初心者が挑戦しやすいモータースポーツの代表格
これからレースを始めてみたいという人にとって、やはり一番身近に思えるのは通称「Nゼロ」とも言われるナンバー付きのマイカーによるワンメイクレースだろう。幸いなことに現在、トヨタ・ヤリス、同じくトヨタGR86/スバルBRZ、そしてマツダ・ロードスターという現行モデルによる3つのシリーズが全国のサーキットで開催されている。このシリーズ戦を現場で取材した経験をフィードバックしつつ、オススメの度合いを考察してみたい。
ある意味GRヤリスより面白い! 「ヤリスカップカー」に乗ってみたら安ウマで最高だった
ほぼ購入したままで参戦可能な「ヤリスカップ」
まず最初に紹介したいのが、筆者が昨年6月に初開催された模様を本サイトで報告している「Yaris Cup(以下ヤリスカップ)」。そこでも書いたように、2000年から2020年まで開催されていた「Netz Cup Vitz Race(ヴィッツレース)」の後継という位置付けだ。トヨタの世界戦略コンパクトカーとして誕生したヴィッツだが、4代目への世代交代と同時に世界共通のヤリスに車名を統一したため、Nゼロも新たなシリーズ名称にリニューアルされた。
参加できる車両は5ドア車に設定されたカップカー専用グレード。6速MT車のほかにCVT車も選択可能で、搭載エンジンは1.5L直列3気筒のノンターボ。つまり国内外のラリーやスーパー耐久などで活躍している3ドアのホットハッチ、1.6LターボのGRヤリスではない。最高出力は120ps(88kW)/6600rpmで、最大トルクは14.8kgf-m(145Nm)/4800~5200rpm。ボディサイズは全長3940×全幅1695×全高1470mmなので、今や少数派の5ナンバー。車両重量は6速MT車が1030kgで、CVT車が1040kgとなっている。
気になる車両価格(税込み、以下同)は6速MT車が217万1100円、CVT車が238万0100円。特筆すべきはこのカップカーを購入すると、ほぼそのままでレースに参戦できること。これは後述するロードスターやGR86/BRZと大きく違うポイントだ。ただし運転席だけは交換を前提としているほか(6点式のフルハーネスは標準装備)、一般的にはデータロガーと言われているRacing Recorder(13万2000円)は自分の走りを分析したり、スキルアップのためにも装着を強く推奨したいオプションとなる。
次にヤリスカップの戦いの舞台だが、昨年に引き続いて今シーズンも東日本と西日本の2シリーズが各8戦ずつ設定された。会場となるサーキットは、東日本では富士スピードウェイとスポーツランドSUGOが3戦ずつで、残る2戦が十勝スピードウェイ。西日本では鈴鹿サーキット/岡山国際サーキット/オートポリスが各2戦ずつで、さらに東日本と合同で富士でも2戦が開催される日程が予定されていた。
ただ今シーズンの開幕前に、サーキットなど極限的な状況での「ABS制御の早期作動」というトラブルが発覚した。その対策のため、両シリーズとも開幕戦を中止。5月15日、岡山国際サーキットの西日本の第3戦からようやくバトルが始まっている。エントリーは51台(うちCVTクラスに4台)という盛況で、フルグリッドの44台までは10周の決勝に進出したが、残る7台は5周のコンソレーション決勝を戦うことになった。ちなみにこのグリッドの数はサーキットによって違うので、ご注意いただきたい。
主催者側の意向としては、いずれはヴィッツレース時代のように、全国を5エリアに分けてのシリーズ戦に発展させたいとのこと。エントリーフィーは1戦につき4万2900円。タイヤはグッドイヤーの「EAGLE RS SPORT S-SPEC」のワンメイクで、フロント2本は車検マーキング時に未使用の状態がマストになっている。
新シリーズによりさらに盛り上がる「ロードスター・パーティレース」
次に紹介するのが、2016年にリニューアルされた「ロードスター・パーティレースIII(以下パーティレース)」。こちらは現行の4代目NDロードスターに設定されたNR-Aというグレードでのみ参戦できる規定だ。すでに数回の商品改良を経て、仕様やスペックも微妙に異なっているが、“イコールコンディションでバトルを楽しむ”というワンメイクレースの根元に影響するほどの違いにはなっていない……というのが、筆者の認識だ。
ボディサイズは全長3915×全幅1735×全高1235mm。6速MT仕様のみで、車両重量は1010kg(レース時はドライバー込みで1080kgが最低重量)。エンジンは1.5L直列4気筒のノンターボで最高出力は132ps(97kW)/7000rpm、最大トルクは15.5kgf-m(152Nm)/4500rpmとなっている。車両価格は277万7500円だが、そのままではパーティレースに参戦できない。販売店オプションのロールバーセット(25万74353円)やけん引フック(前後で2万2000円)はマストアイテムで、もちろんバケットシートや装着用のレール、競技用ハーネスなども前述の車両価格には含まれていない。
ただ今回紹介している3つのシリーズで、パーティレースだけが突出して有利と思える状況がひとつある、この4代目NDが主役の時代になってから今年で6年目を迎えるため、かなりの数の“中古車”が市場に出回っているのだ。相場はかなり幅広いが、検索すると200万円前後からヒットするはず。パーティレースに参戦できる仕様の中古車を購入すれば、前述の手間も費用も省けるのは大きなメリットだろう。
さらにもうひとつ、全国各地にある認定ショップのなかには“レンタル”を用意しているところが複数ある。あるお店では1日で3万5000円(税別/レース参戦時は別料金)からと、費用はそれなりにかかるが、購入してオーナーになるより手軽なことは言うまでもない。実際にビギナーの方がデビューして数戦までをレンタル利用で戦い、その後マイカーとして購入したというエピソードもある。
