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アメリカのレース史に初めて名を刻んだ「ポルシェ911」“カーナンバー18”

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アメリカのレース史に初めて名を刻んだ「ポルシェ911」“カーナンバー18”

Porsche 911

ポルシェ 911

アメリカのレース史に初めて名を刻んだ「ポルシェ911」“カーナンバー18”

1966年のデイトナ24時間で起こった奇跡

今回紹介する「ポルシェ911」は、アメリカのモータースポーツの歴史にその名を初めて刻んだ911として、現在はネイプルズにあるミュージアム「コリアー・コレクション」に展示されている。1966年のデイトナ 24時間レースにおいて、ゼッケン18番を掲げたこの911は、2.0リッターGTクラスで勝利を記録した。

フロリダ南西部ネイプルズは、椰子の木がそよ風にゆれ、 手入れの行き届いた芝生や公園が点在している。 美しいビーチが広がり、桟橋では釣りに興じる人の姿も見える、ここはメキシコ湾のビバリーヒルズとも呼ばれている場所だ。

ネイプルスはコリアー郡内にあり、その名は起業家で地主のバロン・コリアーにちなんで名付けられた。このコリアーの名前は、自動車マニアならば「コリアー・コレクション」として耳にしたことがあるのではないだろうか。

911の歴史にマイルストーンを打ち込んだ1台

このカーナンバー18のポルシェ911は、ブラックのボディにホワイトのストライプが描かれたのみ。煌びやかなクロームメッキや、派手なスポイラー類は一切装備していない。この911こそが、国際格式レースで初めてクラス優勝を飾った、911なのである。

このストーリーにおいて、紹介しておくべき人物がいる。まるでオペラの主人公のような名前をもつ「フリッツ・ジッティヒ・エンノ・ヴェルナー・フォン・ハンシュタイン」だ。当時、設立から18年だったこともあり、ポルシェ・ブランドは現在ほど知られておらず、まだ若いメーカーだった。ポルシェのレース監督だったフォン・ハンシュタインは、なんとかしてポルシェが成熟したメーカーであることを、世に知らしめようとしていた。

デイトナ24時間で優勝を目指していたポルシェ・ワークス

フォン・ハンシュタインは、デイトナ 24時間レースこそがポルシェに相応しい場だと考え、新型「906」の投入を決定。トップフィニッシュをサポートするため、さらに5台の「904カレラ GTS」も用意する。クラス優勝などはポルシェの眼中になかった。エースのハンス・ヘルマンとヘルベルト・リンゲが「906」のステアリングを握り、彼らの前には3台の最新型「フォードGT40 MKII」、そして8台のフェラーリ「250LM」と「365P2」が立ちはだかっていた。

フォン・ハンシュタインはライバルの動向を注意深く観察していた。当初、彼はGTクラスのエントリーに混じっていたブラックの911のことを、気にもとめていなかった。しかし、彼はその存在に気がついてしまう。「この911はどこから来たのだろう?」。この時点で911のアメリカにおける911の販売台数は数百台しかなかったのだ。

ライアンが手に入れたシャシーナンバー「300128」

シャシーナンバー「300128」の黒い911の最初のオーナーは、フロリダ州ジャクソンビルのポルシェ・ディーラーのハーバート・ブランデージ。これはアメリカに納車された2台目の911だった。彼は販売促進用のデモ車両として使用し、走行距離が3万マイルを超えた段階で販売を決める。

2番目のオーナーは、アトランタでフォルクスワーゲン・ディラーを経営し、ポルシェ・クラブ・オブ・アメリカ(PCA)の会員、ジャック・ライアンだった。彼はレース愛好家でもあり、このクルマであれば、レースに勝てるかもしれないと考えたのである。

ライアンはターゲットを1966年のデイトナ24時間レースに定めた。2.0リッターGTクラスは参戦数が伝統的に少なく、チャンスがあると考えたのだ。彼はPCAから2名の友人、ビル・ベンカーとリン・コールマンを集い、レースに向けて準備を進める。しかし、ポルシェ本社からの協力を取り付けることはできなかった。まだ911は市場に投入されて間もないモデルであり、さらに906のプロジェクトで手一杯だったのである。

ほぼノーマルのまま挑んだデイトナ24時間

その時点で911は、まだ産声をあげたばかり。ポルシェの開発部門を率いていたフェルディナンド・ピエヒは、1965年のラリーモンテカルロに911を投入し、ヘルベルト・リンゲとペーター・ファルクのコンビは5位入賞を果たしている。しかし、911での好結果はあくまでもテストの一環と考えられていた。

