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フォルクスワーゲンのEV戦略にみる「本気ぶり」。自動車新時代へのシナリオを小川フミオが読み解く

掲載 更新 23
フォルクスワーゲンのEV戦略にみる「本気ぶり」。自動車新時代へのシナリオを小川フミオが読み解く

ピュアEV時代を見据えた大計画

ほんとうに、ピュアEVに大きく路線変更しないと、世界の潮流から外れてしまうのだろうか。2021年3月15日に、ドイツのフォルクスワーゲン本社は、オンラインで開催した「Power Day」なるプレス発表の場で、バッテリーの設計を見直すとともに製造工場を増やす企業戦略を発表した。大々的な計画で、フォルクスワーゲングループの本気ぶりがひしひしと伝わってくるものである。

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自動車といえばマルチシリンダーの高性能車がいいよね、というクルマ好きの気持ちはよく理解できる。それがつまらなければ、1世紀にわたって多気筒のスポーツカーが人気を集めてきた事実も存在しなかっただろう。一方、昨今はプラグインハイブリッド化を進めるスポーツカーメーカーが数を増やしているのも事実。テスラなどはいち早くピュアEVのスポーツカーを発表している。追随するメーカーも多く出てくるはずだ。

一般メディアの報道では、上記のようなことをふまえ、環境適合車といえばハイブリッドが中心でやっている日本メーカーの行く末を懸念する論調がある。ピュアEVにいま方向転換しなくて、企業の未来はだいじょうぶか、というのだ。しかし、ピュアEVのみになるのは、まだまだ先の話、とトヨタ自動車の豊田章男代表取締役執行役員社長兼CEOが談話を発表したのも、記憶に新しい。

EVの足かせとなるサプライヤー問題

はたで見ていても、いきなり大きくピュアEVの比率を増やすように大きく変えていくのもハードルが高そうだ。前記でトヨタを例にひかせてもらったついでに、最近のEVがらみの出来事を振り返ると、トヨタとレクサスのEV(マイルドハイブリッドを含む)がバッテリー(など)の外部からのパーツの供給不足で、生産が停滞したという“事件”が思い起こされる。

EVには、このようにバッテリーや半導体など、サプライヤーと関係した、やや不安定な要素があるのは事実。そこで、自社でバッテリー製造も手がければ生産がより計画的に行える、と考えたのがフォルクスワーゲンだ。しかも、車体とともに設計すれば、外寸や重量や性能など、モデルにあわせて最適化ができる。もちろんコストも、自社の車両生産計画を見据えながら、(ある程度)コントロールできる。そんなことを「Power Day」においてフォルクスワーゲンAGのエキスパートたちが教えてくれたのだ。

バッテリー会社へいち早く出資

「Power Day」で紹介されたのは、2030年までのフォルクスワーゲンのロードマップ(製造や販売を含めた経営方針)。フォルクスワーゲンでは、バッテリー製造とリサイクルの計画をかなり大々的に進めている。ひとつは、すでに新聞やウェブで報道されているスウェーデンの「ノースボルト社(North Volt AB)」に委託するバッテリー生産計画を拡大すること。

テスラのCPO兼サプライチェーンの責任者を務めていたスウェーデン人のペーター・カールソン氏が2016年に設立したノースボルトは、外部から資金を調達してバッテリーの開発や生産を請け負う。フォルクスワーゲンは早い段階から出資していた企業のひとつだ。同時にノースボルトでは、製造したバッテリーのリサイクル計画(サーキュラーエコノミーなどと呼ばれる)を画策するのも、重要な仕事としている。

バッテリー用ギガファクトリーを6ヵ所に

フォルクスワーゲンとともにノースボルト社はバッテリー生産設備を拡張し、40ギガワット時の生産目標を発表した。同時にフォルクスワーゲンでは「2030年までに欧州に6つのバッテリー生産のギガファクトリーをつくりあげます(技術担当重役のトマス・シュマル氏)」と発表。「6つ合わせて年産240ギガワット時をめざします」と言う。