2016年から、パーティレースの主戦場はスポーツランドSUGO/筑波サーキット/岡山国際サーキットの3カ所に拡大。それぞれ北日本/東日本/西日本という独立した各4戦ずつのシリーズを戦っている。さらにポイント制でランキングを決めるNDシリーズと、マナー重視でバトルを楽しむことが優先のNDクラブマンを設定。もちろん後者も1戦ごとには順位を争って、規定の上位までの入賞者が表彰されることには変わりがない。
そして今シーズンから各地区シリーズとは別に“ジャパンツアー・シリーズ”も新設。これはSUGOと筑波、岡山の各1戦ずつ(地区シリーズとダブルタイトル)に加えて、もてぎ/富士/オートポリスという全6戦(ポイント有効は4戦合計)で構成される。従来は各地区のポイントに年に一度の交流戦を加味した方式で全国ランキングを決めていたが、より明快なルールを新たに作成。ジャパンツアーのチャンピオンに、最高の栄誉となる「マツダカップ」が授与される方式にあらためられた。
エントリーフィーは各地区共通で、ジャパンツアーを含むシリーズクラスが4万1800円、クラブマンクラスが3万9600円。タイヤはブリヂストンの「POTENZA Adrenalin RE004」のワンメイクで、レース前後の車検で残り溝の数値に規定がある。なおJAF公認ではないが、同じ車両を使った平日開催の競技会「ビースポーツ ロードスター・マスターズ」もビギナー注目の試みで、参加費用も3万3000円とお手軽だ。今季は残り1戦で、9月14日の水曜日に袖ヶ浦フォレスト・レースウェイで開催予定だ。あと今回は現行モデルが対象のために触れなかったが、パーティレースでは1世代前のNCクラスも筑波の東日本シリーズでのみ開催されている。
いよいよスタートする「GR86/BRZ Cup」
最後に7月16~17日、富士スピードウェイで「GR86/BRZ Cup(以下Cup)」が開幕する。2013年に始まり、昨年限りで終了となった初代の86/BRZによる「TOYOTA GAZOO Racing 86/BRZ Race(以下TGR)」を引き継いでの開催だ。TGRが爆発的人気となり、最後はきわめてハイレベルなバトルになったことは、読者の皆さんでもご存知の方が多いだろう。フィナーレを飾った昨年の最終戦、3クラス合計のエントリーは134台。一番エントリー寄りのクラブマン・オープンには69台という大盛況だった。
ベースとなる車両がフルモデルチェンジされて、排気量が拡大。新たなCupに参戦できるのは、トヨタのGR86 Cup Car Basic(333万4000円)とスバルのBRZ Cup Car Basic(333万8500円)のみ。ミッションはいずれも6速マニュアルのみの設定だ。以下のスペックは86もBRZも共通で、ボディサイズは全長4265×全幅1775×全高1300mmで、車両重量は1290kg。エンジンは2.4L水平対向4気筒で最高出力は235ps(173kW)/7000rpm、最大トルクは25.5kgf-m(250Nm)/3700pmとなっている。
ヤリスのカップカー同様に、ロールバーやオイルクーラーなどは標準装備されているが、サスペンションキットについてはクラブマンクラスでは30万円を超える指定部品への交換が必要になった。さらにプロフェッショナルクラスではより選択の幅が広がるとともに、マフラーの交換も認められるなど、かなりコスト面でのハードルが高くなっている。タイヤについては、クラブマンクラスはダンロップの「DIREZZA ZIII」のワンメイクとなり、プロでは従来同様の複数メーカーの戦いになる。
新たなCupも、従来のTGR同様に全国の主要サーキットを転戦する。前述のように、デリバリーの遅れなどで今シーズンは7月の富士で開幕。その後は8月20~21日にSUGO、9月24~25日に十勝、10月29~30日に鈴鹿、11月19~20日に岡山(ここのみダブルヘッダー)というインターバルで、5大会・全6戦のシリーズを駆け足で戦う。
なお今年度はクラブマンとプロフェッショナルの2クラスのみが設定されるため、クラブマンクラスがフルグリッド以上となって、コンソレーションが設定される可能性もある。エントリーフィーはクラブマンクラスが4万4000円(岡山は4万9500円)、プロフェッショナルクラスが7万1500円(岡山は8万2500円)。タイヤは4本ともレース前は未使用であることが条件になっている。
CVT車クラスもあるヤリスは初心者におすすめ
ということで現行の3シリーズについて、車両のプロフィールや基本的なルール、開催概要や参戦費用などを駆け足でおさらいしたが、これだけのボリュームになってしまった。説明が足りなかったところは筆者の力不足だとお詫びしておこう。ただ、紹介したどのシリーズも盛況が続いている。つまり、どれもが魅力にあふれているわけだ。
編集部からはビギナーへのオススメ度合いを100点満点でというリクエストがあったので、「GR86/BRZ Cup」のプロフェッショナルクラスだけを対象外に、あえて採点してみた。100点は「ロードスター・パーティレースIII」のNDクラブマンクラスと「Yaris Cup」のCVTクラス。次に90点が「ロードスター・パーティレースIII」のNDシリーズクラス。最後に80点が、マニュアル車で戦う「Yaris Cup」と「GR86/BRZ Cup」のクラブマンクラスだろう。
皆さんもぜひ一度、レースの現場に足を運んでいただければと思う。少し前までは、コロナの影響でパドックには関係者しか入れない状況も続いた。事前に問い合わせた上で、ご来場いただければ幸いだ。最後に今回は現行モデルでのレースを対象にしたが、TGRを戦った初代の86/BRZをはじめ、より手軽に入手できる歴代モデルでの「Nゼロ」も各地で盛んに開催されている。それについてはまた別の機会にご紹介できれば幸いだ。
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