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人工知能と3Dプリンターで作るスーパーカー ジンガー21C 産業へ衝撃を与える新技術

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人工知能と3Dプリンターで作るスーパーカー ジンガー21C 産業へ衝撃を与える新技術

曲線美のサブフレーム 2000kgのダウンフォース

必要最低限で済ませる。あまり良いイメージは含まない表現だと思う。

【画像】人工知能と3Dプリンターで作る ジンガー21C 最新ハイブリッド・スーパーカーたち 全109枚

しかし、環境負荷を減らし、高騰する費用を抑えるためには必要な考え方だ。量産車は、開発費を抑えた方が良い。使用する材料は少ない方が良いし、製造工数は省いた方が効率的になる。むしろ、必要最低限が大切だといってもいいだろう。

アメリカ・カリフォルニア州南部、ロサンゼルスに近いハミルトンアベニューは、そんなマインドの中心地の1つ。自動車産業に衝撃を与える、震源地になりつつある。

そこへ拠点を置くダイバージェント社は、パワフルでエレガントなスーパーカー、21Cを開発したジンガー社の親会社。ハイブリッドのV8エンジンが1250psを繰り出すモンスターに、まったく新しいアプローチが採用されている。

AUTOCARでも以前にご紹介したが、この21Cは、3Dプリンターで生産されることが大きな注目を集めた。だが、それだけではない。ここまで最先端の技術が投じられた公道用モデルは、恐らく他に存在しないはず。

見所の1つが、曲線美のサブフレーム。V8エンジンを、動物の骨のように取り囲んでいる。溶接の痕跡はなく、可能な限り軽量でありつつ、必要な構造を果たしている。

空気力学が追求された、エアロキットをまとう滑らかなボディは、305km/hで2000kgのダウンフォースを生むらしい。その能力は、サーキットで証明済みだ。

コクピットはスリムで、ドライバーは中央に座る。その後方に、1人がけのリアシートが備わる。ル・マン・マシンと見間違えても不思議ではない。

自動車の製造プロセス全体が不完全

同社の最高執行責任者(COO)、ルーカス・ツィンガー氏は、「このクルマ自体がビジネスモデルです。ジンガーは最も成功した、アメリカの高性能自動車メーカーになることを目指しています」。と野望を話す。

21Cは、親会社のダイバージェント社が叶えた、革新的な製造技術のショーケース。超高速で走る実験室として機能している。

「弊社の使命は、野心的で広範囲なものです。自動車のボディだけでなく、航空宇宙や防衛技術といった設計や製造に対するソリューションです。既に優れたデジタルツールは存在しますが、設計プロセスを推進させる自動化技術へ注目しました」

自動車の製造プロセス全体が、様々な側面で不完全だとも述べる。ホワイトボディを製造する工程は、膨大なエネルギーと時間を必要とし、大量のCO2も排出すると指摘する。会社としてのリソースを、不必要に浪費しているとも。

「最大手のメーカーでも、10年や20年に渡って苦戦した過去を持ちます。設備投資が非常に大きいためです。その多くが、ホワイトボディなどの生産が要因といえます」

「プレスの金型や、鋳造・溶接の設備、組立ラインなどの準備に、まとまった予算を先んじて投じる必要があるためです。年間に何台売れるのかへ、強い期待が掛けられます」

一般的に新モデルの収益は、開発や設備に投じたコストを、どれだけ短期間に回収できるかで左右される。モデルチェンジが、8年前後で行われることにも結びついている。フェイスリフトを挟んで。

人工知能による設計 3Dプリントでの成形

デザイナーやエンジニアは、短期間でのアップデートを望んでいるかもしれない。だが、コストの回収を考えると難しい。これらを解決するのが、ダイバージェント社の新技術。「3本の柱」と彼らが表現する、3つのアプローチで成り立っている。

1本目の柱が、独自にコーディングされた、人工知能を活用した設計プログラム。最小限の材料を利用し、最軽量で高剛性・高耐久な設計を、迅速に導くという。ルーカスは、このシステムが自動車産業を一変させる可能性があると信じている。

