イタリア北部、世界的な高級リゾートとして知られるコモ湖のほとりを舞台に開催される「コンコルソ デレガンツァ ヴィラ・デステ」、通称「ヴィラ・デステ コンクール」が2023年5月19日から22日にわたって開催された。現存する世界最古のコンクール デレガンスを、イタリア在住のジャーナリスト、大矢アキオ氏がリポートする。
Concorso d’Eleganza Villa d’Este|コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ
最古のコンクール、スーパーカー時代へ── コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステが開催| Concorso d’Eleganza Villa d’Este
コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ2023リポート
イタリア北部、世界的な高級リゾートとして知られるコモ湖のほとりを舞台に開催される「コンコルソ デレガンツァ ヴィラ・デステ」、通称「ヴィラ・デステ コンクール」が2023年5月19日から22日にわたって開催された。現存する世界最古のコンクール デレガンスを、イタリア在住のジャーナリスト、大矢アキオ氏がリポートする。
Text by Akio Lorenzo OYA|Photographs by Mari OYA/Akio Lorenzo OYA
F.サガンのフェラーリも……
現存する世界最古、かつ欧州を代表するコンクール デレガンス「コンコルソ デレガンツァ ヴィラ デステ」が、2023年5月19日から22日までイタリア・コモで催された。
今回は8クラスに53台がエントリーした。湖上からは水上艇が、ときおり司会者の解説を遮るほどの轟音とともに飛び立ち、頭上を通過する。湖畔にあるグランドホテルには、弩級の高級車たちが並ぶ。
20世紀初頭、エンジンを備えたあらゆる機関の躍動感に創作意欲をかきたてられた、イタリア未来派の美術家たちが感動したのは、こうした風景だったのではないかと、ふと思う。
今回最古の参加車は「戦前の高速ラクシュリー」と名付けられたクラスに参加した1920年のスイス車「ピカール・ピクテR2」だった。
「ピク-ピク」の別名をもつ同車は、エンジニアのポール・ピカールと、今日までジュネーブに存在するプライベートバンク「ピクテ銀行」の創業者一族ルシアン・ピクテが設立した自動車会社による。PICardとPICtetでPic-Picだった。
ポルシェ75年&テノールの巨星が選ぶ「至高のエンジン音」──コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ2023が開催| Concorso d’Eleganza Villa d’Esteピカール・ピクテR2 (1920)via Web Magazine OPENERS
審査委員長は、2023年で就任20年を迎えた元ピニンファリーナのロレンツォ・ラマチョッティが努めた。彼を含め14名の審査員には新たなメンバーとして、フランソワ・メルシォンの姿もあった。パリ「レトロモビル」ショーで長年オーガナイザーを務めた功労者である。
午前中の審査タイムでは、各車の持ち主に、エンジンが始動するか、すなわち実動状態か、書類は揃っているかといった指示が、次々と投げかけられた。例年どおりの作法とはいえ、オーナーのみならず、ギャラリーまで緊張する時間である。
そうして選ばれた「ベスト・オブ・ショー」は、1935年「デューセンバーグSJ」だった。「Incredible India : 強大なマハーラージャによる、めくるめく自動車の愉しみ」と題されたクラスに参加した6台中の1台である。
“デューシー”のニックネームで親しまれ、ゲイリー・クーパー、グレタ・ガルボなど錚々たるスターたちに愛されたデューセンバーグだったが、世界恐慌が発生すると経営が行き詰まった。
同社は36台製造したモデルSJシャシーの最終製品を英国の車体製造業者、ジョン・ガーニー・ナッティング社に送る。そこでシャシーには華麗なボートテイル・スピードスターのボディが載せられた。
それを入手したのは若干28歳のインドールのマハーラージャ、ホルカールだった。ただし国際状況は日増しに悪化。彼は日本軍の侵攻に備えて一旦アメリカ西海岸の家へと送り、事態が収束したのちインドへと運んだ。
車両がふたたび米国に戻されたのは1959年のことで、1980年代末から現所有者ウィリアム・ライオン氏のもとにある。
ポルシェ75年&テノールの巨星が選ぶ「至高のエンジン音」──コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ2023が開催| Concorso d’Eleganza Villa d’Esteベスト・オブ・ショー: デューセンバーグSJ (1935)via Web Magazine OPENERS
いっぽう、同じくヴィラ・デステの伝統である、招待日のゲスト投票による「コッパ・ドーロ・ヴィラ・デステ」に選ばれたのは、オープンモデルを特集した「太陽がやってきた!“トップレス”はいつもと違う!」クラスに参加した1961年「フェラーリ250GTスパイダー・カリフォルニア」だった。
