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ゴードン・マレー、最新作「T.50」の核心に迫る【インタビュー 後編】

Gordon Murray

ゴードン・マレー

ゴードン・マレー、最新作「T.50」の核心に迫る【インタビュー 後編】

マレーが聞いた顧客からの意外な声

マレーが新しいマクラーレン F1を造るとなれば、富裕層の顧客がだまっていないだろう。

「数年の間は、いろいろ声をかけられました。『もっとほかのクルマを造って欲しい』『大きくしないでくれ』、それに『なるべく小さく、使い勝手をよくして、マニュアル・トランスミッションにして欲しい』なんてね」

最後の声にマレーは驚いた。

「ひとつだけ諦めようと思っていたのが、マニュアル・トランスミッションでした。DSGは期待はずれで重量もかさむため、採用するつもりはなかった。狙いをつけていたのはシーケンシャルMTでした。それなのに『マニュアル・トランスミッションにして欲しい』という声があがった。彼らは、愛車の旧いポルシェ 911を引っ張り出したり、クラシックカーと再び触れ合いを持とうとしていると口々に言うのです。また、所有するスーパーカーは幅が広いから英国、とくにAロード(訳者註:英国の道路にはすべてコードが付されている。Mはモーターウェイ、Aは幹線道路、Bが一般道)などでは持て余してしまうと」

T.50は、マクラーレン F1より30mm幅広く80mm長いが、ポルシェ 911よりも“轍”はずっと小さい。

T.50のエンジンと空力性能以外はタダみたいなもの

言葉を決して飾ろうとしないマレーは、マクラーレン F1の欠点さえ臆せず語る。そのヘッドランプを「まったく不満足」と称し、ブレーキは「12ヵ月かけてカーボン・ブレーキを開発したが、できなかった」という。1.4kgを削ぐためにエアコンの質を落としたのもよくなかった、と。

しかし、T.50のエンジンと空力性能の前には「ほかの部分なんてタダみたいなもの」と冗談めかして言う。「自然吸気のV型12気筒。それ以外の選択肢はありませんでした」マレーはそう断言する。

「諸元データをもってコスワースを訪ね、まず目をつけたのが3.3リッターのユニットでした。ところが計算してみると、3.3リッターだと車重が900kgを上回ってしまう。3.9リッターなら1000kg未満で収まる上に、トルク・ウェイトレシオもよくなりました。しかも6.1リッターのマクラーレン F1よりもパワフルだった。このユニットをベースに2種類のセッティングを考えています」

マレーはさらに言葉を重ねる。

「まずは燃料噴射のタイミングを調整し(マクラーレン F1のスロットルワイヤーとは違い、T.50のそれは電子制御だが)、回転数とトルクを抑えたマイルドな仕様がひとつ。こちらは買い物やクルージング向けです。“フェラーリ流レヴ”と我々が呼ぶ、9000rpmまでのセッティングになっています。もう一方は1万2400rpmに達する仕様ですが・・・完成が待ちきれませんね。開発を始めたそのときから、私はこのクルマを感じ、走る姿を頭にありありと思い浮かべることができたんです。いまだかつて味わったことのない、最高のドライビングをきっと体験してもらえるでしょう」

「故・ポール・ロッシュ(1934~2016年。マクラーレン F1のV12を造ったBMW M社の名エンジン設計者)は素晴らしき友人であり、天才でした。私は彼に、フェラーリよりも高い回転数とパワーが必要だと言った。それを見事に実現してくれたんです。エンジンレスポンスも鋭く、カーボン製のクラッチプレートも採用しました。マクラーレン F1のオーナーはギアをニュートラルへ放り込んでスロットルペダルを“バン!”と踏み込むのが好きなんです。まるでリッターバイクみたいだからね」

1万2000回転まで0.3秒で到達するV12エンジン

もちろん、T.50のエンジンはさらに進化している。

「コスワースに1万2000回転以上まで回らなければいけない、と言うと彼らは歯ぎしりしながらも実現してくれました。アイドリング状態からレヴリミットに達するまでの所要時間はたったの0.3秒。もちろん透過式のアナログのエンジン回転計をしっかり配置しています」

T.50のエアロダイナミクスを考えるにあたり、マレーはロードカーの空力をいちから見直そうとした。マクラーレン F1に通じる美学を踏襲すべく、スポイラーやエアインテークの類いを排除。“ファンカー”と呼ばれた1978年のブラバム-アルファロメオ BT46Bの精神をなぞるように電動ファンを用いている。

「生まれてはじめて、自分の脳がパンクしそうでしたよ。我々の前には数々の可能性が横たわっていました。結果、導き出したのがブレーキング時にはダウンフォース量を自動的に増やし、圧力中心も移動できる構造です。さらに“ハイ・ダウンフォースモード”を設けることもできる。ダウンフォースを減らしたい場合にもファンが活躍します。仮想ロングテールともいえる“トップ・スピードモード”も考えています。より空気抵抗を減らし、燃焼消費も抑える設定ですね。アイデアはまだまだ尽きません」

話は最新作「T.50」のシャシーへと移る

「ショックアブソーバーは、コンベンショナルにこだわるべきか、電子制御式のアダプティブダンパーを選ぶべきか検討しています。私の第六感は前者にすべし、と囁いていますが。アルピーヌからは大切なことを学びました。気まぐれで造った部分はひとつもなく、すべてが正しく設計されていました。前後ともに純然たるダブルウィッシュボーン・サスペンションで、コンプライアンスブッシュの選択も適正、ねじり剛性も高く、しかも車体が軽い。必要なものをすべて備えているんです。我々もこのようにシンプルであるべきだと考えています。可変スプリングレート式のプッシュロッド・サスペンションを採用したのは、空力管理のためにほかなりません」

そう言われると、A110の弱点と言われているステアリングのことを尋ねないわけにはいかなくなった。

「A110の中でもっとも魅力を感じないのはステアリングですよ。最近はどんどん物事が進歩していって、人々は“マニュアル”ステアリングの感触を忘れてしまっている。たとえばロータス・エランやフェラーリ F40のステアリングは、世界一素晴らしい仕上がりだと思います。T.50には、今回まったく新しいシステムを用意しました。操作のアシストはもちろん行いますが、“感触”も提供します。現在、特許の申請を考えているので詳細は語れませんが、油圧ではなく、完全に新しいシステムと申し上げておきます。きっとそのステアリングが正確な操縦性をもたらしてくれるでしょう」

それからマレーは、なぜ最近のステアリングシステムに出来のよくないものが少なくないのか、明快な教えを我々に与えてくれた。

“オール ブリティッシュ”の体制で造るT. 50は、マレーにとっての誇りだ。100人の顧客のそれぞれと話しがしてみたいと思っているし、開発工程についてもつまびらかにしたいと考えている。

「この次にもまた新しいクルマを造っていきますが、年間100台以上生産することは決してないでしょう。私はアストンマーティンやフェラーリに相対する自動車メーカーになりたいわけではありません。我々は、人々が本当にいいと思ってくれるような楽しいクルマを造りたいだけなのです」

TEXT/Adam TOWLER

PHOTO/Angus MURRAY

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