「これによって、欧州グリーンディールに適合した数値の達成が可能です」とシュマル氏。欧州グリーンディールとは、2050年に欧州の気候を中立にするという包括的な目標を掲げた欧州委員会による一連の政策イニシアチブ。2030年の時点では、EUの温室効果ガス排出削減目標を少なくとも50%まで引き上げる計画もあるそうで、今回のVWのEV推進はこの動きを見据えてのものなのだ。

EV普及のカギを握る全固体電池開発

同時に、バッテリー自体の性能アップも重要なテーマ。さきにノースボルト社のところでも触れたとおり、バッテリーのリサイクリングや、製造工程において環境負荷を低減すること(アウディでは太陽光を使ってバッテリーを製造する計画を発表ずみ)が、今後、もうひとつの重要な課題になってくると想定されている。

「Power Day」においてフォルクスワーゲンでは、これからソリッドステートバッテリーの開発を急ぐ、と発表した。

「メリットは、充電時間は短く、航続距離は長く、そしてコストを抑えて作れるという、いまの段階でネガが見つからないものです。コストだけみても、エントリーレベルの車載用では50%減、ボリュームレベルにおいては30%減が見込まれます。平均すると、バッテリーコストを1kWhにつき100ユーロ(約1.3万円)下げるのが目標です。23年に車載を予定していて、30年までにフォルクスワーゲングループの車両の80%に、ソリッドステートバッテリーを使う予定です」 とシュマル氏は語る。

もうひとつのピュアEV用プラットフォーム

2021年3月16日にフォルクスワーゲンAGはもうひとつの発表を行った。それはここで紹介してきたバッテリーをめぐる計画を含めた、もっと包括的な「プラットフォーム戦略」である。ひとつは、将来フォルクスワーゲン車のパーツ共用化がより強く進められること。

ピュアEVに関しては、いまMEBというプラットフォームをフォルクスワーゲン ID.シリーズ(日本未発売)やアウディ Q4 e-tronなど傘下のブランドが共用している。一方、アウディを例にとってもe-tronやe-tronスポーツバックはMLB-evoなるガソリン車のシャシーに手を加えたものを使っているのだ。

「MEBプラットフォームを使うピュアEVモデルのラインナップをより拡充し、欧州、北米、中国など世界中のマーケットに向けて販売を拡大していきます」。 フォルクスワーゲンAGはプレスリリースに書く。

「もうひとつ、PPE(プレミアム・プラットフォーム・エレクトリック)という新しいピュアEV用プラットフォームを使ったニューモデルを2022年初頭には送り出す予定です。このプラットフォームを使うと加速性により優れ、航続距離が延び、充電時間が短くなります。そのさきにはSSP(スケーラブル・システムズ・プラットフォーム)という新しいプラットフォームを導入する予定です。このプラットフォームだけですべての車種に対応できる、そういう設計です」

カーシェアやサブスクにも意欲的

フォルクスワーゲンによると、生き延びていくためにはハードウェアをはじめソフトウェア、バッテリー、充電、そしてモビリティサービスが、企業にとって重要なプラットフォームになるというのだ。モビリティサービスには、カーシェアリングやフォルクスワーゲンバンク(計画中)と組んでのサブスクリプションサービス(一種のリース)なども含まれるようだ。

「フォルクスワーゲンは包括的なプラットフォーム戦略によって、競争に勝利することを考えています。すぐれたソフトウェア開発こそ、これからの自動車業界で生き残るための重要なファクターなのです」

フォルクスワーゲングループを率いるヘルベルト・ディースCEOは、自信たっぷりにそう述べた。

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みんなのコメント

23件
  • VWにとって、日本の隣国の信頼性に欠ける電池メーカーに依存するわけにはいかないという切実な問題があった。そこで自社調達に舵を切ったのだろう。隣国の電池メーカーはいま大慌てだと思います。
  • で、PPEなるものを使ったら、何分の充電で何km走れるようになるんだ? コンセプトはいいから、数値を出してくれよ。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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