普及しても希薄化しないブランド
クワトロ。じつにシンプルな言葉だが、この4文字は自動車の世界において屈指の、ある時代を象徴するイメージを伴う。ワルター・ロールとハンヌ・ミッコラが鎬を削った世界ラリーのマシン、BBCの人気ドラマの主人公の愛車、最近ではケン・ブロックのために造られたS1フーニトロン。いずれも、元祖クワトロや、それにインスパイアを受けたものだ。
そして、いまでもクワトロの名は、どこか神秘性を感じさせる。たとえ、アウディが自社モデルの大半にその名を持つ4WDシステムを設定し、そこには2.0Lクラスのありふれたファミリーセダンまでもが含まれているとしてもだ。
ワルター・ロールのエッセンスが、クワトロのサブネームを与えられたアウディには総じて吹き込まれている。ガレージに収まっているそれにも、街を走るそれにもだ。そうなると、ブランド力が希薄になりそうなものだが、そういうことは起きていない。クワトロというネーミングは、これほどありふれてさえ、パフォーマンスとオールラウンド性を主張するところがある。BMWやメルセデス・ベンツには、みられることのない現象だ。
いったい、クワトロとはなんなのか。その答えを求めて、われわれは強い風の吹くイングランド東部の沼沢地帯へクルマを走らせた。それも、元祖と最新のクワトロをだ。クワトロと自動車の世界、その両方の変化を同時に表そうというなら、これ以上の組み合わせはない。
クワトロの誕生は1980年
オリジナルのクワトロ10vは、ラリーカーと直接的な関係を持つロードカーだ。実際、これは伝説的なグループAマシンの前触れとして、1980年のジュネーブショーに登場した。ラリーカーはその後、同じ年の秋にデビューしている。
最新モデルのほうは、E−トロンGTだ。アウディのバッテリーEVラインナップにおいて、フラッグシップとなるスポーツモデルで、ポルシェ・タイカンとの共通点が多いクルマだということはご存知だろう。
いずれもクワトロを名乗る四輪駆動システムを積み、1980年以来、この名のメカニズムが特徴としてきた扱いやすいパフォーマンスを体現する典型的なクルマだ。E−トロンGTが、電動パフォーマンスカーが溢れるなかで、綺羅星のごときクワトロの遺産たちと同じようなものとなるのには苦労するだろうが、それでもこのクルマの登場は、アウディにとって意義深い。ブランドの象徴的なモデルが電動化するとしたら、それは明らかにこういう状況だといえる。
そうはいっても、まずはオリジナル・クワトロありきの話だ。ジャンルを確立したクルマであり、ここから話を進めていくのが理に適っている。それから、40年以上を経て登場したE−トロンGTに、クワトロの遺伝子は息づいているのか確かめてみたい。
80年代の雰囲気満点なクワトロ
キャラの立ったクルマであっても、頑固な昔ながらのファンにいまどきの流儀を受け入れさせるのは難しい。どんなクルマでも楽しめるというわけではない。トリガー式のドアハンドルから5気筒特有の響きまで、元祖クワトロにはそれに乗ることをスペシャルな体験にする要素があるのだ。
その思いは、シートに収まり、真円を描く細いステアリングホイールを握るとますます強まる。茶色いベロアのシートも、1980年代らしさ満点の欠かせないアイテムだ。
キーを捻り、スロットルペダルを軽く踏んで燃料をピストンへと送り込んでからスターターモーターを回すと、回りはじめたエンジンはスムースなパタパタ音を立て、声高ではなくかすかに5気筒の特徴を伝えてくる。
回転を上げると、その独特なサウンドはキャビンへと染み渡ってくる。クワトロの流儀に反する騒々しさや粗野な感じはなく、それでいて十分に、ボンネットの下には興味をそそる物件が潜んでいることを教えてくれるのだ。それに加えて、KKKのブロワーが上げるターボチャージャーのホイッスルのような音が、5速MTをシフトアップするたびに聞こえてくる。
現代でも通用するオリジナル・クワトロの実力
いまになってみると、とんでもなく速いクルマだとは感じない。200ps/29.0kg−mの5気筒がマークする0−100km/h加速タイムは7.1秒に過ぎない。ただし、それを達成するのは驚くほど簡単だ。
古いクルマで現代の交通事情の中を走ると、しばしばこちらが格下になり、おまけに世の中が突如として恐ろしいほど慌ただしく時間に追われるものになってしまったような感覚に襲われるが、クワトロに乗っていればそんな浦島太郎状態に陥ることはない。
フレキシブルなトルクカーブと最小限のターボラグ、さらには1287kgしかない車両重量のおかげで、どう走らせてもみごとなまでに楽なのだ。新車当時はフェラーリ308GTBに肩を並べる加速性能を誇ったクワトロも、現代にあっては、もはやスーパーカーイーターとはいえない。しかし、高速道路やA級道路のペースをキープする以上の能力をまだまだ発揮してくれる。
デリケートにしてダイレクト
とはいえ、本領を発揮するのはB級道路だ。繊細なステアリングとバランスのいいハンドリングを見せてくれる。
比較的サイドウォールの厚い205/60R15タイヤを履いていること、そしてエンジン重量が前車軸のさらに前へはみ出していることを考えると、ターンインがこの上なくシャープと言えないのは驚くことではない。アペックスへ向かっていく動きはややリア優勢の感覚だ。後ろが沈み込んで、ほとんどのコントロールは後輪が担い、前輪は方向決めのみに働いている感じだ。
だからといって、不安定で予測しづらい感じだというわけではない。油圧パワーステアリングの狙いが的確に決まるフィールは、最新の操舵系が思い出すべきものだ。そこにあるクルマとの一体感は、ブレーキにも味わえる。フロントがベンチレーテッド、リアがソリッドのディスクは、クワトロをきっちり制動するばかりでなく、ドライバーへ余すことなくインフォメーションを伝えてくれる。
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みんなのコメント
ベントレー、ポルシェ、ランボルギーニを巻き添えにして4000台焼いたからね。1年も納期待ってたオーナー可哀想。