「サスペンションのアームからリアのサブフレームに至るまで、開発を進める中で、要件を下回った場合は再設計が求められます。恐らく、数回の試作が実行されるでしょうが、1万回も試すことはありません」

「でもソフトウエアなら、1万回の試行も可能です。1gの材料も無駄になっていない、全体的な最適解へ収束されます。要件をすべて満たしつつ、これ以上変更できない、ベストな設計が生まれるのです」

ただし、その極限的に理想的な部品は、従来のプレスや機械加工では量産が難しい。そこで2本目の柱で、同社の新しい技術の核心、3Dプリント・システムが登場する。成形ステージを取り囲むように並ぶ、22本のロボットアームが連携して動くという。

ルーカス氏によれば、基本的には3Dプリンターではあるものの、リサイクル可能なアルミニウムを用いた、特別な合金を積層していくことが特長。この合金も、同社が650件も保有する特許の1つだそうだ。

製品に依存しない製造システム

そのアルミ合金は溶接可能で、従来的な方法で別の部品と固定できる。だがダイバージェント社では、特別な接着剤を開発した。紫外線を当てると、2秒で硬化するらしい。

「これらを活用すれば、年間数100万単位で量産可能です。硬化に10秒や40秒も要していては、機能しません」

3つ目の技術が、組み立てプロセス。「仮に40点の3Dプリント部品があったとして、それらを結合し、利点を拡張するには何がベターでしょう。従来的な組立工程で良いのでしょうか?」

「そこで製品に依存しない、製造システムを構築しました。同じロボットアームで、フェラーリのフレームでも、フォードのフレームでも、完成させることを可能にしたのです」

これらの実用化で、ダイバージェント社は最初のクライアントと提携。ビジネス拡大に成功した。「世界最大の製造プラットフォーム」という構想へ、一歩近づいた。

クライアントは、ソフトウェアと3Dプリントシステムを活用。費用や環境負荷の削減、設計の加速化を叶える。その結果、デザイン主導の企業へ進化が可能になるという。

3Dプリント部品を仕上げるには、数週間から1年半ほどを要する。だが、プロトタイプが不要になるため、最初から望み通りの部品が完成する。部品独自の製造設備は存在しないため、設計変更の自由度も増すことになる。

同社は、最も柔軟で高効率な製造パートナーになる可能性を秘めていると、ルーカスは主張する。「経営面で、設計リスクを大幅に軽減します。100%柔軟な、フォクスコン社やマグナ社のようなものですね」

アストンやメルセデスと協力関係を構築

見事な先進技術企業へ成長したダイバージェント社だが、設立当初から数年間は収益が出なかったという。3Dプリント製造の技術を確立して以降も、クライアントの獲得には難航したらしい。しかし、トンネルは抜けたようだ。未来は明るい。

2026年までに、収益は数億ポンド(数100億円)に増えると予想されている。数10万点の部品が、新しいプロセスで成形予定だ。現在はロサンゼルス郊外に拠点を置くが、2030年までに世界30か所へ関連施設を展開したいと考えている。

ルーカスの父、ケビン・ツィンガー氏が続ける。「安全性や性能を向上させながら、質量を20%や40%削れると想像してみてください。環境負荷の軽減にも繋がります」

ダイバージェント社は現在、主要な自動車メーカー7社と協力関係にある。名前を明かせるブランドは、アストン マーティンとメルセデス・ベンツ。さらなるネットワーク拡大を目指し、スーパーカーの21Cがショーケース的役割を担う。

21Cは、テキサス州のサーキット・オブ・ジ・アメリカズ・サーキットの市販車記録を、6秒も短縮。ラグナ・セカを、マクラーレン・セナより2秒も速く周回した。

「サーキットで、世界最速の量産車になると宣言しています」。とルーカスは主張する。ニュルブルクリンクへの挑戦も、予定しているようだ。

「5年後か10年後、21Cは弊社のシステムで設計・製造された、最初の量産車だったと振り返ることになるでしょう。とてもパワフルなクルマです。ほかの多くのモデルも、同様に作られることになりますよ」

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