃ残念じゃの。わしもようけ見られんかったんや。今度、あのじいさんに文句言うてやるわ。サビたとこの写真をこっちに送ってな」。盗人猛々しいとはこのことである。
そう、なぜ手紙は福岡の団地から愛知の売り主Bのもとに転送されたのか。親族が住んでいたのか、あるいは手伝っている者がいるのか。
さらに愛知の住所「●●市××町」を検索してみた。パソコンの画面に現れたのは、ハチロクの廃車が置かれた空き地の一角。脇に古い小さな家が並んでいる。
その廃車置き場に、柿の木があった。目星をつけて、近所の人に電話したところ、売り主Bは近所でも評判のワルだとわかった。しかし、実際の住所はまた別のところらしかった。
■警察や弁護士に相談するも…
Aさんはまずサンバーの受け渡しを行った地元福岡の警察に相談。しかし金銭と対価の交換がなされているので詐欺の立証は難しいと説明された。サンバーのボロさ加減について説明するも、旧車や骨董品の場合、どこまでを瑕疵(かし)とするかという線引きが難しいとも。
こうした案件は、余程あからさまな詐欺事案でない限り、“民事不介入”で警察は思うようには動いてくれない。そこでAさんは弁護士に相談した。すると弁護士は言った。「民事の訴訟を起こして勝てば返金される可能性もあるが、踏み倒される可能性も大きい。しかもそこまでの訴訟費用は50~60万円くらいかかります」。
裁判に勝っても全額戻る保証はないうえ、訴訟費用でマイナスになる。そして多くの貴重な時間が失われる。この手の事案が被害者の泣き寝入りに終わる理由が、これである。
それでもAさんは諦めるつもりはない。
◇◇◇
■個人売買でよくあるトラブルの例
・買ったクルマが届いてみたら、写真と違ってボロボロだった(サビる前の写真だった、同型車だが違うクルマだった)
・買ったクルマが届いてみたら、写真では付いていたレアパーツがリプロの安物になっていた ※悪意はなくても、お互いの見聞の相違や「写真より現物が優先する」という主張でトラブルになることも
・バイクを買って代金を振り込んだ。送ってくれと先方に言うと、そのバイクが盗まれたという。しかし振り込んだ瞬間に口座から代金が引き出されているので警察に相談、とりあえず代金の一部は返還された(手付金は戻っていていない)
・売り物の写真が、じつは他人がメルカリに出しているものと同じ。売買が成立したらメルカリから仕入れてそのまま高額転売している輩がいる ※違法ではないが、無責任であり不具合があったときにクレームを一切受け付けない
・相場より安めに売り物を出品しているので、問い合わせたが電話がつながらない。その住所に行ってみるとそこには家も倉庫も何もなかった…単なる愉快犯か?
・バイクやクルマを欲しいという人が下見に来たあと、何日かしてその置き場に泥棒が入ることがある。よって下見希望でも待ち合わせ場所で見せるという人は多い
■被害に遭わないために
・物品を売買するときは必ず当事者同士で現物確認を。トラブルの多くは現物確認を怠ったことから起こる。確認が困難な場合、あるいは少額品であっても写真などをやりとりし、双方納得のうえで金品の受け渡しを行うこと
・身元の確認は厳守。売買時に免許証を見せてもらうなどして、本人確認するのは必須。偽名、偽の住所を名乗って売買後のクレームから逃げようとするケースが多い
※売買にまつわるトラブルの責任をオールドタイマー誌では一切負わない。ただし明らかな詐欺行為があった場合は編集部までご連絡を。ブラックリスト化し、今後一切掲載しないなどの対処を行っている
〈文=ドライバーWeb編集部〉
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