初代オーナーはフランスの作家、フランソワーズ・サガンであった。1954年『悲しみよこんにちは』で一躍人気作家となった彼女は、「ウィスキーとギャンブル、そしてフェラーリは家事よりも楽しい」との言葉を遺している。
それが生まれるきっかけとなった1台であろう。現在は香港のコレクションにある。
ポルシェ75年&テノールの巨星が選ぶ「至高のエンジン音」──コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ2023が開催| Concorso d’Eleganza Villa d’Esteコッパ・ドーロ・ヴィラ・デステ: フェラーリ250GTスパイダー・カリフォルニア(1961)via Web Magazine OPENERS
シュトゥットガルトの伝説
シュトゥットガルトの伝説
今回は、ポルシェを特集したクラスも設けられた。第二次世界大戦中の疎開先であったオーストリアからドイツのシュトゥットガルトに戻り、1948年に初の自社ブランドによるスポーツカーを世に出してから75周年を記念したものだ。
サブタイトルは「シュトゥットガルトの伝説における、象徴的かつ稀代のバックカタログ」である。
参加したのは8台で、最古は1954年の「366 pre-A」だった。新車時に最重要市場であった米国に輸出された1台である。1981年の初回レストアに加え、2016年には、さらにオリジナル状態に戻すための復元が行われている。今回、クラスにおける選外佳作賞を獲得した。
ポルシェ75年&テノールの巨星が選ぶ「至高のエンジン音」──コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ2023が開催| Concorso d’Eleganza Villa d’Esteポルシェ 904カレラGTS (1964)via Web Magazine OPENERS
次に古いモデルは、ドイツの歴史的航空機会社「ハインケル・フリュークツォイクバウ」によるFRP製ボディをもつ1964年「904カレラGTS」だった。
1964 年 5 月、購入した温泉保養地ヴィースバーデンの初代オーナーのもとでヒルクライムに用いられたあと、1967年に米国に渡ってからも競技に使われた。にもかかわらず、オリジナルのエンジンを搭載し続けている。
ポルシェ75年&テノールの巨星が選ぶ「至高のエンジン音」──コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ2023が開催| Concorso d’Eleganza Villa d’Estevia Web Magazine OPENERS
70’sムード全開のライムグリーンに塗られた1973年「911カレラRS2.7」は、シリーズスポーツカーとして必須であった最低500台製造のホモロゲーションをクリアするために製造されたRSシリーズの1台である。2022年に3代目オーナーとして手に入れたスイスのエントラントによって出品された。
ポルシェ75年&テノールの巨星が選ぶ「至高のエンジン音」──コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ2023が開催| Concorso d’Eleganza Villa d’EstePorsche 911 カレラ RS2.7 (1973 : 左) & ポルシェ 934(1976 : 右)via Web Magazine OPENERS
グループ4規定に準拠するため2年間のみ限定生産された1976年ポルシェ「934」の姿もあった。1976年にヴィチェンツァのジローラモ・カプラ伯爵の手に渡り、メイクス世界選手権を含む数々のレースに参戦。4代目である現オーナーは、2020年から所有している。911カレラRS2.7とともに、ほぼ修復されていないコンディションでの参加であった。
ポルシェ75年&テノールの巨星が選ぶ「至高のエンジン音」──コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ2023が開催| Concorso d’Eleganza Villa d’Esteポルシェ934(1976)via Web Magazine OPENERS
1979年「935」で参加したのは、アメリカの著名コレクター、フィリップ・サロフィム氏である。
これまで「ベルトーネ・ストラトス・ゼロ」「アストン・マーティン・ブルドッグ」といった、エキセントリックなコンセプトカーでヴィラ・デステのギャラリーを驚かせてきた彼にしては、かなり趣向が異なる。
筆者が一体どちらのタイプが好みなのか?と冗談交じりに問うと、「自分の子どもと同じで、どちらが好きとは言えません」と笑った。
ポルシェは、935で1976年からメイクス世界選手権において4年連続でトロフィーを獲得した傍らで、プライベートのサポートも行った。
今回の参加車もそうしたプライベートチームに貢献した1台で、初戦のデイトナでは8番グリッドからスタートし、大きなリードをもって優勝した。
