■もくじ
どんなクルマ?
ーヴァンテージ引退前 限定「AMR」
ーV8が200台 V12が100台 内外装に違い
どんな感じ?
ー内外装 加飾を気に入るかどうか
ー安楽なGTではなく硬派なスポーツカー
ーV8 パワー勝負とは異なる「傑作」
「買い」か?
ーすばらしいが、あえて今後に期待
■どんなクルマ?
ヴァンテージ引退前 限定「AMR」
アストン マーティン・ヴァンテージは、これまで以上の高出力と、輝かしいル・マンでの勝利というカタチで有終の美をかざった。
2005年に発売が開始されたヴァンテージは今年引退することが決まり、まったく新しいモデルが2018年に登場する予定だ。
すすり泣きが聞こえてきそうだが、一方で最後の年の成績は記憶に残るものになるだろう。
6回目の挑戦となる、フランスのサルテ・サーキットで6月に開催されたル・マン24時間レースのGTE Proクラスにおいて、最終ラップでの接戦からクラス優勝をもぎ取ったのだから。
今年の初めに、アストン マーティン・レーシング・コンペティション・チームからインスピレーションを得た、アストン マーティンの高性能ブランド「AMR」を発表したが、同ブランドからの最初の1台が、このヴァンテージとなる。
最終的にはアストン マーティンのモデルのすべてに、AMR仕様が設定されることになるだろう。
ヴァンテージAMRのディテールを見ていこう。
V8が200台 V12が100台 内外装に違い
ヴァンテージAMRは300台限定で生産され、内訳はV型8気筒エンジンモデルが200台と、V型12気筒エンジンモデルが100台となる。
また、ボディはクーペとロードスターから選べ、マニュアルまたはパドルシフト付きのATから選択が可能だ。
メカニカル的には、オリジナルモデルと変わりないが、V型12気筒バージョンでは、若干の改良がくわえられ、出力が603psに引き上げられた。ただし軽量化やシャシーセッティングの変更などはくわえられていない。
その代わりに、数多くの特注ペイントと鮮やかなボディストライプが用意されており、このテスト車両(スターリング・グリーン)の場合は、蛍光色のブレーキキャリパーが取付けられていた。
更にユニオンフラッグのエナメル製エンブレムや5スポークのホイールも装着。目を引くインテリアトリムもAMR独自のものだ。
今回テストしたV型8気筒エンジンのヴァンテージAMRは、標準モデルから£3,000(43万円)の上乗せとなる、£97,995(1396万円)のプライスタグを付ける。
4735ccの自然吸気エンジンは436psを7300rpmで、49.8kg-mのトルクを5000rpmで発生。近年の4輪駆動のホットハッチの中にはより俊足なクルマもあるが、1610kgのクーペボディを0-100km/hを4.8秒で加速させ、最高速度は305km/hに到達する。
■どんな感じ?
内外装 加飾を気に入るかどうか
ヴァンテージの持つ緊張感のある筋肉質なスタイリングは、見慣れた感があるものの、今でも非常に魅力的だ。
ライムグリーンのアクセントは控えめな美しさとは若干不釣り合いに感じられ、これは意見が分かれるところだろう。
眩しいストライプや蛍光色のキャリパーを気にしないとしても、内装にもライムグリーンのパイピングが、ダッシュボードやシートのアクセントになっていることもお忘れなく。
機器の操作系は初期モデルよりも遥かに使いやすくなっているが、ボタン類が並ぶ姿はどこか中型の電子レンジのようにも見えてしまう。
少なくとも、インフォテインメントシステムは直感的で操作しやすく、シートポジションも適切だ。オプション装備となるシートバックが固定されたバケットシートも、標準の2ピースのシートよりしっかり体をホールドしてくれる。
クラッチとシフトノブの重さを感じながら、楕円形の鍵をダッシュボードのキーホールにかなりの力で押し込んでやると、エンジンが目を覚ます。
安楽なGTではなく硬派なスポーツカー
運転席とドアの間に取り付けられたハンドブレーキの解除ですら力が必要で、ステアリングも重く感じられる。
ヴァンテージはアストン マーティンのスポーツカーであり、安楽なGTでは無いことを再認識する。
少しペースを速くすると、ヴァンテージの本領が見えてくる。ごく低速域では固くタイトなショックアブソーバーが、80km/hを超えた辺りから顕著にしなやかに感じられるようになる。
サスペンションのストロークも十分で、路面の凹凸を逐一拾うこともなく、なめらかにボディを前進させていく。
ステアリング・インフォメーションもはじめのうちは軽く曖昧に感じられるが、徐々にフロントタイヤからのフィードバックが届くようになり、細かな振動や路面の変化を指先で絶え間なく感じ取れるようになる。
どんなに優れた電動パワーステアリングであっても、油圧パワーステアリングのこの感触やフィードバックを得ることはむずかしいだろう。
もっと飛ばしてみよう。
V8 パワー勝負とは異なる「傑作」
アストン マーティンのエンジニアが約10年間をかけてヴァンテージの乗り心地やハンドリングの改善に努めてきたことを考えれば、ワインディングを爽快に飛ばせる仕上がりとなっていても不思議ではない。
落ち着きと俊敏さを兼ね備えており、フロントタイヤは路面を掴み、強力なグリップでコーナーを抜けていく。
リアタイヤ側は姿勢を整えるのにコンマ何秒か遅れる印象があるが、完全にバランスされたものだ。コーナーで突然に片側のタイヤだけがバンプを拾ったとしても上手く処理され、クルマの挙動には余裕が感じられる。
すべてが良く調和している印象だ。
低速域ではヴァンテージは全体的に重たく感じられるのだが、高速域になると繊細で素早い応答性に大きく変化する。
ただし、決して驚くほど速いというわけではない。
実際、とても良い感触でコーナーを脱出していくことは可能なのだが、4700ccV型8気筒エンジンの最高出力は436psあるとはいえ、比較的ワイドレシオなギア比設定のため、背中を押し付けられるような加速とはならないのだ。
最大トルクも、リアタイアを自在に振り回せる程ではない。もし強力な直線加速を欲するならば、V型12気筒エンジンが必要となる。しかし、V型8気筒モデルのハンドリングは十分魅力的で正確性も高い。
雷のような強烈さは無いものの、V型8気筒エンジンも素晴らしい特徴をもっており、過度に作りすぎていないエグゾーストノートも感情に響く刺激的なもの。
6速マニュアルトランスミッションも、ていねいな操作が求められるメカニカルゲートは納まりがよく、とても良い組み合わせだとおもった。
■「買い」か?
すばらしいが、あえて今後に期待
V型8気筒エンジン仕様のヴァンテージAMRは、トラディショナルな感覚が色濃く、非常に魅力的で充足感の高いスポーツカーだといえる。
ヴァンテージはドライバーのスキルが求められるクルマではあるが、しっかりそれに応えてくれる。
ただし、アストン マーティンの新しいAMRブランドから発表されたクルマが、標準モデルと大きなメカニカル的な差異がなく、ステッカーや派手なアピアランスがくわえられただけのモデルとも受け取れる点は、少し残念だ。
AMRブランドの今後のためにも、もっと焦点を絞り、パフォーマンスを高めたロードカーを提示する必要があるだろう。
今後、数カ月から数年の内には別のモデルが発表されるだろうが、今のところそのような情報は聞こえてきてはいない。
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