1965年夏に開催されたヒルクライムレースにおいては、エベルハルト・マーレが911で勝利しているが、同じように大きな注目を得ることはなかった。つまり、当時のポルシェ社内では誰も911でデイトナ24時間レースにエントリーするなど、思ってもいなかったのである。

チーム・ライアンに求められていたのは、とにかくスピーディに準備を進めることだった。まず助手席を取り外し、ハンドメイドのスポーツエキゾーストをセンター出しに装着。コクピットには簡易型のタルガバー(ロールケージ)が組み付けられ、バンパー下には夜間走行に備えて2基の追加ランプも装備した。ホイールサイズは市販モデルと同様に4.5 × 15インチのスチール製リムのまま。足回りやブレーキもパーツがなく、ベースのままとなっている。

911にはAMラジオアンテナとスピーカーが標準装備されていた。ラジオ関連パーツはそれなりの重量があり、レースにおいては重量増がタイムロスとなって跳ね返ってくる。チームがラジオを取り外していたのか、それとも走行中の楽しみとして使っていたのか、今となっては分からない。しかし、当時の写真を確認すると、アンテナが伸びているようにも見える。

走行距離3万マイルを超えていたボクサーエンジン

走行距離がすでに3万マイルを超えた市販仕様のボクサーエンジンを搭載した911が、デイトナ24時間に参戦することを知ったフォン・ハンシュタインは、すぐにドイツ本国のポルシェ本社=ツッフェンハウゼンに連絡する。

ポルシェ本社は、発売直後の911が大観衆が集まった国際レースでトラブルからリタイアしてしまうことを心配していた。この可能性は非常に高く、ピットで物笑いの種になり、一瞬にしてポルシェが築き上げた名声を失う可能性もあった。結果、ツッフェンハウゼンはフォン・ハンシュタインに、あらゆる手段を講じても911のエントリーを止めるように命じることになった。

ドライブを諦めて、そのまま家に帰るか? ライアンがそんな命令を飲むはずがなかった。

「これは私のクルマだ。私自身が参戦したんだ」と、ライアンはフォン・ハンシュタインからの要求をはねのけた。ライアンは合法的にクルマを手に入れ、規定に基づいてレーシングカーを製作、そして正式な手続きを経てエントリーを行い、デイトナの主催者も彼のエントリーを受理している。誰が彼の参戦を止めることができただろうか。

ツッフェンハウゼンにできることは何もなかったのである。ライアンから反撃を食らったフォン・ハンシュタインは、新たなプランを考えるしかなかった。彼の意志を挫けないならば、仲間に引き入れるしかない。

ノートラブルで24時間を548周を走破、総合16位を得る

ライアンの911の最高出力はわずか130ps。彼の計算では、安定した走行を続けることだけが、先頭に近づける手段だった。1966年2月5日午後3時、39番グリッドからスタート。けして速くはないが、着実にラップを重ねていく。彼らは勝利を考えず、ただひたすらフィニッシュだけを目指した。

パスしようとしたクルマにラインを譲り、大きなトラブルに見舞われることなく、3名のドライバーは6.132kmのトラックをひたすら走り続けた。

午後6時の段階でカーナンバー18の911は、総合33位につける。その3時間後には25位、翌日の午前8時には19位まで順位を上げていた。しかも、この時点で2.0リッターGTクラスのトップにつけていたのだ。彼らの奮闘に感動したフォン・ハンシュタインは彼らにトラブルが発生した場合に、ポルシェのファクトリーメカニックがサポートすると約束する。

しかし、カーナンバー18に手助けは必要なかった。911 はその後も正確な時計のようにラップを刻み、ルーティンの燃料補給、ドライバー交代、そしてタイヤ交換を繰り返した。その後は大きな波乱もなく、24時間548周を走行してフィニッシュ。総合16位、2リッターGTクラスで見事優勝を手にしたのである。この成績は、より強力なライバルを下しての大番狂わせだった。

そして、ワークス・ポルシェが手がけた906もクラス優勝を達成。優勝候補のフォード GT40 やフェラーリ 365P2 に続く、総合6位も得ている。

セブリング12時間でもトラブルを乗り越えクラス2位

ライアンは、その後セブリング12時間で再び911をドライブ。ピストントラブルが発生しながらも、クラス2位を得た。その後、この911は幾度となくオーナーが変わり、様々なレースに参戦。最後のオーナーとなったオハイオ在住のクリスチャン・ツーゲルが手に入れた後は、約40年間自家用車として使われている。

そして、ポルシェのモータースポーツの貴重な歴史を刻んだ黒いこの911は、オリジナルのエンジンとトランスミッションを搭載した状態で、ネイプルズの「コリアー・コレクション」に寄贈された。そして、現在でも素晴らしいコンディションを保ったまま、多くのファンに見守られている。

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