ル・マンでは154周目にエンジントラブルでリタイアを喫したものの、チームオーナーのテッド・フィールドはその後IMSAシリーズでステアリングを握り、成功を収めた。その不屈のストーリーは、実業家でもあるサロフィム氏のソウルに少なからず訴えかけたに違いない。
ポルシェ75年&テノールの巨星が選ぶ「至高のエンジン音」──コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ2023が開催| Concorso d’Eleganza Villa d’Esteポルシェ 935 (1979) と フィリップ・サロフィム氏via Web Magazine OPENERS
いっぽうクラス中、かつ今回のヴィラ・デステ中最新は、車齢25年の1998年「911 GT1」だった。
当時、FIA耐久レースにGT1クラスで出場する条件は、公道走行用車両を最低25台製造することだった。ポルシェは911GT1を21台しか生産できなかったにもかかわらず、FIAは黙認したという逸話が残っている。
参加車は新車時に、あるポテンシャル・カスタマーに引き渡された1台である。
ポルシェ75年&テノールの巨星が選ぶ「至高のエンジン音」──コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ2023が開催| Concorso d’Eleganza Villa d’Esteポルシェ 911 GT1 (1998 : 左) & フェラーリ 512 BB LM(1981 : 右)via Web Magazine OPENERS
911の原点
911の原点
今回のポルシェ75周年クラスでウィナー、および「最も象徴的な自動車」賞に選ばれたのは、「901プロトティープ “クイックブラオ”だった。
901とは、先に「0」をはさむすべての3桁数字を商標登録していたプジョーの抗議を受けて改名する以前の911である。1963年フランクフルトショーで発表された。生産されたのは100台弱といわれる。さらに今回の参加車は、そのプロトタイプだ。
オーナーはアロイス・ルーフJr.氏。ドイツ・バイエルン州で長年ポルシェをベースにしたハイパフォーマンスカーを製造してきたRUF社の2代目社主である。
クイックブラオ(Quickblau)は「快速の青」を意味する。ルーフ氏は筆者に説明する。
「これは1962年から64年に13台造られた901試験車両の1台です」
ポルシェ75年&テノールの巨星が選ぶ「至高のエンジン音」──コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ2023が開催| Concorso d’Eleganza Villa d’Esteポルシェ75周年クラス ウィナー/「最も象徴的な自動車」賞:ポルシェ 901 プロトティープ “クイックブラオ” (1963) アロイス・ルーフJr.氏via Web Magazine OPENERS
各車には、ブラオマイセ(青いシジュウカラ)、フリーターマウス(コウモリ)といったニックネームが付けられていた。
「現存するのは2台で、1台は米国にある7号車バルバロッサ(赤ひげ王)、もう1台が6号車である、このクイックブラオなのです」
ポルシェはクイックブラオを駆使して、広範囲にわたるテストを実施する。担当したのはエンジン開発責任者だったフェルディナント・ピエヒだった。
続いて車両は65年からは911エンジンの設計者ハンス・メッツガー用のカンパニーカーに供される。その後67年、個人に売却されるが、新オーナーはクイックブラオをクラッシュさせてしまう。
「その壊れた個体を購入したのが、私の父でした」
父とはRUFの創業者アロイスSr.氏である。「18歳だった私に、『これがお前の最初のポルシェだ。自分で直せ』とね」とルーフ氏は振り返る。
ただし、アロイスSr.氏は911の水平対向6気筒は、息子には高性能すぎると判断。「そこで912の水平対向4気筒エンジンに換装しました」。修理後、約3年にわたり楽しんだという。
ポルシェ75年&テノールの巨星が選ぶ「至高のエンジン音」──コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ2023が開催| Concorso d’Eleganza Villa d’Esteポルシェ 901 プロトティープ “クイックブラオ” (1963)via Web Magazine OPENERS
後年ルーフ氏は父から継いだ社業の発展に専念。クイックブラオは惰眠を貪ることになる。
だがヒストリーを調べるうちに、5連メーターが初めて装着された車両であるなど、911史にとって貴重な1台であることを認識。2020年から22年にかけてフルレストアに取り掛かった。エンジンは初期の911用を発見して換装した。ニックネームの元となった美しいエナメルブルー6403と名付けられた塗色も、忠実に再現した。
エンジンの歌声も讃える
エンジンの歌声も讃える
今回のヴィラ・デステでは、最も美しいエンジン音を奏でた参加車のための「トロフェオ・イル・カント・デル・モトーレ」が新たに設けられた。選考を委ねられたのは、国際的声楽家、ヨナス・カウフマンであった。
