創成期AMGの怪物クーペ、グリーンマシンがオークションに登場
創成期のAMGが製作したスペシャルカーたちのなかには、秘密裏に製作され、納車されたのちにも秘匿されていた「知られざるクルマ」が数多く存在するようです。先ごろ名門ボナムズ・オークション社がオンライン限定で開催した「AMG Rediscovered Online」オークションでは、メルセデス・ベンツ傘下に収まる以前の、ちょっとクセの強いAMG製チューンドカーたちが登場。なかでも目玉商品として出品された1976年式メルセデス・ベンツ「450SLC 6.9 グリーンマシン」は、そんな知られざるAMGの最たる1例といえそうです。今回はその「グリーンマシン」の車両解説と注目のオークション結果について、お伝えします。
「純白のメルセデス」が580万円で落札! 当時モノAMGキットを装着した「350SL ロードスター」でも手が届くドリームカーです
世界のグランドツアラーの規範となったC107系「SLC」とは?
1971年春、V型8気筒3.5Lエンジンを搭載する「350SL」をファーストモデルとして、メルセデス・ベンツSLシリーズに8年ぶりのフルチェンジが施行され、新世代のメルセデスSL「R107系」が登場することになる。
デビュー当時「W107系」と呼ばれていたR107系SLで何より注目すべきは、後期モデルとしてロードスター版が設けられた開祖「300SL」をのぞくメルセデスSL史上初めて、ボディにバリエーションが加えられたことである。
ホイールベースを、R107系SLから360mm延長。「パゴダ」と愛称されるハードトップを延長したうえで完全固定することで、快適至極かつゴージャスな4シータークーペとした「SLC」(C107系)がそれである。1961年から生産されていた旧「SE」クーペの後継車「350SLC」として、350SLと同時にデビューを果たした。
ちなみに北米仕様の350SL/350SLCには、当初から「280SE 4.5」用の4.5L V8エンジンが搭載されていたそうだが、1973年春には西ドイツ本国をはじめとする欧州市場でも4.5L版を設定。全マーケットで「450SL/450SLC」の名で販売されることになる。
メルセデスSLCシリーズは高級パーソナルクーペのお手本になった
メルセデスSLCシリーズは、のちに欧米各国で生まれることになる高級パーソナルクーペのお手本になったことでも、エポックメイキングな存在となった。例えば、リアクオーターウインドウ後端に取り付けられた縦置きブラインド型のサンシェードは、わが国でもトヨタの初代「ソアラ」にそっくり真似られたという、懐かしいエピソードをご記憶の方も多いに違いあるまい。
とくに最上級・最高性能グレードである450SLCは、大排気量V8エンジンのもたらす優れたパフォーマンスにより、ヨーロッパ製高級グランドツアラーの頂点に立つモデルとして認識されていた。
しかし、アメリカ西海岸で1985年からAMGのスペシャルショップを営み、AMGおよびメルセデスのコレクターとしても知られていた故バリー・テイラー氏が秘蔵していた450SLCは、スタンダード版よりもさらに強烈なパフォーマンスを誇る、まさしくモンスター級の1台だったのだ。
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エスティメートの5倍以上という高価格で落札!
このほど、ボナムズ「AMG Rediscovered Online」オークションに出品された1976年式メルセデス・ベンツ450SLC「6.9」は、ダイムラー・グループの1部門となる以前のAMGが一品製作したと思われるホットロッド的チューニングカー。「グリーンマシン」の名で知られるこの450SLCは、ドレスナー銀行で頭取を務めていた人物のために高性能な「コンチネンタル(大陸)エキスプレス」として製作されたと伝えられている。
トランクリッドに「6.9」のバッジこそないものの、当時モノのAMGボディキットやカラーリングされたペンタ型AMGアロイホイール、そして左右フロントフェンダーのタイヤハウス後に新装されたワイルドな四条のサイドベントが、ボンネットの下に潜むものを示唆している。
このクルマに搭載されているのは、フルサイズの「450SEL 6.9」リムジン用の6834cc SOHC V8エンジン。ボッシュ製燃料噴射との組み合わせで286ps/4250rpmをマークし、なんと5速マニュアルトランスミッションを介して後輪を駆動する。
「シルバーグリュン・メタリック」(グリーンがかったシルバー)に、明るいグリーンのヴェロア生地インテリアが映えるこのクルマには、「あの時代」を感じさせる魅力的なアクセサリーが多数装備されている。エクステリアでは、AMGのボディスタイリングパッケージがロングホイールベースのSLCデザインと見事にマッチしており、このクルマのスリムなヨーロッパ仕様バンパーと4灯ヘッドランプもそれを強調している。
いっぽうキャビンでは、ウッドリムのAMG純正ATIWE社製ステアリングホイールや「ブラウプンクト」社の希少な「グースネック」ラジオコントローラー、メルセデス・ベンツ純正のヴェロア生地でトリミングされた「レカロ」社製スポーツシート、メモリー機能つきの電動シートコントローラーに特注のロールバー、さらには冷蔵リアコンパートメントなど、1970年代後期の技術の粋を集めて大幅にアップデートされている。
完全な状態に戻ればポルシェを圧倒するポテンシャルを秘めている
故バリー・テイラー氏のコレクションにあった間、この特別な450SLCは屋内に長期静態保存されていたという。しかし、ボナムズ・オークション社の管理下に移されたあとには、走行や始動はしておらず、エンジンを再始動する前には一定のチェックとメンテナンスが必要とのことであった。
オークションの公式カタログでは「ひとたび完全な状態に戻れば、このグリーンマシンはヤングタイマー・クラシックのコレクションの中で輝きを放ち、アウトバーンで再びポルシェを圧倒するポテンシャルを秘めている」という煽情的なPRフレーズを添えつつ、ボナムズ社は4万5000ドル~6万ドル(約658万円~878万円)という、ちょっと控えめにも感じられるエスティメート(推定落札価格)を設定した。
ところで、今回の「AMG Rediscovered Online」オークションは、すべて「Offered Without Reserve(最低落札価格なし)」形式で行われるというのが前提条件とされていた。したがって、たとえ入札が希望価格に到達しなくても落札されてしまう可能性もある。
しかし、このオークションの告知でもメイン商品として世界各国の媒体で露出されていたせいか、1週間に設定されたビッド(入札)期間中に価格はみるみる跳ね上がり、終わってみればエスティメート上限を5倍以上も上回る34万5000ドルで落札されるに至った。
すなわち、現在のレートで日本円に換算すれば約5200万円。ちゃんと走らせるにはそれ相応の手入れを要するのは間違いないとともに、内外装にもそれなりの使用感があることも合わせれば、価格上昇を抑制しそうな要素はいくらでもあったはず。
それでも一般的な極上モノ450SLCの相場価格の10倍近いハンマープライスとなったのは、「AMG」+「6.9」という「パワーワード」と生来の正統性が、予想よりもはるかに大きな影響力を持っていたとみるべきなのであろう。
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みんなのコメント
タイトルってのは読者をスムーズに記事に誘導する呼び水ではないかと思っていたのだが、どうも最近は違う意味があるのかもしれない。
どこにどの文章が修飾されるのかを考えさせるなんて、とんちが効いていて面白いタイトルだな!