大会スポンサー「BMW」のふるさとでもあるミュンヘンで1969年に生まれた彼は、テノールでありながら独特の重厚な声を聞かせ続けてきた。
『トスカ』における画家、カヴァラドッシも、天界から人間界に降りた『ワルキューレ』のジークムントも、その心理的内面を独特の重厚な声で表現してきた。2022年には初のベストアルバム『ザ・テナー』をソニー・クラシカルからリリースした。
ポルシェ75年&テノールの巨星が選ぶ「至高のエンジン音」──コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ2023が開催| Concorso d’Eleganza Villa d’Estevia Web Magazine OPENERS
その彼が選んだのは、同じくポルシェ75周年クラスに参加した180度V型12気筒4900cc 580hpターボチャージド・エンジンを搭載する1970年「917 K」だった。
現在は、ベルギーのクリストフ・ダンサンブール伯爵のもとにある。アクセレレーションペダルが踏まれ、雨を降り続けさせる空にとどめを刺すような轟音が響くたび、ギャラリーから大きなアンコールともとれる拍手が沸いた。
ポルシェ75年&テノールの巨星が選ぶ「至高のエンジン音」──コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ2023が開催| Concorso d’Eleganza Villa d’EsteEXPERIMENTING WITH THE POST-WAR EUROPEAN GT Mention of Honor : Alfa Romeo 6C 2500 SS Berlinetta Riva “La Serenissima” (1950)via Web Magazine OPENERS
冒頭では未来派美術家について記したが、エンジンとエグゾーストサウンドは、たびたび音楽家の心を動かした。
20世紀を代表する指揮者のひとり、ヘルベルト・フォン・カラヤン(1908-1989)もそのひとりだ。プライベートジェットを操縦するとともに、自動車好きでも知られていた彼はエンツォ・フェラーリに、このような手紙をしたためている。
ポルシェ75年&テノールの巨星が選ぶ「至高のエンジン音」──コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ2023が開催| Concorso d’Eleganza Villa d’EsteDESIGN AWARD FOR CONCEPT CARS & PROTOTYPES: Pagani Huayra Codalunga (2022)via Web Magazine OPENERS
「私があなたの12気筒サウンドを聞くとき、それは、いかなるマエストロもプレイできないハーモニーを解き放っています」
果たして次回は、どのような音が、このコモ湖畔でマエストロを心酔させるのか。湖畔における自動車園遊会の楽しみが、もうひとつ増えた。
ポルシェ75年&テノールの巨星が選ぶ「至高のエンジン音」──コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ2023が開催| Concorso d’Eleganza Villa d’EsteLancia Florida Coupé Pinin Farina(1955 : 手前)via Web Magazine OPENERS
申込み最短3時間後に最大20社から
愛車の査定結果をWebでお知らせ!
申込み最短3時間後に最大20社から
愛車の査定結果をWebでお知らせ!
愛車管理はマイカーページで!
登録してお得なクーポンを獲得しよう
「黄信号だ。止まろう」ドカーーーン!!! 追突されて「運転ヘタクソが!」と怒鳴られた…投稿に大反響!?「黄信号は止まるの当たり前だろ」の声も…実際の「黄信号の意味」ってどうなの?
「中古車を買いに来たら『支払総額表示』で売ってくれませんでした、詐欺ですよね?」 「別途費用が必要」と言われることも…! 苦情絶えないトラブル、どんな内容?
レクサス新型「最上級セダン」に大反響! 「デザインに驚いた」「“V8”の方がいい」「流麗でカッコイイ」の声も! “24年後半”発売の「LS」米国で登場!
「子供が熱を出したので障害者用スペースに停めたら、老夫婦に怒鳴られました。私が100%悪いですか?」質問に回答殺到!?「当たり前」「子供がいたら許されるの?」の声も…実際どちらが悪いのか
トヨタ新型「ミニアルファード」登場は? 「手頃なアルファードが欲しい」期待する声も!? 過去に"1代で"姿消した「ミドル高級ミニバン」があった!? 今後、復活はあるのか
申込み最短3時間後に最大20社から
愛車の査定結果をWebでお知らせ!
申込み最短3時間後に最大20社から
愛車の査定結果をWebでお知らせ!
店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!
みんなのコメント
この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?